- SOX(フィラデルフィア半導体株指数)は6月5日に10.3%下げ、半導体株の時価総額は1日で約1兆ドル(約160兆円)減った。2020年3月以来の下落幅で、きっかけはブロードコムのAI半導体の見通しが期待に届かなかったことと、予想の2倍を超えた米雇用統計で利上げ観測が強まったことだ
- 同じ6月5日の東証33業種は22業種が上がり、下げたのは電気機器・非鉄金属・化学など11業種だった。金利上昇が追い風になる銀行・保険と、海運や建設にお金が回っている
- 金曜の米国の下げを東京市場が織り込むのは月曜(6月8日)からになる。日経平均は半導体株の寄与(指数を動かす影響力)が大きいので指数は大きく下げやすいが、市場全体が同じだけ悪いわけではない
目次
フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は2026年6月5日(金)の米国市場で10.3%下げた。2020年3月のコロナショック以来の下げ幅で、半導体株の時価総額は1日で約1兆ドル(約160兆円)減っている。発端は6月3日(水)の引け後にブロードコム(AVGO)が出した決算だ。売上も利益も伸びたのにAI半導体の見通しが市場の期待に届かず、翌4日の株価は12.6%安になり、5日には予想の2倍を超える米雇用統計が重なった。
ところが同じ日にコカ・コーラは3.5%上がり、保険株や日用品株も買われている。売られたのは半導体とAI関連で、それ以外にはむしろお金が流れ込んでいた。
ブロードコムの見通しと雇用統計、重なった2つの悪材料
決算の数字より見通しで売られたブロードコム
ブロードコムが6月3日の引け後に出した2〜4月期(2026年度第2四半期)は、売上高221.9億ドル、調整後の1株利益2.44ドルだった。利益は予想の2.40ドルを上回ったが、売上は予想の222.7億ドルをわずかに下回った。問題は見通しだ。5〜7月期のAI半導体の売上見通しは160億ドルと、アナリスト予想の172億ドルに届かなかった。2027年度に1,000億ドル超というAI半導体売上の目標も据え置きで、市場が期待していた上積みはなかった。
AI向けの売上は前年の2.4倍に増えている。伸びていても期待に届かなかった、それだけで株は売られた。この日に売られたのはブロードコムとメモリのマイクロン、アームなど一部で、エヌビディアやTSMCは上がっている。木曜の段階では、失望は1社にとどまっていた。
雇用統計で「利下げ」から「利上げ」に変わった前提
金曜21時30分(日本時間)に出た5月の雇用統計で、非農業部門の雇用者数は17.2万人増と、市場予想の8万人増の2倍を超えた。労働市場がここまで強いと、FRB(米連邦準備制度理事会)は利下げどころか年内に利上げするかもしれない。先物市場が織り込む年内の利上げ確率は70%に上がり、10年物国債の利回りは4.54%と5月21日以来の高さになった。ドル円は160円台に乗せた。
高いPER(株価収益率)で買われてきた半導体・AI株にとって、利上げ観測はいちばん痛い材料だ。木曜に1社の失望で傷んでいたところにそれが重なり、SOXは10.3%の下げになった。
銘柄で差が大きい10%下落の中身
SOXが10%下げたと聞くと、全銘柄が同じように下げたと思いがちだが、銘柄ごとの差は大きい。ブロードコムは木曜の12.6%安に続いて金曜も7.9%安で、2日間で19.5%下げた。
| 銘柄 | 6/5 前日比 | 備考 |
|---|---|---|
| ブロードコム(AVGO) | -7.9% | 2日間で-19.5%。AIの見通しが期待に届かなかった |
| エヌビディア(NVDA) | -6.2% | 時価総額約3,300億ドル(約53兆円)が1日で減った |
| マイクロン(MU) | -13.3% | 木曜の-7.7%と合わせて2日間で-20.0%。メモリ需要への心配 |
| アーム(ARM)/インテル(INTC) | -12.8% / -11.3% | AI半導体の銘柄が連鎖的に売られた。TSMCも-6.7% |
| メタ(META) | -5.5% | 数百億ドル規模の増資を検討との報道が重なった |
同じ金曜日に上がった銘柄もある。コカ・コーラ(KO)は3.5%高で、保険株や日用品のような生活に近い業種の株も買われた。お金が半導体から別の業種に移った一日だった。
東証33業種は22業種が上がり、下げたのは半導体と素材の11業種
日本市場ではどうだったか。東証の33業種の指数で確かめる。この指数は業種ごとの勢いで売買する戦略の検証にも使った、自分のデータベースに2006年分から入れている日次のデータだ。
6月5日は海運・保険・銀行が上昇、電気機器と非鉄金属が下落
6月5日(金)の東京市場が織り込めた材料は、木曜のブロードコムの急落までだった。この日の33業種は、電気機器が1.50%安、非鉄金属が2.50%安、化学が1.37%安、金属製品が1.33%安と、半導体と素材の業種が下げた。上がったのは海運業(4.01%高)、その他製品(1.97%高)、保険業(1.46%高)、不動産業(1.43%高)、銀行業(1.15%高)、建設業(1.12%高)などで、22業種が上昇、11業種が下落だった。
