7月14日(火)、ニューヨーク市場が開く前に、IBMが4〜6月期の数字の一部を公表した。7月22日の決算説明会を8日前倒しにした形で、売上高は市場予想に3.7%届かなかった。この日のIBM株は25.2%安と、記録が残る1968年以降で最大の下げになり、売りはServiceNowやSalesforce、Microsoftに広がった。翌15日(水)の東京市場ではNECや富士通も売られた。IBM自身は不足の大半を大型案件のずれ込みと説明したが、市場が反応したのは、顧客がIT予算をサーバーやメモリに回したという一文だった。
IBMが米証券取引委員会(SEC)への提出書類で、クリシュナCEOの投資家向けの書簡と4〜6月期の速報値を公表。売上高は市場予想を下回った。
IBMは217.07ドルで引け、1987年10月19日のブラックマンデー(23.7%安)を上回る下げになった。主要な株価指数は上がり、ソフトウェア株が売られた。
NECや富士通などSIerが売られ、日経平均は半導体株の上げで続伸した。
目次
8日前倒しで出た4〜6月期の数字と、CEOが挙げた不足の理由
IBMは7月14日の米国東部時間7時ごろ、SECに提出した書類でクリシュナCEOの投資家向けの書簡を公表した。7月22日の決算説明会を前に、4〜6月期の数字の一部を速報値として出したもので、主な数字は次のとおり(CNBC(2026年7月14日))。
| 2026年4〜6月期(速報値) | IBMの発表 | 市場予想 |
|---|---|---|
| 売上高 | 172億ドル(前年比1%増) | 178.6億ドル |
| 調整後の1株利益 | 2.93ドル | 3.01ドル |
| ソフトウェア部門 | 前年比5%増 | — |
| コンサルティング部門 | 横ばい | — |
| インフラ部門 | 前年比7%減 | — |
市場予想はFactSetの集計。部門ごとの金額と通期の見通しは7月22日に発表される。
売上高の未達は3.7%で、この数字だけなら株価が4分の1消えるほどではない。ただ、IBMは今年の売上高を、為替の影響を除いて5%を超えて伸ばすと見込んでいた。4〜6月期の1%増は、その見込みを大きく下回る。
クリシュナCEOは書簡で、届かなかった理由を次のように挙げた。
- メインフレーム(IBM Z。銀行などの基幹業務を動かす大型コンピュータ)と、それと一緒に使う取引処理のソフトが計画に届かなかった。前年に出した新機種z17の販売が一巡し、インフラ部門の減収はもともと見込んでいたが、それより悪かった
- 6月の最後の数週間に、顧客が四半期の設備投資をサーバー・ストレージ・メモリに振り向けた。値上がりの前に、品薄の機器を確保するためだった
- 顧客の多くが、業界全体に広がったサイバーセキュリティの懸念への対応に追われた
- 多くの大型案件が予定どおりにまとまらず、これが不足額の大半を占めた
不足額の大半は、最後の大型案件のずれ込みから生じた。CEOは変化への対応が遅れたとも書いており、この部分はIBM自身の営業の問題になる。それでも株式市場は、顧客が設備投資をハードに回したという2つ目の説明に強く反応した。顧客がIT予算をハードの確保に使っているなら、ソフトウェアを売る会社はどこも同じ影響を受けかねない。
インフラ部門の7%減に隠れたサーバー・ストレージの37%増
顧客の予算がハードに移ったのに、ハードを売るインフラ部門は7%の減収だった。数字が逆に見えるのは、インフラ部門の中身が2つに分かれるからだ。
IBMの2025年の売上高は675億ドルで、ソフトウェアが300億ドル(44%)、コンサルティングが211億ドル(31%)、インフラが157億ドル(23%)を占める。インフラ部門の主力はメインフレームで、前年のz17が過去最高の滑り出しだった反動から、今年は減収を見込んでいた。4〜6月期はその見込みより悪かった。
一方、Powerサーバーとストレージからなる分散インフラは37%増え、IBMが開示してきた中で最高の伸びになった。期末の受注残も約5億ドルある。顧客がサーバーとストレージを急いで買った分は、IBMの売上にも入っていた。
ソフトウェアの5%増も中身が分かれる。Red Hatは11%増と伸びを速めたが、メインフレームと一緒に使う取引処理のソフトが計画に届かなかった。IBMの不足は、メインフレームとそのソフトに集まっていたことになる。書簡はメインフレームの不振と予算の移動を別々の理由として並べており、メインフレームの更新を後回しにして予算を回したとまでは書いていない。
ServiceNowやMicrosoftに広がった売りと、上がった主要指数
