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TSMC 2026年1-3月期決算 — 日本の半導体関連株に広がる余波

💡 この記事のポイント

  • TSMCの2026年1-3月期は売上高+35%、純利益+58%と四半期ベースで過去最高を更新。AI需要が中東情勢の悪化でも減速しなかった
  • 2026年通年の売上見通しは「30%超の伸び」に上方修正、設備投資は最大560億米ドル(約8.9兆円)に到達見通し
  • 日本の半導体製造装置メーカーは二極化している。AI関連が中心のアドバンテスト(6857)・ディスコ(6146)は絶好調、汎用向け主力の東京エレクトロン(8035)・SCREEN HD(7735)は踊り場
  • 熊本のJASM第2工場は3nmプロセス採用、2027年末稼働予定。出資するソニーG(6758)・デンソー(6902)・トヨタ(7203)へ事業が広がる
  • イーロン・マスクの「テラファブ」構想が東京エレクなどに接触と報道。中長期の新しい需要源として注目されている

台湾の半導体受託製造大手・TSMCが2026年4月16日に発表した1-3月期決算は、四半期として過去最高の売上・純利益を記録した。中東情勢が悪化するなかでもAI(人工知能)需要は減速せず、2026年通年の見通しも上方修正された。同日、日経平均は1,384円高で史上最高値を更新している。本稿では、TSMCの決算内容を整理したうえで、影響が広がる日本の半導体関連株、熊本JASM第2工場の進捗、マスク氏の新構想「テラファブ」という3つのテーマを順にチェックしていく。

1. TSMCの1-3月期決算ハイライト

▶ 全体像

TSMCの2026年1-3月期は、売上高が前年同期比+35%の1兆1,341億NTドル(約5兆6,800億円)、純利益が+58%の5,724億NTドルと、いずれも四半期として過去最高を更新した。純利益は市場予想(5,433億NTドル)を上回っている。中東情勢の悪化を背景に「AI関連の設備投資が減速するのでは」との懸念も出ていたが、実際には米国テック企業によるデータセンター向け投資が続き、先端半導体の需要はむしろ強まっている。

① 売上・利益のポイント

TSMC 2026年1-3月期 主要数値
売上高
1兆1,341億NTドル
前年同期比 +35%
純利益
5,724億NTドル
前年同期比 +58%
市場予想
5,433億NTドル
純利益ベース・上回り

出典: 日本経済新聞「TSMC1〜3月純利益58%増 最高益更新、AI需要なお旺盛」Bloomberg「TSMC、1~3月の純利益は予想上回る」

② 通年見通しの上方修正

TSMCは2026年通年の売上高見通しを「前年比30%超の伸び」に引き上げた。設備投資も前年からさらに増やす計画で、520〜560億米ドル(約8.2〜8.9兆円)という従来予想レンジの上限近くに達する見通しとなっている。これは前年比で+37%ほどの増額にあたり、過去最高を更新する規模である。CEO(最高経営責任者)のC.C.ウェイ氏は決算説明会で「生産能力が極めて逼迫している」と述べ、需要の強さを強調した。

③ なぜ中東情勢でもAI需要は落ちないのか

背景には2つの構造がある。1つ目は、データセンター投資が「電力と土地の奪い合い」になっていることだ。米国ではNVIDIAのGPUを積んだサーバーを設置するために、電力会社と数十年単位の長期契約を結ぶ動きが加速している。いまさら立ち止まれない投資サイクルに入っている。

2つ目は、TSMCの先端プロセス(3nm・2nm)をほぼ独占しているという強さである。AppleもNVIDIAもAMDも、最先端チップはTSMCに頼るほかない。同社の生産能力は予約で埋まっており、中東の地政学リスクとは独立した需要構造を持っている。

2. 日本の半導体製造装置株 — いま何が起きているか

TSMCの好決算は日本の半導体関連株にも追い風だが、銘柄によって恩恵の受け方が大きく違う。AI向けの検査・パッケージング装置を持つ銘柄は絶好調である一方、汎用の前工程装置を扱う銘柄は短期的に踊り場にある。

① 「AI勝ち組」の代表 — アドバンテスト・ディスコ・レーザーテック

AI関連で絶好調の3社(2026年3月期見通し)
銘柄(コード) 業績見通し 主力製品と強み
アドバンテスト
(6857)
純利益 +100%
3,285億円
SoCテスタ(半導体の最終検査装置)でグローバル首位。Q1の売上+90%、営業利益率47%とAI・データセンター需要の直撃を受ける
ディスコ
(6146)
売上 +32.5%
5,100億円
HBM(高帯域メモリ=AI用の高速メモリ)向けのグラインダ(ウエハーを薄く削る装置)が成長ドライバー
レーザーテック
(6920)
目標株価
引き上げ
EUV(極端紫外線)マスクの検査装置で独占。2nm世代への移行でさらに需要が膨らむ見通し

