「AI関連はもうバブルだ」という声も「まだ序盤だ」という声も、毎日のように目にする。ただ、どちらの立場でも意外と答えられないのが「では今、実際に何がどれだけ足りていないのか」である。AIサーバーの部品や電力の値段を一つずつ調べていくと、不足しているモノは思ったより具体的で、高騰の度合いも解消までの時間もはっきり分かれていた。個人投資家として、この「何が・どれだけ・いつまで」を一度整理しておきたかった。
結論から言えば、生成AIの供給網で「原材料は安く手に入るのに、需要が大きすぎて価格が高騰している」場所は4つある。メモリ(DRAM・HBM)、電力インフラ、光部品、チップ組み立て(CoWoS)である。値上がりの激しさではメモリが主役で、DRAMの市況は1四半期で8〜9割上がった。高騰の桁が違うのは電力で、米国の「容量価格」は2年で約11倍になった。そして解消までの時間は「チップ組み立て→光部品→メモリ→電力」の順に長く、電力の逼迫(品不足と価格高騰)は2030年ごろまで残るというのが個人的な見立てである。
目次
1. 足りないのは「作る技術」ではなく「数」 — ボトルネックは4箇所
生成AIのサプライチェーン(供給網)は、川上から順に、原材料、素材・部材、半導体の製造、AIサーバーと通信機器、それを動かすデータセンターと電力、そして最後にOpenAIやAnthropic、Googleといった「AIプロバイダー」と並ぶ。ボトルネック(全体の流れを詰まらせている場所)がどこにあるかを地図にしたのが下の図である。
この図で大事な点が一つある。4つのボトルネックはどれも、「作る技術がない」わけではない。メモリの原材料はシリコン、つまり砂から作るウェハーで、豊富かつ安価に手に入る。電力も、米国では燃料の天然ガスが安く豊富にある。発電所や変圧器の作り方が分からないわけでもない。純粋に、AIプロバイダーとその後ろにいる巨大IT企業の需要が大きすぎて、増産のペースが追いつかない。それだけの理由で、値段だけが先に跳ね上がっている。
では、それぞれどの程度「足りない」のか。価格の上昇倍率と、需要に対する不足の割合を並べたのが次の図である。
左の「何倍になったか」では電力の容量価格が突出し、右の「足りない割合」では光モジュールが突出している。一方でDRAMの需給ギャップは1〜2%と小さく見えるが、これは価格が8〜9割上がった後の数字である。値段が跳ね上がった結果、買えない人が脱落して、数字の上では需給が「合っている」ように見えているだけである。ここから一つずつ中身を見ていく。
2. メモリ — 値上がりの主役。DRAMは1四半期で8〜9割上がった
4つの中で、値上がりの激しさと生活への影響がいちばん大きいのがメモリである。DRAM(パソコンやサーバーが作業用に使うメモリ)の市況は2025年10-12月期から2026年1-3月期にかけて8〜9割上がり、パソコン用のDDR5メモリに至っては半年強で3.5〜4倍になった製品がある。市場調査会社のTrendForceは、2026年通年でもDRAM価格がさらに7割超上がると見込んでいる(TrendForce「Memory Wall Bottleneck」)。自作PCやゲーミングPCの値段が急に上がったと感じている人がいたら、原因の大部分はこれである。
なぜここまで上がるのか。犯人はHBM(GPUのすぐ隣に載せる、DRAMを4〜5層積み上げた高速メモリ)である。AIサーバー1台はHBMと通常のDRAMを大量に積む。しかもHBMは積層構造のせいで、同じ容量の普通のDRAMより何倍もウェハーを消費し、歩留まり(作った中で良品になる割合)も低い。メモリを作れるのは事実上SKハイニックス、サムスン電子、マイクロンの3社だけで、3社ともに儲かるAI向けへ生産ラインを寄せた。その結果、スマホやPC向けの普通のメモリが構造的に足りなくなった。マイクロンのHBMは2026年分がすでに完売と報じられており、データセンター向けが世界のメモリ生産の最大7割を吸い上げるという推計もある。
日本から見ると、この波の恩恵を最も受けているのがNAND(データ保存用のメモリ)大手のキオクシアである。AIサーバーは学習データの置き場としてSSD(NANDを使った保存装置)も大量に必要とするため、NANDの価格も上がり、同社の業績と株価は2026年に入って急伸した。メモリ不足はAI関連の中でも、日本の個人投資家の損益に直結しやすい場所になっている。
3. 電力 — 高騰の桁が違う。容量価格は2年で約11倍
