X Facebook LINE Bookmark

イラン攻撃の続報 100ドルを超えた原油と、「低」に下げた早期収束の見込み

イラン攻撃の続報。原油は100ドルを超え、早期収束の見込みを低に下げた

米国時間の3月13日夜、米軍はイランのカーグ島を爆撃した。イランの原油輸出の9割超が積み出される島だが、壊したのは軍の施設で、石油の積み出し設備には手を付けなかった。トランプ大統領は、イランがホルムズ海峡で船の通行を妨げ続けるなら、この判断を見直すと警告している。

3月2日の記事で3つのシナリオを立ててから2週間で、強硬派とされるモジタバ・ハメネイ師が最高指導者に選ばれ、原油は100ドルを超えた。前回いちばん起こりやすいとした「限定的な消耗戦」は今も本線だが、中身は想定より悪い。早期収束の見込みは「低〜中」から「低」に下げ、米国が自分から停戦に動く4つ目の筋書きを足した。

開戦から2週間の出来事

3月9日
最高指導者を選ぶ聖職者の組織である専門家会議が、故アリー・ハメネイ師の息子のモジタバ師を選んだと、国営メディアが伝えた(現地は8日夜)
3月9日
WTI原油が2022年以来の100ドル超えとなり、一時119ドル台まで上げた。日経平均は2,892円安。米国時間にトランプ大統領が戦争はほぼ終わったと述べると、原油は80ドル台まで下げた
3月10日
日経平均は1,520円高の54,248円と大きく戻した
3月11日
IEA(国際エネルギー機関)が、過去最大の4億バレルの石油備蓄の放出を決めた
3月12日
モジタバ師が最初の声明で、米国とイスラエルへの報復を誓った。ペゼシュキアン大統領は、戦争を終える3つの条件を示した
3月14日
米軍がカーグ島の軍事施設を爆撃した(米国時間13日夜)。石油の積み出し設備は攻撃しなかった
3月15日
トランプ大統領が、カーグ島を「あと何回か」攻撃するかもしれないと述べた(米国時間14日)

2週間で、体制が崩れて早く停戦するという見方はほぼ消えた。

強硬派の新しい最高指導者と、下げた早期収束の見込み

モジタバ・ハメネイ師(56歳)は、2月28日の攻撃で死亡したアリー・ハメネイ師の息子で、革命防衛隊(IRGC)とのつながりが深く、父より強硬とされる。これまで表に出ることが少なかった人物で、選出が伝えられた後も公の場に姿を見せていない。3月12日の最初の声明は国営テレビのアナウンサーが読み上げたもので、米国とイスラエルへの報復を誓い、ホルムズ海峡の封鎖を交渉の材料として使い続けるとした。トランプ大統領は、この選出に失望したと述べている。

前回の記事では、モジタバ師を有力な後継候補に挙げていた。同時に、早期収束(シナリオ①)の根拠の一つとして、イラン国内の穏健派が停戦を受け入れる可能性を置いていた。強硬派が後を継いだことで、この根拠はほぼなくなった。①の見込みは「低〜中」から「低」に下げる。

3月12日には、ペゼシュキアン大統領が戦争を終える条件として次の3つを示した。

  1. イランの「正当な権利」を認めること
  2. 受けた被害の賠償金を払うこと
  3. 再び攻撃されないよう国際的に保証すること

賠償の支払いを米国が受け入れるとは考えにくく、この条件ですぐに停戦するとは見ていない。ただ、条件を出したこと自体は、イランが交渉の余地を残しているしるしでもある。

原油は100ドルを超え、次の焦点はカーグ島の石油設備

ホルムズ海峡では、前回書いた「タンカーの通行が事実上止まっている」状態が2週間を超えた。英国の海運情報会社ロイズ・リスト・インテリジェンスの集計(AFPの報道)では、3月1〜11日に海峡を通った船は77隻で、前年の同じ時期(1,229隻)の6%にとどまる。IEAは3月11日、加盟国の石油備蓄から過去最大の4億バレルを放出すると決めたが、原油の上昇は止まらず、ブレントは翌12日に100ドルを超えて引けた。