出典: 楽天証券トウシル「半導体製造装置4社の目標株価を引き上げ」株探ニュース「アドバンテスト:AI半導体テスト需要が牽引」

② 「踊り場組」の代表 — 東京エレクトロン・SCREEN HD

汎用の前工程装置は一服中
銘柄(コード) 業績見通し 踊り場の背景
東京エレクトロン
(8035)
純利益 -18%
4,440億円
社長が「26年1-3月から増えると見ていた投資にかなりブレーキがかかった」と説明。先端ロジック一部の投資見直し、中国の成熟プロセス投資縮小、NANDメモリの需給調整が重なった
SCREEN HD
(7735)
3Q売上 -7.5%
営業利益 -23%
主力の洗浄装置で減収減益。ただし野村證券はTSMC投資拡大の恩恵を織り込み、目標株価を14,000円→23,000円に引き上げ。27年3月期は20%増収を見込む

出典: 日経xTECH「東京エレクトロンやSCREEN、26年3月期減益 半導体投資踊り場」日本経済新聞「SCREENHD株価が連日高値 TSMC設備投資増で期待」

③ なぜ二極化が起きているのか

直感的に「TSMCが最高益 → 日本の装置メーカー全員ハッピー」と考えたくなるが、実際はそう単純ではない。TSMCの設備投資のなかで今いちばん増えているのはAI向けの後工程(パッケージング・検査)だからだ。ここは日本勢ではアドバンテスト・ディスコ・レーザーテックのドメインで、まさにこの3社に需要が集中する構造になっている。

一方、前工程の汎用装置を扱う東京エレクやSCREENは、TSMC以外の顧客(中国系・NANDメモリ・一部の先端ロジック)で投資スローダウンを受けている。ただしTSMCの2026年の設備投資増(+37%見通し)は、前工程装置メーカーにとっても2027年3月期以降の明確な追い風になるため、野村證券のような強気の目標株価引き上げが出始めている。

3. 熊本「JASM第2工場」の存在感

TSMCは同じ決算発表のなかで、熊本第2工場(JASM第2工場)での生産強化にも言及した。JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing=ジェイエーエスエム)はTSMC主導の合弁会社で、熊本県菊陽町に工場を構えている。第1工場は2024年末から量産を開始しており、第2工場は2027年末の稼働を予定している。

① JASMの出資構成 — 日本勢が広く絡む

JASM 出資比率
出資者 比率 目的
TSMC 約86.5% 製造ノウハウ・運営主体
ソニーセミコンダクタソリューションズ
(6758の子会社)
約6.0% イメージセンサー向け22/28nmを自社分として確保
デンソー
(6902)
約5.5% 車載半導体の安定調達(ADAS・EV向け)
トヨタ自動車
(7203)
約2.0% 第2工場から新たに出資、車載用の長期確保

出典: ソニーセミコンダクタソリューションズ「熊本におけるJASM第二工場の建設について」トヨタ自動車「熊本におけるJASM第二工場の建設について」

② 3nmプロセス採用で日本が「最先端の一角」に

2026年2月にTSMCのC.C.ウェイ会長兼CEOが日本政府に伝えた内容によれば、第2工場では3nmプロセスが採用される。これは日本国内で初めて最先端ロジックが量産される意味を持ち、単なる汎用工場の追加ではない。これまで熊本の第1工場は22/28nmや12/16nmなど成熟〜中位のプロセスが中心で、「日本は最先端からは一歩遅れ」という見方があった。3nmの採用はその構図を大きく変える。

経済波及効果は熊本県内だけで約11.2兆円、雇用効果は3,400人以上と見込まれている。地元の不動産、建設、装置・素材の供給網まで含めると、一般に想像される以上に広く恩恵が広がる。

③ 周辺銘柄への広がり

熊本JASMの第2工場は、出資者だけでなく素材・商社・設備まで含めたサプライチェーン全体を動かす。たとえば半導体商社の三井物産(8031)、信越化学(4063)や東京応化工業(4186)といったシリコンウエハー・レジスト大手にも間接的な恩恵が及ぶと見られる。また菊陽町にはルネサスエレクトロニクス(6723)の川尻工場もあり、エンジニア獲得をめぐる競争が起きている点も、労務コスト面で織り込んでおきたい論点だ。

4. マスクの「テラファブ」構想 — 新しい需要源

TSMC決算と同じタイミングで話題になったのが、イーロン・マスク氏の「テラファブ(Terafab)」構想である。2026年4月16日のBloomberg報道によれば、マスク氏側近がテスラとスペースXの合弁事業として東京エレクトロン、米アプライド・マテリアルズ、米ラムリサーチといった半導体製造装置メーカーに接触し、見積もりや納期を問い合わせているという。

① テラファブとは何か

テラファブ構想の骨子
項目 内容
発表主体 テスラ・スペースXの合弁事業として2026年3月にマスク氏が発表
建設地 米テキサス州オースティン近郊
生産規模 パイロットラインは月3,000枚ウエハー。将来的に急拡大を目指す
目標時期 2029年にシリコン製造を開始、その後は速やかに拡大
目的 テスラのAI半導体(自動運転用・ロボット用)とスペースXの宇宙向け半導体を自前製造

