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米・イスラエルのイラン攻撃 続報 — 新最高指導者就任・原油100ドル突破・シナリオ更新

💡 この記事のポイント

  • 開戦から16日。モジタバ・ハメネイ師(56歳)が3月9日に新最高指導者に就任し、12日に「米・イスラエルへの報復を誓う」と強硬姿勢を表明した。体制崩壊→早期停戦という楽観シナリオの根拠は崩れた。
  • ホルムズ海峡は実質封鎖状態が継続。3月1〜11日の通過船舶数は77隻と昨年同期(1,229隻)の6.3%に激減。IEAが史上最大規模(4億バレル)の備蓄放出を決定したが、WTIは一時$119超・ブレントは$103超と$100の大台を突破した。
  • 3月13〜14日、米軍がイランの石油輸出の90%超を担うカーグ島の軍事施設を爆撃。石油インフラは意図的に温存されたが、トランプ大統領はホルムズ封鎖継続なら石油インフラを次の標的にすると警告した。
  • 日経平均は3月4日に一時2,033円安を記録。「遠くの戦争は買い」が通用せず、日本株は対S&P500比で大幅アンダーパフォームが続いている。原油$100定着なら5万円割れのシナリオも浮上。
  • 前回記事の3シナリオに加え、「トランプ主導の早期交渉停戦」という第4のシナリオが浮上。米国内政(中間選挙)を意識したトランプとネタニヤフの温度差が新たな変数となっている。

2026年3月2日付の前回記事「米・イスラエルのイラン攻撃 — 日本株・世界経済への影響と3つのシナリオ考察」から2週間が経過した。この間、最高指導者の後継が確定し、原油は$100の大台を突破し、ホルムズ海峡の実質封鎖は2週間超にわたって続いている。前回「実現可能性:高」と評価した「限定的消耗戦シナリオ」は依然として軸足だが、状況はそのシナリオが想定していたよりも深刻な方向に推移している。また、前回には存在しなかった「米国主導の早期交渉停戦」という第4の分岐も浮上した。最新情報をもとにシナリオと確率を更新する。

1. 開戦から2週間:主要な変化点サマリー

前回記事(3月2日)から3月16日時点までの主な出来事を時系列で整理する。体制崩壊・早期停戦という楽観論が消え、複数の新事実が状況を複雑にしている。

日付 出来事 市場への意味
3月3〜8日 専門家会議が後継者選定 体制崩壊シナリオが後退。後継選出でイラン体制の継続が明確化
3月9日 モジタバ師が第3代最高指導者に就任 強硬派が後継。父より保守的とされ、交渉開始の期待が後退
3月10日 日経平均が大幅反発 トランプ「早期終結」発言を好感するも、その後再び下押し
3月11日 IEAが4億バレル放出決定(史上最大) 原油価格の抑制効果は限定的。WTI $100突破を阻止できず
3月12日 モジタバ師が「報復を誓う」最初の声明 交渉拒絶・継戦を宣言。原油が再び上昇し日欧株は下落
3月12日 イラン大統領が停戦3条件を提示 賠償要求・国際保証など厳しい条件で、即時停戦は困難と市場が判断
3月13〜14日 米軍がカーグ島軍事施設を爆撃 石油インフラは温存。ただしエスカレーション懸念が一段と高まる
3月15日 トランプが「石油インフラも標的」と警告 原油インフラ攻撃拡大懸念が高まり、原油高・株安が継続

出典: Al Jazeera「Day 16 of US-Israel attacks」(2026年3月15日)Bloomberg「対イラン戦争は最長6週間、米国防総省の見方とトランプ氏側近」(2026年3月15日)

2. 新最高指導者モジタバ師の強硬姿勢

最大の焦点だった「後継指導者の選出」は3月9日に決着した。イランの最高意思決定機関である専門家会議(Majlis al-Khubregan)が、故アリー・ハメネイ師の息子・モジタバ・ハメネイ師(56歳)をイスラム共和国第3代最高指導者に選出したと発表した。

モジタバ師のプロフィールと強硬路線

モジタバ師は父より保守的・強硬派として知られ、革命防衛隊(IRGC)との関係が深い。これまで公の場にほとんど姿を見せず「見えない指導者」とも呼ばれてきた。就任後の3月12日、最初の公開声明で「米国とイスラエルへの報復」を誓い、戦争継続と交渉拒否の姿勢を鮮明にした。トランプ大統領はこの選出に「失望した」と述べている。

前回シナリオとの比較: 前回記事では「後継候補としてモジタバ師が急浮上」と記載したが、実際にその通りとなった。ただし前回記事では「穏健派が停戦に応じる可能性」をシナリオ①(早期収束)の根拠の一つとしていた。モジタバ師の強硬路線確定により、その根拠は事実上消滅した。シナリオ①の確率は「低〜中」からさらに引き下げる必要がある。

