X Facebook LINE Bookmark

日米の協調円買い介入 — 外貨準備約200兆円でも、円買いの残弾はあと2回分か

7月30日の夜、ニューヨーク市場でドル円が50分ほどで約5円落ちた。163円近辺から一気に157円台である。政府・日銀の円買い・ドル売り介入で、同じ日にニューヨーク連銀は銀行に相場水準を問い合わせるレートチェック(介入の前段階にあたる確認作業)まで行った。そして翌31日、今度は米財務省が「本日、円買い介入があるかもしれない」と複数の銀行に予告したうえで、実際に円を買ったと報じられた。米国が為替介入に動くのは2011年の東日本大震災後の協調介入以来で、しかもあのときは円売りだった。円を買う側での参加は1998年以来、28年ぶりである。自分もこの2日間は値動きを追いながら、「日本単独の時間稼ぎ」とはまったく違う局面に入ったと感じた。

日本の外貨準備は2026年6月末で1兆2,875億ドル(約200兆円)と数字の上では巨大だが、介入にすぐ使える「現金」にあたる預金は1,619億ドル(約25兆円)しかない。7月30日の介入額の推計6〜7兆円を差し引けば手元に残る現金は18兆円前後。円買いの残弾は、ざっくり言えばあと2回分である。それでも今回の介入が過去2年と手応えが違うのは、米国が自分の資金で円を買うという、上限を読みにくい買い手が現れたからである。ただし、円安の根っこである日米の金利差は介入では縮まらない。ドル円が本当に反転するかどうかは、日銀の利上げと米国の利下げにかかっている。

日米協調の円買い介入と日本の外貨準備を示すイメージ
7月21日
ニューヨーク市場でドル円が一時163円24銭。約39年7カ月ぶりの163円台に乗せる。
7月24日
163円99銭まで円安が進む。164円が目前に迫るが、この時点で政府は動かず(財務省が7月31日に公表した統計で、6月29日〜7月29日の介入額はゼロだったことが確認されている)。
7月30日
ニューヨーク時間に政府・日銀が円買い・ドル売り介入。ドル円は50分ほどで約5円下げて一時157円台に。市場推計では介入額6〜7兆円規模とみられている。同日、ニューヨーク連銀がレートチェックを実施。
7月31日
朝方、ベッセント米財務長官が「円はとても割安に見える」と発言。その後、米財務省がニューヨーク連銀を通じ、複数の銀行に「円買い介入がある可能性」を事前に伝達し、英フィナンシャル・タイムズが「米財務省はユーロを売って円を買った」と報道。円は一時155円台まで上昇。同日、日銀は政策金利を1.0%に据え置き。
8月1日
ドル円は157円前後で推移。三村財務官は米当局との協調について「単なる精神的支援を超える支援」と述べ、介入実施の有無への言及は避けたと報じられた。

外貨準備1兆2,875億ドルの中身 — すぐ使える現金は預金1,619億ドルだけ

「日本には200兆円の外貨準備があるのだから、介入なんていくらでもできる」という声をよく見かける。外貨準備とは、政府と日銀が持っているドルなどの外貨建て資産のことで、その大半は財務省の外国為替資金特別会計(為替介入用の資金を管理する国の会計。以下、外為特会)にある。ただ、総額だけを見て「いくらでもできる」とは言えない。財務省が公表している6月末の内訳を見ると、その理由がはっきりする。

日本の外貨準備の内訳(2026年6月末)。証券9,286億ドル、預金1,619億ドル、金1,095億ドルなど

総額1兆2,875億ドルのうち、7割強の9,286億ドルは証券で、その大半は米国債とされる。すぐに売り物にできる預金は1,619億ドル、円に直すと約25兆円である。円買い介入は「手持ちのドルを売って円を買う」取引なので、まずこの預金から使うことになる。

「証券を売ればいいではないか」と思うかもしれない。ただ、ここに円買い介入特有のやりにくさがある。外為特会が米国債を大きく売れば、米国債の価格が下がって米国の長期金利が上がる。米国の金利が上がれば日米の金利差が開き、それ自体が円安の材料になる。円安を止めるために証券を売ると、円安の原因を自分で作ってしまうのである。日本政府による米国債売りは米国側の警戒も招くため、外交上も気軽には使えない。介入の「弾」として実際に数えられるのは、預金の部分だけと考えたほうがよい。

とはいえ、預金が尽きたら即終了というわけでもない。保有する米国債のうち満期が来たものを新しい債券に乗り換えず、償還金を現金のまま持てば、市場で売らずに預金を厚くできる。実際、財務省はここ数年、介入に備えて預金を積み増してきた(2021年8月末の預金は1,347億ドルだった)。ただしこのやり方は満期のペースに縛られるので、短期間に何兆円も補充できるものではない。