IBMの説明のうち、顧客が予算をハードに回したという部分は、ほかのソフトウェア会社にも当てはまりうる。7月14日の米国市場では、ソフトウェアとITサービスの株が売られた。主な銘柄の終値は次のとおり。
| 銘柄(7月14日終値) | 株価 | 前日比 |
|---|---|---|
| IBM | 217.07ドル | -25.21% |
| ServiceNow | 104.85ドル | -5.76% |
| Workday | 139.81ドル | -3.49% |
| Accenture | 134.56ドル | -2.86% |
| Salesforce | 167.56ドル | -2.14% |
| Microsoft | 384.93ドル | -1.55% |
企業の業務の流れを管理するソフトを売るServiceNowは5.8%安と、表の中で最も大きく下げた。ITコンサルティングのAccentureは寄り付き前の取引で8%前後下げ、始値も前日比5.8%安だったが、取引時間中に買い戻されて2.9%安で引けた。
ソフトウェア株には、顧客がAIを使ってソフトを自分で作るという不安も重なっていた。7月9日にはBloombergが、スターバックスがMicrosoftの在庫管理システムとIBMの保守管理ツールの代わりを、AIの助けを借りて自社で開発していると報じた。両社の株価はこの日の寄り付き前に下げている。顧客が自分でソフトを作るようになれば、ソフトを買う量そのものが減る。IBMの書簡は、この不安が残る中で出た。
主要な株価指数は下げていない。同じ朝に出た6月の消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回り、利上げの観測が後退したためで、S&P500は0.38%高、ナスダック総合は0.90%高で引けた。ダウ平均は構成銘柄のIBMの下げで寄り付き直後に1%近く下げたが、終値は前日とほぼ同じ(0.02%高)だった。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は2.5%上がり、同じIT関連でも半導体とソフトウェアで値動きが分かれた。
顧客がサーバーとメモリの確保を急いだ背景
顧客がサーバーとメモリを急いで買った背景には、AIのデータセンター向けの需要によるメモリ(DRAM)の品不足と値上がりがある。台湾の調査会社TrendForceの予測では、パソコンやサーバーに使う汎用DRAMの契約価格は、1〜3月期に前の期より90〜95%、4〜6月期に58〜63%上がる(TrendForce(2026年3月31日))。
企業のIT部門から見ると、来期にもっと高くなりそうなメモリとサーバーは、予算があるうちに押さえておきたい。予算の総額は急には増えないので、その分はほかの支出から回すことになる。IBMの書簡が書いた、値上がりの前に品薄の機器を確保する動きは、この計算と合う。
ただし、値上がりの勢いは落ちる見通しだった。TrendForceは7月3日、7〜9月期の汎用DRAMの上昇幅を13〜18%と予測した。サーバー用のDRAMは7〜9月期も足りないが、消費者向けの需要が弱まり、すでに高い価格が比べる基準になるためだ。値上がりが緩めば、買い急ぐ理由も薄れる。
メモリの値上がりで稼ぐ側の数字は、2月のメモリの値段が2か月半で4倍になった記事と、5月の半導体の品薄が生む利益を確かめた記事で書いた。今回のIBMの数字は、同じ値上がりを払う側から見たものになる。
東京市場のSIer安と日経平均の1,008円高
翌15日(水)の東京市場では、メインフレームの販売やシステムの受託開発など、IBMと事業が重なる会社が売られた。主な銘柄の終値は次のとおり。
| 銘柄(7月15日終値) | 株価 | 前日比 |
|---|---|---|
| NEC(6701) | 4,270円 | -4.32% |
| 富士通(6702) | 3,218円 | -4.74% |
| ベイカレント(6532) ※ | 6,383円 | -6.79% |
| 野村総合研究所(4307) | 4,936円 | -2.51% |
| 日経平均株価 | 68,751円 | +1.49% |
※ベイカレントは15日の取引終了後(15時30分)に2027年2月期第1四半期の決算を発表した。15日の下げは発表の前の値動き。
SIer(企業から情報システムの開発や運用を請け負う会社)が売られた日も、日経平均は続伸した。東京エレクトロンが4.4%高、キオクシアHDが5.8%高と半導体株が指数を押し上げ、米国のCPIを受けて利上げの観測が後退したことも買いを支えた。日本経済新聞はこの日の相場を「AIで進む優勝劣敗」と書いている(日本経済新聞(2026年7月15日))。