原油の指標 3月13日まで
WTI原油先物 3月13日の終値は98.71ドル。9日に2022年以来の100ドル超えとなり、一時119.48ドルまで上げた
北海ブレント原油先物 3月13日の終値は103.14ドルで、2日続けて100ドルを超えて引けた
開戦前との比較(ブレント) 2月27日の約72ドルから、40%超の上昇

原油の終値はCNBC(3月13日)の報道による。

カーグ島の爆撃で、米軍はミサイルや機雷の貯蔵施設など90か所を超える軍事目標を壊したが、島の石油積み出し設備は攻撃しなかった。トランプ大統領は爆撃を伝える投稿で、イランが船の自由な通行を妨げるなら「この決定を直ちに見直す」と書き、翌14日には、カーグ島を「あと何回か」攻撃するかもしれないとも述べた。石油設備を攻撃するという手を、交渉の材料として手元に残した形だ。

イランは、島の石油設備が攻撃されれば、この地域にある米国と関係する石油施設を「灰の山」にすると予告した。攻撃の応酬が石油設備に及べば、前回の記事で書いた全面衝突(シナリオ③)に入り、原油は150ドルを超えうる。

日本株は開戦前から8.5%安、S&P500の2倍以上の下げ

前回の記事では、「戦争は買い」という相場の言い伝えは、原油をほぼすべて輸入する日本株には条件付きでしか当てはまらないと書いた。下げの向きはその見立てどおりだったが、下げ幅は想定より大きい。開戦前の2月27日から3月13日までに、日経平均は58,850円から53,819円へ8.5%下げた。同じ期間のS&P500の下げは4%弱にとどまっている。

前回の記事を書いた3月2日に793円安で引けた日経平均は、4日に2,033円安(3.6%安)の54,245円で引け、取引時間中には一時2,600円を超えて下げた。原油が一時119ドル台まで上げた9日は、過去3番目の下げ幅となる2,892円安。翌10日はトランプ大統領の発言で原油が急落したのを受けて1,520円高と戻したが、13日は前日夜のモジタバ師の声明を受けて633円安の53,819円で引けた。

日本株の下げが大きくなった理由は、次の3つだと見ている。

  • 原油が100ドルを超えた: 燃料、物流、電気の費用が同時に上がり始めている。
  • 海峡の封鎖が2週間を超えた: LNG(液化天然ガス)の調達に不安が出て、電気・ガス料金がまた上がるおそれがある。
  • 円高ではなく円安に動いた: ドル円は2月27日の155円台から、3月13日には159円台まで円安が進んだ。有事に円が買われる動きより、輸入するエネルギーの支払いが増えて円が売られる動きが勝っている。

個別の銘柄でも差がはっきり出た。2月27日から3月13日までに、INPEXは15%上がり、トヨタ自動車は12%下げた。前回「追い風を受けやすい」とした防衛関連の三菱重工は5%下げており、日経平均よりは下げが小さいものの、上がってはいない。開戦直後のトヨタの値動きはトヨタ自動車(7203)の記事で追い、リース会社ごとの影響の違いはリース大手3社の比較記事で書いた。

4つのシナリオの見直し

3月2日に立てた3つのシナリオと、今回足した④の見込みは次のとおりだ。

シナリオ 3月2日 3月16日 見込みを変える出来事
① 早期収束(イランの新体制が交渉に応じる) 低〜中 低 新しい指導者が交渉に応じる姿勢を見せる
② 限定的な消耗戦(代理勢力による攻撃が続く) 高 高(中身は悪化) 石油設備への攻撃が始まれば③へ移る
③ 全面衝突(石油設備への攻撃、湾岸への拡大) 低〜中 低〜中(上寄り) カーグ島の石油設備が攻撃される
④ トランプ主導の早期交渉停戦(今回足した) なし 低〜中 トランプ大統領がイスラエルを抑えて交渉に動く