値上がりの「桁」がほかと違うのが電力である。米国東部の送電網を運営するPJMという機関は、停電に備えて発電所の能力を前もって確保しておくための入札(容量オークション)を毎年行っている。この落札価格が、2024/25年度向けは1MW・1日あたり28.92ドルだったのに、2025/26年度向けで269.92ドル、2026/27年度向けは329.17ドルまで上がった(ElectricityRates.com)。2年で約11倍である。値上がり分は最終的に一般家庭の電気代に転嫁され、州によっては家庭の電気料金が1.5〜5%上がると試算されている。米国では「AIのせいで電気代が上がる」が、すでに政治問題になりつつある。
電力がここまで詰まる理由は、送電網の増強に使う機器の納期にある。大型の変圧器(電圧を変える機器。発電所や変電所に必須)は納期が平均2年半、大容量品では4〜5年待ちと報じられている。電力会社、再生可能エネルギー事業者、データセンター開発者が同じ生産枠を取り合っているためである。系統への接続を待ちきれないデータセンターは自前の発電機に走り、米カミンズの大型発電機は2028年分まで売り切れになった。ガスタービンを作る三菱重工やGEベルノバ、シーメンス・エナジーの受注残が積み上がっているのも同じ構図である。2026年に着工予定だった米国のデータセンター約16GWのうち、実際に建設が始まったのは約5GWにとどまるという集計もあり、電力はもはや「AIチップの次の心配事」ではなく、今まさに建設計画を止めている当のボトルネックである。
個人的には、この電力の逼迫が4つの中でいちばん息が長いと見ている。理由は2つある。第一に、変圧器やタービンの工場を増やすこと自体に2〜3年かかり、送電網の増強は10年単位の事業だからである。第二に、変圧器や開閉装置はデータセンター建設費の1割にも満たない。買う側からすれば、多少値上がりしても計画全体を止めるよりましなので、価格が上がっても需要が減らない。この2つがそろうと、高値は長く続く。
4. 光部品とチップ組み立て — 逼迫は続くが解消の道筋が見える
残る2つは、逼迫はきついものの、解消への道筋が比較的はっきりしている。
一つ目は光部品である。AIの計算は1台のサーバーでは終わらず、何千台ものGPUを光ファイバーでつないで一つの巨大な計算機のように動かす。このサーバー同士の接続に使うのが光モジュール(電気信号と光信号を変換する部品)で、AI向け市場は2025年の165億ドルから2026年には260億ドルへ、1年で6割近く伸びる見込みである(TrendForce 2026年4月プレスリリース)。ボトルネックはモジュールの中の小さなレーザーチップ(EML=光信号を高速で点滅させる発光素子)で、この供給が追いつかず、主力の800Gモジュールは需要に対して生産が3〜6割足りない状態が続いている。エヌビディアが約40億ドルを投じて米国のレーザー大手2社(ルメンタム、コヒレント)の供給枠を押さえにいったため、他社の調達がさらに後ろへ押し出された。日本ではフジクラや古河電工など光配線・電線系の企業がこのテーマで買われてきた。
二つ目はチップ組み立てである。AI向けGPUは、GPU本体とHBMを1枚の土台の上に載せて配線する特殊な組み立て工程(TSMCのCoWoSと呼ばれる技術)を通らないと完成しない。実はここ2年ほど、AIチップの供給を決めていたのはチップの製造能力ではなく、この組み立て工程の能力だった。TSMCは月3.5万枚(2024年末)から2026年末には月12〜14万枚へと猛烈に増設しているが、それでも需要には届かず、エヌビディアが枠の大半を予約済みである。ただし需給ギャップは現在の約20%から2026年末に約10%へ縮み、2027年にはさらに改善する見通しが出ている(TrendForce 2026年6月報道)。TSMCという1社の設備投資だけで解決できる問題なので、4つの中では解消がいちばん早い。周辺ではAI向け基板を作るイビデンや新光電気工業が同じ需要の波に乗っている。
5. いつまで続くか — 早い順にチップ組み立て、光部品、メモリ、電力
ここから先は、現時点で公表されている増産計画や市場調査会社の見通しに加えて、個人的な予測を多く含む。解消時期は各社の計画が予定どおり進んだ場合の目安であり、ずれる可能性は十分にある。
4つのボトルネックの解消時期を時間軸に並べたのが次の図である。
| ボトルネック | 高騰・不足の度合い | 解消のめど | 主な企業 |
|---|---|---|---|
| 電力・変圧器・タービン | 容量価格が2年で約11倍 | 2029〜2030年ごろ | GEベルノバ、シーメンス・エナジー、三菱重工 |