ただ、米国の話を日本のSIerにそのまま当てはめるには無理がある。日本のSIerの売上は、ライセンスや定額課金でソフトを売る米国の会社と違い、受託開発と運用保守の長い契約が中心だ。顧客が新しいソフトの契約を止めても、動いているシステムの保守料は入り続けるので、IBMのような急な減収が次の四半期にすぐ出る形ではない。
一方で、サーバーやメモリの値上がりは国内のシステム構築でも機器の調達費を押し上げる。顧客がAIへの投資のためにシステムの刷新を遅らせれば、日本のSIerにも時間を置いて影響が出てくる。8月に出る各社の第1四半期決算で、受注残の伸びが鈍っていないかを確かめたい。
Microsoftの下げが1.55%で済んだ理由
この日、自分がいちばん長く値動きを見ていたのはMicrosoftだった。取引時間中に一時3.2%安まで下げたが、終値は384.93ドル(1.55%安)と、ソフトウェア株の中では下げが浅かった。
Microsoftは企業にソフトを売る一方で、クラウドのAzureを通じてAIの計算基盤も売っている。企業がAIのインフラにお金を回すなら、Microsoft 365やCopilotには逆風でも、Azureには追い風になる。両社の売上の内訳を並べると、違いが分かる。
| 区分 | IBM(2025年) | Microsoft(2025年10〜12月期) |
|---|---|---|
| 企業向けソフト | ソフトウェア 44%(4〜6月期は5%増) | 生産性・業務プロセス(Microsoft 365、Copilotなど)42% |
| ハード・クラウド | インフラ 23%(4〜6月期は7%減。サーバー・ストレージは37%増、メインフレームは不振) | インテリジェントクラウド(Azureなど)40% |
| そのほか | コンサルティング 31%(4〜6月期は横ばい) | パーソナルコンピューティング(Windows、ゲーム、広告など)18% |
構成比は売上高に占める割合。IBMは2025年通期、Microsoftは2026年6月期第2四半期(2025年10〜12月)の実績から計算した。
企業向けソフトの比率は、IBMが44%、Microsoftが42%とほぼ同じだ。両社は残りの部分で分かれる。Microsoftは売上の4割がAzureなどのクラウドで、企業がAIのインフラに回す予算の受け皿になる。IBMにもサーバーとストレージはあるが、インフラ部門の主力はメインフレームで、売上の3割はコンサルティングだ。予算が移った先の事業をどれだけ持っているかが両社で違い、IBMには大型案件のずれ込みという自社の事情も重なった。下げ幅の差はこの2つで説明できると見ている。
ただし、Microsoftにも固有の事情がある。1月28日に発表した10〜12月期の決算で、Azureの伸びは39%と前の期の40%から鈍った。Microsoft 365 Copilotの有料の席数1,500万も期待を下回ったと受け止められ、翌日の株価は10%下げた。7月14日の終値は年初から20%安い。7月29日の4〜6月期の決算では、Azureの伸びとCopilotの席数が、IBMの書簡に照らして見られることになる。
一時的な予算の移動か、続く変化かを見分ける日程
IBMの不足の大半は、大型案件のずれ込みという自社の事情から生じた。市場はそれでも、顧客が設備投資をハードに回したという一文を業界全体の話として受け取り、売りは日米のソフトウェア株に広がった。同じ日に半導体株は買われており、売り買いはIT予算の行き先をめぐって分かれた。
これがソフトウェア産業の長い不振の始まりかどうかは、まだ決められないと考えている。IBM自身のソフトウェアは5%増え、サーバーとストレージは37%増えた。メモリの値上がりは7〜9月期に鈍る予測で、買い急ぎが一巡すれば、先送りされた案件が戻ってくる余地もある。企業がAIのインフラを買い込むほど、その上で動かすソフトや、システムをつなぐ仕事も後から必要になる。
一方で、予算の移動が2四半期、3四半期と続けば、一時的とは呼べない。確かめる日程は決まっている。7月22日のIBMの決算説明会では、部門ごとの金額、メインフレームと分散インフラの内訳、通期の見通しを見る。7月29日のMicrosoftの決算では、Azureの伸びとCopilotの席数を見る。国内では、8月に出るSIer各社の第1四半期決算で受注残の変化を確かめる。それまでは、ソフトウェア株の下げを安くなったと拾いにいくのは控えるつもりだ。
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