イラン大統領が提示した停戦3条件

3月12日、イランのペゼシュキアン大統領は戦争終結のための3条件を提示した。

  1. イランの「正当な権利」の承認
  2. 被害に対する賠償金の支払い
  3. 将来の侵略に対する国際的な保証

この条件はトランプ大統領が受け入れられる水準ではなく、市場は即時停戦の可能性が低いと判断して原油高・株安で反応した。ただし「条件を提示した」という事実は、イランが完全な継戦一択ではなく交渉の余地を残していることも示しており、後述するシナリオ④の根拠にもなりうる。

出典: Al Jazeera「Iran names Mojtaba Khamenei as new supreme leader」(2026年3月8日)CNBC「Five things to know about Iran's new supreme leader」(2026年3月11日)Axios「Iran's new supreme leader vows revenge on U.S., Israel」(2026年3月12日)Al Jazeera「Iran's president sets terms to end the war」(2026年3月12日)

3. 原油市場:$100突破とカーグ島爆撃の意味

ホルムズ海峡封鎖の実態

前回記事では「タンカー通行は事実上停止」と記載したが、その状態が2週間以上継続している。3月1〜11日のホルムズ海峡通過船舶数は77隻と、昨年同期(1,229隻)のわずか6.3%にとどまった。IEA(国際エネルギー機関)はこれを「世界の石油市場史上最大級の供給途絶」と表現し、史上最大規模となる4億バレルの戦略備蓄放出を3月11日に決定した。しかし市場の反応は冷淡で、WTI原油は$100を突破、一時$119台に達した。

カーグ島爆撃と「石油インフラ温存」の意図

3月13〜14日夜、米軍はイランの石油輸出の90%超を取り扱うカーグ島(Kharg Island)に対して大規模な精密爆撃を実施した。ミサイル貯蔵施設・機雷貯蔵施設を含む軍事目標92か所超を破壊したが、島の石油ターミナルは意図的に温存された。

トランプ大統領はこの決定の背景として「イランが自由な船舶通行を妨害し続けるならば、この決定を即座に再考する」と明示した。これは石油インフラへの攻撃を交渉カードとして手元に持つ意図と読み取れる。一方、イランはカーグ島の石油設備が攻撃された場合には湾岸諸国の石油施設を「灰燼に帰す」と報復を予告しており、エスカレーション(事態の拡大)リスクが一段と高まっている。

原油価格の現状

指標 状況(3月13〜15日)
WTI原油先物 $98〜$103台(一時$119超を記録)
ブレント原油先物 $103超(第2日連続$100超で引け)
開戦前比(ブレント) $70 → $103超(+47%超の上昇)
IEA対応 4億バレル放出決定(史上最大)も価格抑制効果は限定的
次の焦点 カーグ島の石油インフラが攻撃されるか。実現なら$150超も視野

出典: CNBC「Oil closes above $100 for second day」(2026年3月13日)CNBC「IEA oil stockpile release」(2026年3月11日)Washington Post「Trump says U.S. bombed Kharg Island」(2026年3月13日)Bloomberg「原油市場、イラン情勢泥沼化で一段高も」(2026年3月15日)

4. 日本株・日本経済:「戦争は買い」が通じない理由

前回記事では「『戦争は買い』は今回も通用するか」を論点の一つとし、日本には条件付きでしか通用しないと述べた。その後の実際の市場反応を検証すると、予測は概ね当たっていたが、想定よりも下押し圧力が強かった。

日経平均のその後の動き

3月2日(前回記事の日)に793円安で引けた日経平均は、その後も下落が続いた。3月4日には一時2,033円安(約-3.6%)を記録し、終値でも大幅下落となった。「原油$100超が定着するなら日経5万円割れも視野」との見方が証券アナリストの間で広がった。3月10日にはトランプの「早期終結」発言を受けて大幅に反発したが、モジタバ師の強硬声明やカーグ島爆撃のニュースを受けて再び下落した。

日本経済新聞は「遠くの戦争は買い—今回は通じず 原油100ドル超で株安加速」と題した記事を掲載し、エネルギー輸入依存の日本が他の主要国とは異なるパターンで下落していることを指摘した。

なぜ「戦争は買い」が通じなかったか

  • 原油$100突破の現実化: 前回記事では「$100を大幅に超えない限り日本経済のファンダメンタルズを根本から揺るがすには至らない」と述べた。しかし実際には$100をあっさり突破した。製造業コスト・輸送コスト・エネルギーコストの同時上昇が現実問題として意識されている。
  • ホルムズ封鎖長期化: 「1週間程度で解除」という楽観論が外れた。2週間超の実質封鎖は、LNG(液化天然ガス=パイプラインを使わずに液体の状態で輸送する天然ガス)調達への不安を高め、電力・都市ガス料金の再上昇懸念が広がっている。
  • 円安の加速: エネルギー輸入コスト増による経常収支悪化が円安圧力として働いており、「有事の円高」よりも「エネルギー輸入コスト増による円安」が優勢な状況が続いている。

