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アンソロピック、10月に2兆ドル上場の観測 — 米国株のリスクは上場後の値崩れ

「アンソロピックが10月にも上場、評価額は2兆ドル」。8月20日の日経にこの観測記事が載った。実現すれば、6月のスペースXを超える規模の上場になる。米国株を持っている自分は、これだけ大きな上場に資金が向かえば、その分だけ手持ちの株が売られるのではないかと心配になった。公開されている数字と、2か月前のスペースXの上場で実際に起きたことを突き合わせた。

上場で市場から吸い上げられる資金は600億〜1,600億ドルほどで、米国株全体の時価総額の0.1〜0.2%にとどまる。米国株にとっては、上場後の値崩れのほうが大きなリスクになる。スペースXは上場3日目の高値から8月5日までに52%下げ、アマゾンは4〜6月期に、主にアンソロピックへの出資から534億ドルの利益を計上している。

アンソロピックの2兆ドル上場観測が米国株に与える影響

6月の非公開の上場申請から、10月・2兆ドルの観測まで

今年の6月は、巨大な未上場企業が相次いで上場に動いた月だった。8月20日までの流れは次のとおり。

2026年5月28日
アンソロピックが650億ドルを調達。評価額は9,650億ドル。
2026年6月1日
アンソロピックが、上場申請書類(S-1)の草案を米証券取引委員会(SEC)に非公開で提出したと発表。
2026年6月8日
OpenAIも、S-1を非公開で提出したと公表。早ければ10〜12月期の上場とされた。
2026年6月12日
スペースXがナスダックに上場。調達額は750億ドルで、6月15日に引受会社が追加の売り出しを実行して857億ドルになった。2019年のサウジアラムコ(追加分を含めて294億ドル)の約2.9倍で、過去最大の上場になった。
2026年8月13日
アンソロピックのCFOが投資家との事前の会合を始めたとCNBCが報道。英紙FTは、出資者の一部が10月に評価額2兆ドル以上での上場を予想していると伝えた。2兆ドルは投資家の見積もりで、会社が示した数字ではない。
2026年8月20日
日経が「アンソロピックに2兆ドルIPO観測」と報道。4〜6月期の売上高は115億ドルで前年同期の14倍以上、営業損益は黒字とされた。

3社の数字を並べると次のようになる。アンソロピックとOpenAIの欄は報道に基づく。

項目 スペースX(実績) アンソロピック(観測) OpenAI(観測)
上場時期 2026年6月12日 2026年10月ごろ 2027年にずれ込む見方
評価額 1.77兆ドル(公開価格135ドル) 2兆ドル以上(投資家の見積もり) 8,520億ドル(3月の資金調達)
調達額 750億ドル(追加の売り出しを含めて857億ドル) 未定 未定
直近の売上規模 2025年に187億ドル 4〜6月期に115億ドル(前年同期の14倍以上)。調整後の営業損益は黒字(いずれも速報値) 年換算で約250億ドル(2026年2月の報道)。赤字

5月の資金調達の評価額は9,650億ドルだったので、観測どおりなら5か月ほどで評価額が2倍になる。出資者の間では、年末までに年換算の売上高が1,000億〜1,200億ドルに達するという見方があり(Fortune(2026年8月13日))、この見方が2兆ドルの土台になっている。日経は、中国などの低価格のAIモデルの利用が増える中で、成長が鈍る兆しも出ていると書いている(日本経済新聞(2026年8月20日))。

スペースX上場の6月に下げた大型ハイテク株と上がった半導体株

巨大な上場で他の株が売られるのかという疑問には、2か月前の実例がある。スペースXは6月11日に公開価格を135ドルに決め、12日の初日は19%高の160.95ドルで引けた(CNBC(2026年6月12日))。上場3日目の6月16日には取引時間中に225.64ドルまで上がり、時価総額は一時3兆ドル近くになった。その後は3営業日続けて下げ、6月22日の終値は154.60ドル、6月末は170.86ドルだった。