| メモリ(DRAM・HBM) | 市況が1四半期で+80〜90% | 2028年ごろから緩和 | SKハイニックス、サムスン電子、マイクロン、キオクシア |
| 光部品(レーザーチップ) | 供給が需要を30〜60%下回る | 2026年末〜2027年 | コヒレント、ルメンタム、フジクラ、古河電工 |
| チップ組み立て(CoWoS) | 需給ギャップ約20%→10%へ縮小中 | 2027年にほぼ解消 | TSMC、イビデン、新光電気工業 |
解消時期の根拠は、場所ごとにまったく違う。個人的にはここを重視している。チップ組み立てはTSMC1社の増設計画がそのまま答えになる。光部品もモジュール組立の増設は速い。一方メモリは、2026年の需給充足率がマイナス1〜2%のまま、市場調査では2027年もDRAMの供給不足が続くとされている(EE Times Japan 2026年8月5日)。メモリ各社は新工場の建設を決めているが、立ち上げは2027年、生産量に本格的に効いてくるのは2028年以降である。NANDは一足早く、2027年後半には供給過剰に転じる見通しが出ている。そして電力は前のセクションで書いたとおり、機器の納期と送電網の工期がそもそも年単位なので、2029〜2030年ごろまで残るとみるのが自然である。
ただし、メモリについては一つ警戒していることがある。メモリ市況は過去30年、「大増産→2年後に供給過剰→価格が半分以下に暴落→投資削減→また不足」というサイクルを繰り返してきた。今回の各社の巨額投資も、需要の伸びが少しでも鈍れば2028年前後に供給過剰へ反転しかねない。あくまで個人の予想だが、「メモリ不足は2028年まで」というシナリオは、裏を返せば「2028年ごろにメモリ価格が崩れるリスクがある」と読むべきだと考えている。メモリ株を持つなら、不足の長さより反転の時期を気にしたい。
6. まとめ — 不足はチップから物理インフラへ移っていく
結論
- 生成AIの供給網で「原材料は安いのに需要超過で高騰」しているのは、メモリ・電力・光部品・チップ組み立ての4箇所である
- 値上がりの主役はメモリ(DRAM市況が1四半期で+80〜90%)、高騰の桁が違うのは電力(容量価格が2年で約11倍)である
- 解消はチップ組み立て(2027年)→光部品(2026年末〜2027年)→メモリ(2028年〜)→電力(2029〜2030年)の順。設備投資で解決しやすいものから順に消え、工期の長い物理インフラが最後まで残る
全体を通して見えてくるのは、ボトルネックが時間とともに川上から川下へ移っていく流れである。2023〜24年は GPUそのものが買えなかった。2025年はチップ組み立てが詰まった。2026年の今はメモリと光部品の番で、この先は電力が残る。「設備投資で解決しやすい順に解消し、リードタイム(発注から納品までの時間)が長いものが最後に残る」という、考えてみれば当たり前の順番である。AI関連のテーマ株も、おおむねこの順番どおりに物色が移ってきた。
最後にリスクにも触れておく。この4つの高騰はすべて「AIプロバイダーと巨大IT企業が巨額の設備投資を続ける」ことが大前提である。AIの推論(学習済みモデルを実際に使うこと)で稼げる金額が投資に見合わないと判断されれば、巨大ITが投資を減らし、その分がそのまま部材メーカーの売上減になる。特にメモリは前のセクションで書いたとおり、需要が少し鈍っただけで価格が急落してきた歴史がある。「不足がいつまで続くか」と「株価の上昇がいつまで続くか」は別の問いであり、後者はたいてい、不足が解消するより早く終わる。個人的には、この時間差こそがAI関連株でいちばん間違えやすいポイントだと考えている。
出典: TrendForce「Memory Wall Bottleneck: AI Compute Sparks Memory Supercycle」、EE Times Japan「27年メモリ市場 DRAMは逼迫継続、NANDは供給緩和へ」(2026年8月5日)、ElectricityRates.com「PJM Prices Skyrocket Again for the 2025–2026 Delivery Year」、TrendForce「Global AI Optical Transceiver Market to Reach US$26 Billion in 2026」、TrendForce「TSMC CoWoS Supply-Demand Gap Reportedly Seen Narrowing」(2026年6月15日)
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。