出典: 日本経済新聞「『遠くの戦争は買い』今回は通じず 原油100ドル超で株安加速」日本経済新聞「日経平均株価、原油100ドル定着なら5万円割れ視野」Bloomberg「日本市況:株大幅反発、イラン戦争の終結期待と原油安」(2026年3月10日)日本経済新聞「日経平均株価が続落、一時1100円超安」

5. シナリオ更新 — 3+1の分岐と変化した実現可能性

前回記事では「①早期収束 ②限定的消耗戦 ③全面衝突」の3シナリオを提示した。開戦16日が経過した現時点で、それぞれの確率と新たに浮上した第4のシナリオを更新する。

シナリオ① 早期収束(イラン新体制が交渉に応じる) — 実現可能性: 低(前回の「低〜中」から引き下げ)

モジタバ師の就任と「報復誓う」声明により、この評価を「低〜中」から「低」に引き下げる。体制が継続し、かつ新指導者が強硬路線を選択した以上、自発的な停戦・交渉応諾の確率は大幅に低下した。イランが提示した停戦条件(賠償要求・国際保証等)も、米国が受け入れられる水準にない。

実現可能性: 低(前回の「低〜中」から引き下げ)。モジタバ師の強硬姿勢が確定し、停戦条件も厳しい。短期的な自発的交渉開始の可能性は低い。なお停戦条件の提示自体は「交渉の余地あり」の信号でもあり、シナリオ④(後述)との関連で注目しておく必要がある。

シナリオ② 限定的消耗戦(代理勢力による応酬が続く) — 実現可能性: 中(変化なし、ただし想定より悪化した消耗戦)

依然として最も可能性の高い基本シナリオとして位置づける。ただし前回が想定した「限定的」の範囲をすでに超えた部分がある(ホルムズ封鎖の長期化、$100超えの原油)。「限定的」の意味が「全面的な石油インフラ攻撃や地域戦争拡大には至らない」というより低いハードルでの「限定」となっており、実態は前回より悪化した消耗戦が続く見通しだ。代理勢力(ヒズボラ・フーシ派等)を通じたゲリラ戦・ドローン攻撃が数カ月単位で継続し、原油は$80〜110のレンジで高止まりするシナリオだ。

実現可能性: 中(変化なし、ただし想定より悪化した消耗戦)。引き続き最も可能性が高いベースラインだが、前回より状況は悪化していることに留意が必要だ。

シナリオ③ 全面衝突(石油インフラ攻撃・地域戦争拡大) — 実現可能性: 低〜中(前回比でやや上昇)

前回は「実現可能性:低〜中」と評価したが、カーグ島爆撃とトランプの石油インフラ攻撃示唆により、エスカレーションリスクが一段と高まった。「意図せぬエスカレーション」という前回の懸念が現実味を帯びている。イランが湾岸諸国の石油施設への報復を宣言しており、誤爆・衝突事故による連鎖拡大が排除できない。このシナリオが現実化すれば原油は$150超、世界的なスタグフレーション(物価高と景気後退の同時進行)が現実的な射程に入る。

実現可能性: 低〜中(前回から若干上昇)。カーグ島爆撃とイランの報復警告により、石油インフラを巻き込むエスカレーションの萌芽が見られる。前回より注意水準を高める必要がある。

【新シナリオ】シナリオ④ トランプ主導の早期交渉停戦 — 実現可能性: 低〜中(新規追加)

前回記事には存在しなかった分岐として、「トランプ大統領が自ら停戦に向けて動く」シナリオが浮上している。背景にあるのは米国内政だ。ブルームバーグが報じているように、トランプ大統領は「中間選挙」(2026年秋)を意識し始めており、長期化する戦争が支持率に悪影響を与えることを懸念している。トランプは「軍事目標はほぼ完了した」「紛争は極めて短期に終わる」と発言する一方、ネタニヤフ首相は「少なくとも3週間継続する」と主張しており、この「温度差」が新しい変数として機能している。

トランプがイスラエルへの兵器・支援を制限することで事実上停戦を強いつつ、核開発凍結と引き換えの制裁緩和といった取引をイランに提示するシナリオだ。「ディール・メーカー」としてのトランプの行動パターンがこのシナリオの根拠だ。また、イランが停戦条件を提示したこと自体が「取引に応じる余地がある」ことを示唆しており、双方が「体面を保ちながら手を引く出口」を探っている可能性もある。