6月の1か月で、S&P500は1.06%、ナスダック総合は2.81%下げた。仕組みを考えると、上場で資金が抜けることは確かにある。上場の株に申し込む機関投資家や個人は、多くの場合、手持ちの株を売るか、待機資金を置いておく投資信託(MMF)を取り崩して買い付け代金を用意する。750億ドルの買い付け代金は、その分の株や待機資金から出てきたことになる。

ただ、売られた株は一様ではなかった。6月にマイクロソフトは17.2%、ブロードコムは15.3%、アマゾンは11.9%下げたが、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は11.1%、マイクロンは18.9%上がった。SOXが1日で10%下げたのは上場の1週間前の6月5日で、上場とは別の動きだった(SOX半導体指数が1日で10%下げた日の記事)。6月の値動きのうち、どれだけがスペースXの上場によるものかは、この数字からは切り分けられない。

吸い上げの規模は600億〜1,600億ドル、米国株全体の0.1〜0.2%

アンソロピックの上場でいくら吸い上げられるかは、評価額のうちどれだけの株を売り出すかで決まる。米国のベンチャー投資家Tomasz Tunguz氏は2月の分析で、スペースX・OpenAI・アンソロピックの3社の上場に要る買い付け資金を試算した(Tomasz Tunguz氏の分析(2026年2月23日))。売り出す株の比率を通常の15〜20%にすると4,320億〜5,760億ドルで、2016〜2025年の米国の上場で集まった資金の合計(4,690億ドル)とほぼ同じ額になる。

このため同氏は、各社が売り出す比率を3〜8%に抑えるとみている。この試算は、アンソロピックの評価額を当時の3,800億ドルとして計算している。

評価額2兆ドルの3〜8%なら600億〜1,600億ドルになる。大きな金額だが、米国株全体の時価総額(約75兆ドル)の0.1〜0.2%にあたる。スペースXの750億ドルもこの範囲に入る。上場の前後の売りで相場全体が崩れることはなく、株価に表れるのは、上場の前後の数週間に買い付け代金を用意する人たちが大型ハイテク株を売る場面だと見ている。

S&P500は1年以上先、ナスダック100は15営業日後の組み入れ

上場した株が株価指数に入ると、指数に連動する投資信託やETFは、同じ指数のほかの銘柄を比率どおりに売って、その株を買う。この売買の時期は指数ごとに違う。

S&P500に入るには、3つの条件がある。市場で売買できる株が発行済みの10%以上あること、上場から12か月以上たっていること、会計基準(GAAP)の純利益が直近の四半期と直近4四半期の合計の両方で黒字であることだ。S&P500を算出する会社は、大型の上場を早く入れるかどうか意見を募ったうえで、6月4日にこの基準を変えないと決めた。売り出す株が3〜8%なら、アンソロピックは1年たっても株数の条件に届かない。

ナスダック100は、3月30日に改めた規則で、時価総額の大きい新規上場の株を上場から15営業日で組み入れる仕組みだ。スペースXは7月7日にナスダック100に入り、その日の株価は6.8%下げた。アンソロピックもナスダックに上場すれば、1か月足らずで指数に連動する資金の買いと、ほかの構成銘柄の売りが出てくるはずだ。ただし組み入れの比率は市場で売買できる株の分だけで計算するので、売り出しが5%なら、評価額2兆ドルでも指数の中の重みは1,000億ドル分にとどまる。

もう一つの売りの波は、上場前からの株主が株を売れるようになるロックアップの解除だ。スペースXでは、マスク氏ら内部の株主は上場から366日、そのほかの上場前の投資家は180日を基本に、決算発表などに合わせて段階的に売れるようになる。株の供給は上場の日に一度来て終わりではなく、指数への組み入れとロックアップの解除に分かれて、1年以上続く。

上場後の値崩れ — スペースXの52%安と、出資者の決算に入った評価益

個人的に、吸い上げより気にしているのは上場の後の値動きだ。スペースXは上場3日目の6月16日に取引時間中の高値225.64ドルをつけた後、8月5日の終値は108.27ドルまで下げた。高値から52%安く、公開価格の135ドルも2割下回った。8月19日の終値は139.65ドルで、公開価格をわずかに上回る水準にいる。