半導体と素材が売られた分のお金が、金利上昇が追い風になる銀行・保険と、配当の高い株が多い海運・建設に流れた形になっている。
3日間で見ると、水曜に上げて金曜に下げた業種
1日だけでは偶然かもしれないので、水曜から金曜の3日間を並べた。
電気機器は6月3日(水)に3.9%上げてから、木曜0.8%安、金曜1.5%安と2日続けて下げた。非鉄金属も5.7%高のあと3.3%安、2.5%安と反転している。水曜の上げは半導体相場の最後のひと押しで、それが木曜と金曜に巻き戻された。銀行業は3日とも上がり(2.7%、0.7%、1.2%)、保険業は木曜に1.6%下げてから金曜に1.5%戻した。海運業は木曜1.1%高、金曜4.0%高と2日続けて買われている。3日間を通して見ても、半導体・素材から金融と内需への流れは方向がそろっていると判断している。
半導体だけが売られた3つの理由
下げを大きくしたオプションの持ち高の解消
SOXの下げが1日で10%になった背景には、オプション市場の持ち高がある。木曜までは値上がりに賭けるコールオプションが大量に積み上がっていた。金曜の下落でその持ち高が一気に解消され、オプションを売っていた証券会社側はリスクを抑えるために株を売らざるを得なくなる。株価が下がるほど機械的に売りが増える状態になっていた。業績が悪くなったわけではない。多くの参加者が同じ方向に賭けすぎていたことが、下げを大きくした。
利上げ観測で崩れた「高くても買える」前提
半導体・AI株は将来の利益が大きく伸びるという期待で、高いPERが許されていた。金利が低いうちは、遠い将来の利益を今の価値に換算しても大きく見える。金利が上がると換算の割引が大きくなり、遠い将来の利益ほど小さく見積もられるので、利上げ観測は半導体株にいちばん痛い材料になる。
銀行と保険には、この金利上昇が追い風になる。銀行は貸出金利が上がれば貸出金利と預金金利の差が広がり、保険会社は保険料を運用する債券の利回りが上がって運用収益が増えるからだ。5月に日本の長期金利が2.7%を超えたときも、1か月で銀行が4.4%上がり、不動産は8.5%安だった。半導体から出たお金の一部は、金利の変化に沿って銀行と保険に向かった。
「予想どおりの好決算」では株価を保てない段階
ブロードコムの決算自体は悪くない。AI向けの売上は伸びていて、2027年度の目標も変えていない。半年前なら十分に強い数字だが、市場はそれ以上を期待していた。期待がここまで上がると、予想どおりの好決算では株価を維持できず、期待を超え続けないと下がる。過去の相場でも繰り返されてきた段階だ。AIバブルのリスクは株価の割高さより「稼ぎすぎ」がはがれることにあると先週書いたが、ブロードコムの一件は、稼ぎの伸びに最初の疑問符が付いた例に見える。
営業キャッシュフローの6〜8割に達した巨大ITの設備投資と、動き始めた増資
金曜にはもう一つ、見逃せない報道があった。フィナンシャル・タイムズが、メタ(META)が数百億ドル規模の新株発行を検討していると伝え、株価は5.5%下げた。メタは「憶測にすぎない」とコメントしている。
メタだけの話ではない。アルファベット(GOOGL)は6月1日に800億ドルの株式による資金調達を発表し、需要が多かったため847.5億ドルに増額した。バークシャー・ハザウェイが100億ドルを引き受ける。この850億ドルの増資を含め、アルファベット、マイクロソフト、アマゾン、メタの4社が2026年に計画する設備投資は合計で最大7,250億ドル(約116兆円)に達する。
各社の1〜3月期のキャッシュフローを見ると、事情がはっきりする。アマゾンは営業キャッシュフロー(事業で稼いだ現金)260億ドルに対して設備投資が442億ドルで、182億ドル足りなかった。アルファベットは458億ドルの営業キャッシュフローのうち357億ドル(78%)を、マイクロソフトは467億ドルのうち309億ドル(66%)を、メタは322億ドルのうち190億ドル(59%)を設備投資に回している。
赤字はアマゾンだけだが、ほかの3社も事業で稼ぐ現金の6〜8割をAIの設備に使っていて、投資をさらに増やすなら外から資金を集める必要が出てくる。
需要そのものは本物だ。グーグルはスペースXに月額9.2億ドル(約1,470億円)を払って、エヌビディアのGPU約11万基分の計算能力を32か月借りる契約を結んだ。総額は約294億ドルになる。計算能力を買う側が、自前の設備では間に合わずに他社から借り、その資金を株式で集める。AIへの投資が、事業の稼ぎだけでは回らない規模に近づいている。
新株を発行すると、既存の株主の持ち分は薄まる。株を売って現金を作るわけだから、株を買いたい人と売りたい人の力関係(需給)は悪くなり、株価は下がりやすい。メタの株価が報道の出た日に5.5%下げた理由もここにある。
月曜の東京市場の見方