② 本線のままの限定的な消耗戦、ただし前回の想定より悪い中身

石油設備への攻撃や、湾岸の国々を巻き込んだ戦争にはまだなっていない。その意味で本線は②のままだ。ただ、封鎖が長引き、原油が100ドルを超えた時点で、前回想定した「限定的」の範囲は超えている。ヒズボラやフーシ派などを通じた攻撃が数か月続き、原油は80〜110ドルで高止まりする、というのが今の本線の姿になる。

③ 前回より少し上がった全面衝突の見込み

カーグ島の爆撃と石油設備への攻撃の警告で、前回心配した「意図しない拡大」が起きやすくなった。イランが地域の米国と関係する石油施設への報復を予告しているので、誤爆や偶発的な衝突から攻撃が広がることもありうる。そうなれば原油は150ドルを超え、物価高と景気後退が同時に進むスタグフレーションに世界が近づく。原油のほぼすべてを輸入する日本には、1970年代の石油危機以来の打撃になりうる。

④ トランプ主導の早期交渉停戦

トランプ大統領が自分から停戦に動く筋書きだ。Bloomberg(3月11日)は、11月の中間選挙を控えた米政権は戦争の長期化を避けたいが、イスラエルは続けたがっており、両国に温度差があると報じた。

トランプ大統領は「軍事目標はほぼ達成した」「紛争はすぐに終わる」と述べたが、ネタニヤフ首相はまだ戦争を終えるつもりはない。イスラエル軍の報道官も、少なくとも3週間ほど先までの作戦を計画していると述べた。ハセット国家経済会議(NEC)委員長によれば、米国防総省は戦争の期間を4〜6週間と見ている。

米国がイスラエルへの兵器や支援を絞って攻撃をやめさせ、核開発の凍結と引き換えに制裁を緩める取引をイランに持ちかける、という形を考えている。トランプ大統領が取引で決着をつけたがることと、イランが条件付きで停戦に触れたことが根拠だ。新しい指導者が強硬なので見込みは「低〜中」にとどめるが、実現すれば海峡の通行が戻り、原油は急落し、株は大きく戻る。

前回の見立てを直す点と、次に見るもの

前回は「日本経済への影響は限定的」と書き、原油が100ドルを大きく超えなければ日本経済の土台は揺らがないとした。この見立ては直す。原油は100ドルを超え、封鎖は2週間続き、新しい指導者は報復を宣言した。短期のショックで終わるという前提はもう置けない。今の本線は②だが、前回より悪い②だ。

次の1〜2週間は、次の点を見ている。

  • カーグ島の石油設備が攻撃されるか: 攻撃されれば原油は120〜150ドルへ上がり、湾岸の石油施設への報復が連鎖しやすくなる。
  • 米国の作戦の期間と、トランプ大統領の発言: 国防総省の4〜6週間と、大統領の「すぐ終わる」との食い違いがどう埋まるかで、④の見込みが動く。
  • モジタバ師の次の行動: 声明のあと、湾岸諸国への攻撃や核施設での動きに出れば、③の見込みが上がる。

1〜3か月の単位では、ホルムズ海峡の通行がいつ戻るかが相場をいちばん大きく動かす。自分はMarineTrafficなどの船舶追跡サービスで、海峡を通るタンカーの数を週ごとに見ている。通行が戻り始めれば、原油は下がり、株は戻るはずだ。原油やLNGの値上がりが電気・ガス料金に表れるのは数か月後で、秋にかけて物価が上がれば日銀が利上げを急ぐ材料にもなる。11月の米中間選挙が近いことも、トランプ大統領が停戦を急ぐ理由になりそうだ。

カーグ島の石油設備が残っているうちは、原油は上にも下にも大きく動く。自分はどちらかに賭けるより、タンカーの通過数と石油設備への攻撃の有無を見てから動くつもりだ。

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

POPULAR ARTICLES