アンソロピックの株に毎日値段が付くようになると、その値段は出資者の決算に入る。アマゾンは出資先の株を時価で評価しており、7月30日に発表した4〜6月期の決算には、主にアンソロピックへの出資から生じた534億ドルの営業外の利益が入っている。アルファベットも4〜6月期に、主にアンソロピックとスペースXの株から990億ドルの利益を計上した。上場後にアンソロピックの株価が出資者の評価額を下回れば、この利益は逆に損失として決算を削る。

マイクロソフトとOpenAIの関係は形が違う。マイクロソフトはOpenAIへの出資を、持ち分に応じてOpenAIの損益を取り込む方法で会計処理しており、評価額が上がるたびに利益を計上してきたわけではない。国内では、ソフトバンクグループの4〜12月期の純利益3.2兆円のうち2.8兆円がOpenAIへの投資の利益だった(ソフトバンクグループ(9984)のOpenAI投資を整理した記事)。OpenAIが上場すれば、この利益にも毎日の株価が付く。

もう一つの経路は、上場を見込んだ先回りの買いの巻き戻しだ。AI関連では、エヌビディアの好業績が周辺のメモリや電力、データセンターの銘柄まで押し上げてきた(エヌビディアのGPU貸し出しを確かめた記事)。上場が延びたり、上場後の株価が公開価格を割り込んだりすれば、期待で買われた分が売られやすい。OpenAIの上場が2027年にずれ込めば、アンソロピックの上場、OpenAIの上場、両社のロックアップの解除と、AI企業の大きな株の供給が1年半ほど続く日程になる。

10月の答え合わせに向けた3つのシナリオ

ここから先は、現時点の事実に加えて個人的な予測を多く含む。

シナリオ 想定する市場の動き
基本シナリオ 10月に上場し、初日は堅調で、その後は大きく上下する。上場の前後の数週間は、買い付け代金を用意するための大型ハイテク株の売りで指数の上値が重い。スペースXと同じく、上場の数日後に高値をつけてから下げる。
強気シナリオ 公開価格を大きく上回って落ち着く。黒字のAI企業に2兆ドルの値段が付いたことで、AI関連全体の株価の水準に裏付けができ、アマゾンなど出資者の利益も増える。吸い上げの売りを打ち消して、AI関連の株が再び上げる。
弱気シナリオ 上場の延期、または公開価格割れ。未上場のときの評価額は高すぎたという受け止めが広がり、AI関連の株が全体に売られる。出資者の利益が減る心配と、先回りの買いの巻き戻しが重なる。

いちばん起きやすいのは基本シナリオだと考えている。強気と弱気の分かれ目は、2兆ドルという値段に市場がどう答えるかで、上場の前には読み切れない。あくまで個人の予想だが、上場の前は、エヌビディアが8月26日に決算を出した後もAI関連の株価が保てるかを見る。上場の後は、初日ではなく2週目以降の値動きを見るつもりだ。スペースXの高値も上場3日目だった。

まとめ

アンソロピックの上場で吸い上げられる資金は、米国株全体から見れば小さい。指数に連動する資金の売買は、上場先がナスダックなら1か月足らずで来るが、S&P500への組み入れは1年以上先になる。米国株にとって大きいのは上場後の値崩れで、アンソロピックの株価が出資者の評価額を下回れば、アマゾンやアルファベットの利益が減り、先回りの買いの巻き戻しも重なって、AI関連の株全体に売りが広がりやすい。

この記事は観測報道の段階で書いている。10月に上場が実現したら、公開価格、初日の値動き、その後2週間のAI関連銘柄の騰落、アマゾンとアルファベットの7〜9月期の評価益を確かめ、この記事に答え合わせを追記する。

出典: 日本経済新聞「アンソロピックに2兆ドルIPO観測」(2026年8月20日)、Fortune(2026年8月13日)、CNBC(2026年8月13日)、CNBC(2026年6月12日)、Tomasz Tunguz氏の分析

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

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