ここから先は、6月7日(日)時点の事実に加えて、個人的な予測を多く含む。
金曜のSOXの10%安は、日本時間では土曜早朝の出来事だった。月曜(6月8日)の東京市場が、この下げを株価に反映する最初の場になる。
半導体の寄与が大きく、見た目以上に下げやすい日経平均
日経平均は株価の高い銘柄ほど指数を動かす力(寄与度)が大きい。いまの寄与度の上位はアドバンテスト、東京エレクトロン、ソフトバンクグループで、この3銘柄だけで指数の3割を占める。4月に採用されたキオクシアも半導体だ。半導体が大きく下がれば、日経平均は市場全体より深く下げる。
6月5日の東証の電気機器は1.5%安だったが、これは木曜のブロードコムの急落への反応で、金曜のSOXの10%安はまだ株価に入っていない。あくまで個人の予想だが、月曜の電気機器は金曜の下げを大きく超える下落になると見ている。
3日間の値動きに出ているお金の行き先
| 方向 | 業種 | 背景 |
|---|---|---|
| 売られやすい | 電気機器、非鉄金属、化学、精密機器 | 半導体と素材は米国のSOXに連動して売りが出やすい |
| 買われやすい(金利の追い風) | 銀行業、保険業 | 貸出金利と預金金利の差が広がり、運用利回りが上がる |
| 買われやすい(内需・高配当) | 海運業、建設業 | 配当が高く、半導体と逆の動きになりやすい |
ただし、米国の下げ幅がここまで大きいと、初日は金融株も一緒に売られることがある。6月4日(木)に保険業が1.6%下げてから翌日に1.5%戻したように、初日は全体安、2日目以降で業種の差が出る展開もあり得る。
「恐怖」に入った米国のセンチメント
CNNの「恐怖と欲の指数」(市場参加者の心理を0〜100で示し、50前後が中立、低いほど恐怖が強い)は、金曜に「恐怖」の帯に入った。前日は「中立」だったので、1日で急変したことになる。恐怖に入ったからすぐ反発するわけではないが、みんなが怖がっているときは売りが行き過ぎることもある。個人的には、月曜の東京市場で電気機器が3〜5%下げれば、過去の値動きから見て短期的には売られすぎの水準に入ると見ている。
【2026年8月20日追記】週明け6月8日(月)の日経平均は前週末比2,563円安(3.85%安)の64,024円で引け、取引時間中は一時3,000円を超える下げになった。この記事で置いた「1,000円安」の目安の倍以上だ。
東証の電気機器は5.9%安と、売られすぎの目安に置いた「3〜5%」を下に突き抜け、翌9日には3.1%戻している。保険業は下げの初日から2.0%高と買われ、銀行業は1.5%安と一度つられて下げたあと9日に1.5%高と切り返した。「初日は全体安、2日目以降で業種の差が出る」という見方にほぼ沿った展開だった。
半導体から金融と内需へ移ったお金
手元の業種指数のデータで見る限り、半導体だけが10%下げて食品や保険が上がる日は、テーマの賞味期限が切れかけているときに出る動きだ。AIの需要そのものは本物で、グーグルがスペースXに月9.2億ドルを払って計算能力を借りる契約がそれを示している。ただ、半導体株の株価にはその需要が「永遠に加速し続ける」前提が織り込まれていた。
ブロードコムの「予想どおりの好決算なのに2日で2割安」は、その前提が崩れ始めたことを示している。巨大ITの設備投資は営業キャッシュフローの6〜8割に達し、アマゾンは足りない分を外から調達する段階に入った。増資はその表れだ。巨大ITが設備投資を減らせば、その分がそのまま半導体メーカーの売上減になる。
今回の下げは、株式市場全体からお金が逃げたものではない。半導体・AI関連から、金利が追い風の銀行・保険と、配当の高い海運・建設へお金が移った。月曜の東京市場ではSOXの10%安という数字が日経平均を大きく押し下げるだろうが、半導体株の寄与が大きいぶん、日経平均の見た目ほど市場全体が悪いわけではない。
自分は次の3つを確かめる。月曜に半導体と一緒に金融株も売られるか、火曜以降に業種の差が出るか、そして6月10日の米消費者物価指数で利上げ観測がさらに強まるかだ。
注意: 本記事は2026年6月7日(日)時点の情報に基づいている。月曜日以降に市場が実際にどう動くかは、週末のニュースや地政学的な出来事で大きく変わることがある。記事中の業種別のデータは東証33業種指数の日次の騰落率で、個別銘柄の値動きとは異なる場合がある。
出典: 米ナスダック総合4%安、関税ショック以来 半導体株に警戒(日本経済新聞、2026年6月6日)、Broadcom (AVGO) earnings report Q2 2026(CNBC)、Meta's stock sinks on report company could raise tens of billions(CNBC)、Google to pay SpaceX $920 million a month for compute(CNBC)
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。