出典: Bloomberg「マスク氏の半導体構想テラファブ始動、東京エレクなどに接触-関係者」Bloomberg「マスク氏、半導体製造工場『テラファブ』建設へ-AI・宇宙事業向け」

② なぜマスク氏は「自前の半導体工場」を作ろうとするのか

端的に言えば、TSMCの生産能力が逼迫しすぎていて、テスラの欲しいチップを欲しいタイミングで手に入れられないからである。AIチップの需要はOpenAI、NVIDIA、AMD、Apple、Metaの発注で埋まっている。テスラが自動運転用の「Dojoチップ」やOptimus(ロボット)用AIチップを量産したいとき、TSMCの順番待ちではスケジュールが合わない。そこでマスク氏らしい発想として「足りないなら自分で作る」という選択に至った。

③ 日本の装置メーカーへの影響

テラファブの稼働は2029年以降で、2026年の業績にはほぼ影響しない。ただし2027年〜2028年の受注には段階的に反映される可能性がある。とくに東京エレクやアドバンテストのように、TSMC以外の顧客ポートフォリオの多様化を狙う企業にとっては、重要な「第2の柱」候補になる。

一方で、テラファブはまだ土地取得も装置発注も確定していない構想段階であり、報道では「4兆円の半導体工場」「4つの壁がある」とも言われている。過熱した期待で個別銘柄を追いかけすぎない冷静さは必要だろう。

5. 個人的に注目しているポイント

以上が事実ベースの整理だが、いくつか個人的に気になっている点を書いておきたい。

① 「AI設備投資8.9兆円」はどこまで続くか

個人的に最も注目しているのは、TSMCの設備投資560億米ドル(約8.9兆円)が景気悪化局面でも維持されるのかという点である。中東情勢や景気減速の懸念が強まった場合、真っ先にカットされるのが設備投資だ。過去、半導体サイクルは需要の天井をつけるより先に「設備投資の前倒しピークアウト」で株価が下落し始める傾向がある。Bloombergの報道でも、TSMC自身が「市場は戦争の経済的打撃を過小評価している」と警戒を促していた。その意味で、2026年4-6月期以降の設備投資ガイダンスの微修正に最も敏感に反応すべきだと考えている。

② 東京エレクの「底打ちのタイミング」

東京エレク(8035)は2026年3月期が純利益-18%と踊り場だが、野村證券の目標株価引き上げに見るように、マーケットはすでに2027年3月期の回復を織り込み始めている。個人的な見解としては、TSMCの設備投資が+37%に上方修正されたいま、東京エレクが「踊り場を抜けるシグナル」を出すタイミングがどこかは、半導体関連株全体の方向性を決める可能性が高い。具体的には、2026年4-6月期の受注高が前年同期比でプラスに転じるかどうかに注目している。

③ 熊本JASMは「日本ブランド」の回復になるか

JASM第2工場の3nm採用は、単に経済波及効果の話を超えて、日本の半導体エコシステム全体の地位回復につながる可能性がある。ルネサスや国産EDAツール、素材メーカー、エンジニア供給まで含めて、「最先端プロセスが日本国内で動く」という事実がもたらす連鎖効果は、数字に出るまで時間がかかっても、中長期では大きい。個人的には2027年の稼働開始以降、熊本発の「日の丸半導体エコシステム」の勢いが株価にも徐々に織り込まれていくと見ている。

注意点: 個人的な見解はあくまで一つの見方である。半導体セクターはサイクルが速く、地政学リスクや為替にも敏感に反応する。実際の判断は各自で決算短信・有価証券報告書などの公開情報をもとに行ってほしい。

6. まとめ

▶ 本稿のまとめ

TSMCの2026年1-3月期決算は、AI需要の「継続性」をはっきりと示した。四半期として過去最高の売上・純利益を記録し、通年の設備投資見通しは最大8.9兆円と過去最高を更新する水準まで引き上げられた。日本の半導体関連株はこの恩恵を受けるが、AI向けの後工程(アドバンテスト・ディスコ・レーザーテック)は絶好調、汎用の前工程(東京エレク・SCREEN)は踊り場という二極化が続いている。ただし、TSMCの投資積み増しは2027年3月期以降の前工程装置メーカーの回復材料となるため、マーケットはすでに織り込み始めている。

加えて、熊本JASM第2工場の3nmプロセス採用は日本の半導体エコシステムに新しい重心を作る可能性があり、出資するソニーG・デンソー・トヨタ、周辺の三井物産・信越化学・東京応化工業、そして人材面でのルネサスまで、波及の射程は広い。さらに中長期の新テーマとして、マスクの「テラファブ」構想が東京エレクにも接触しているという話は、2028年以降の新たな需要源として意識しておきたい。

半導体株は「AIブームが続くか」だけでなく、「どの工程のどの顧客に強いか」で結果が大きく変わるセクターである。今回のTSMC決算は、そのレイヤー感をあらためて意識する良いきっかけとなった。

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

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