実現可能性: 低〜中(新規追加)。モジタバ師の強硬姿勢を踏まえると確率は高くないが、米国の内政圧力とトランプの「ディール思考」から排除はできない。このシナリオが現実化した場合、「ホルムズ再開→原油急落→株式急反発」という巻き戻しが急速に起きる。

出典: Bloomberg「米国、対イラン戦争長期化望むイスラエルと温度差-視線は中間選挙」(2026年3月11日)Bloomberg「米国・イスラエルの脆弱さ突くイラン-12日間戦争で学んだ3カ国」(2026年3月12日)CNBC「Trump's plans to lower Iran-war oil prices aren't working」(2026年3月13日)

6. 今後の最重要チェックポイント

短期(1〜2週間)

  • カーグ島の石油インフラが攻撃されるか: トランプの警告に対してイランがホルムズ封鎖を続けた場合、次のエスカレーションが石油インフラ攻撃に及ぶかどうかが原油価格の最大の規定要因だ。実現すれば$120〜150台への急騰とともに、湾岸諸国の石油施設への連鎖報復リスクが跳ね上がる。
  • 米国の作戦継続期間と発言の変化: 米国防総省は「4〜6週間」の見通しを維持しているが、トランプの「早期終結」発言との乖離が続くかどうか。発言の変化がシナリオ④の確率を動かす。
  • モジタバ師の具体的な行動: 報復声明の後、湾岸諸国への攻撃激化・核施設での動き等の具体的な行動に出るかどうかがシナリオ③の確率を左右する。

中期(1〜3カ月)

  • ホルムズ海峡の通行再開時期: 依然として最大の市場インパクト変数。週次のタンカー通過数をタンカー追跡サービス(Marine Traffic等)で確認することが有効だ。通行が再開され始めれば原油は急落し、株式市場は反発する。
  • 日本の電力・ガス料金への転嫁: 原油高・LNG高が公共料金に転嫁されるのは数カ月後だ。秋口にかけて物価上昇圧力が高まれば、日銀の利上げ観測と絡み合ってより複雑な局面になりうる。
  • 米国中間選挙(2026年秋)との兼ね合い: トランプが停戦を「政治的勝利」として宣言するタイミングが、選挙戦略上いつが適切かによりシナリオ④の確率が動く。

個人的な見解 — 前回予測の修正と現時点の見立て

前回記事では「日本経済への影響は限定的」「原油が$100を大幅に超えなければファンダメンタルズを根本から揺るがすには至らない」と述べた。現時点でこの見立ては修正が必要だ。

$100は突破した。ホルムズ封鎖は長期化した。モジタバ師の強硬路線が確定した。これらを踏まえると「短期的なショック」という前回の楽観的な見方は維持できない状況になっている。個人的には現時点のシナリオを「限定的消耗戦寄りだが、悪化したベースライン」に修正している。

個人的に最も注目しているのはカーグ島の石油インフラへの攻撃可否だ。ここが踏み越えられた場合、原油は一気に$120〜150に跳ね上がり、世界的なスタグフレーションというかつてないシナリオが現実的な射程に入る。日本にとってこれは1970年代のオイルショック以来の深刻な打撃になりうる。

一方、シナリオ④(トランプ主導の早期停戦)が現実化すれば「ホルムズ再開→原油急落→株式急反発」という急速な巻き戻しが起きる。カーグ島の石油インフラが「生きている」間は、上にも下にも振れやすいボラタイルな局面が続くと考えており、こうした局面では焦って動くよりも状況を見極める忍耐が重要だと感じている。

7. まとめ

まとめ — シナリオ更新と新たな変数

  • モジタバ師の最高指導者就任(3月9日)と強硬声明により、「シナリオ①早期収束」の確率を「低〜中」から「低」に引き下げた。体制崩壊を通じた停戦はほぼ期待できなくなった。
  • ホルムズ実質封鎖・原油$100突破が現実化し、前回の楽観的な見立て(「限定的影響」)は修正が必要。「シナリオ③全面衝突」の確率はわずかに上昇した。
  • 「シナリオ④:トランプ主導の早期交渉停戦」を新規追加。米国とイスラエルの温度差が新しい変数となっており、急転直下の停戦も排除できない。
  • 日本株は「戦争は買い」が通じない局面が継続。カーグ島の石油インフラが攻撃されるかどうかが今後最大の焦点であり、これ次第で原油は急落か急騰の二極化リスクがある。
  • 引き続きボラティリティが高い局面が続く。エネルギー関連(INPEX等)・防衛関連(三菱重工等)は恩恵を受けやすく、航空・自動車・景気敏感株は引き続き逆風下に置かれる。

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

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