過去の介入と残り弾 — 7月30日分を差し引くと、あと2回分か

いまの残高で、介入はあとどれくらい続けられるのか。まず過去の円買い介入の規模を振り返る。

時期 介入額 そのとき何が起きたか
2022年9〜10月 約9.2兆円 151円台から一時130円台まで円高が進んだ。ただし反転の主因は、直後に米国の利上げ打ち止め観測が出て米金利がピークを付けたことだった
2024年4〜5月・7月 合計約15.3兆円 4〜5月の介入で160円台から一時151円台へ押し戻したが、7月には161円台まで円安が再燃。流れが変わったのは、7月末の日銀利上げと米雇用統計の悪化が重なってからだった
2026年4〜5月 約11.7兆円 一時155円台まで押し戻したが、7月には介入前の水準を超えて163円台まで円安が再燃した
2026年7月30日〜 6〜7兆円規模(市場推計) 163円近辺から一時155円台へ。今回は米財務省の円買いが加わった。正式な介入額は8月28日公表の統計で判明する

介入の跡は、外貨準備の残高にそのまま出ている。主要な月末の残高を並べたのが下のチャートである。

日本の外貨準備高の推移。2021年8月の1兆4,243億ドルをピークに、介入のたびに減少している

ピークは2021年8月末の1兆4,243億ドルで、円買い介入をやるたびに残高が階段状に減っているのが分かる。直近では、4〜5月の11.7兆円の介入を反映した5月末に前月比771億ドル減と、統計を遡れる範囲で最大の減少率(5.6%減)を記録した。

すぐ使える預金は6月末時点で1,619億ドル(約25兆円)。7月30日の介入(推計6〜7兆円)は、この6月末の残高からすでに支払われている。差し引くと、いま手元に残る現金は18兆円前後とみられる。4〜5月並みの11.7兆円級の介入ならあと1回強、7月30日規模ならあと2〜3回。ざっくり言えば、円買いの残弾はあと2回分である。もちろん先に書いたとおり償還金での補充はできるので、文字どおりのゼロにはならない。それでも、「200兆円あるから無限に戦える」という話ではなく、年に数回の大規模介入を何年も続けられる体力はない、というのが数字から見える実像である。個人的には、6月29日〜7月29日に介入がゼロだったのも、163円台まであえて引きつけたというより、4〜5月に撃ちすぎた反動で弾を温存する必要があったのだろう。実際にどれだけ減ったかは、8月7日ごろ公表の7月末の外貨準備統計で確かめられる。

米国の「ユーロ売り・円買い」が変えたもの

今回がこれまでと決定的に違うのは、買い手の顔ぶれである。この「弾数の制約」を市場が知り尽くしたところに、制約の緩い米国が買い手として現れた。

フィナンシャル・タイムズの報道によれば、米財務省は7月31日、ニューヨーク連銀がゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを通じて注文を出す形で、手持ちのユーロを売って円を買った。介入の前に「今日介入があるかもしれない」と銀行に予告するのも異例で、隠すどころか、むしろ市場に見せつける意図を感じる動きだった。

ここから先は、自分の解釈を多く含む。

米国の思惑 — 関税政策との整合と、無秩序な円急変動の予防

米国の動機として一番大きいのは、自国の通商政策との整合だと考えている。関税で貿易赤字を減らそうとしている米政権にとって、行き過ぎたドル高は輸入品を安くして関税の効果を打ち消し、米国の輸出競争力も削ぐ。つまり円安の是正は、日本を助ける話であると同時に、米国自身の利害でもある。三村財務官の「単なる精神的支援を超える支援」という言い回しも、この利害の一致を裏付けている。

もう一つは、市場の壊れ方への警戒である。2024年8月には、円を売って高金利通貨で運用するキャリー取引が一斉に巻き戻され、日経平均の歴史的な急落と世界株安を引き起こした前例がある。円安を放置して164円、170円と進んだ末に同じ巻き戻しが起きれば、米国の株式市場も無傷では済まない。極端な水準に達する前に日米で管理しながら調整させるほうが安い、という計算があったのだと思う。

ドルを売りたくない理由 — 基軸通貨の看板と、外貨43億ドルという実弾の少なさ

次に、なぜユーロだったのか。ドルを売って円を買えば話は簡単に見えるが、米国にとってドル売り介入は「自国通貨の切り下げ操作」そのものになる。世界中の国が外貨準備をドルで持っているのは、ドルの価値を米国が勝手に下げないという信頼があるからで、基軸通貨の発行国が公式にドルを売れば、その前提を自分で壊すことになる。他国を「為替操作」と批判してきた立場との矛盾も突かれる。ユーロを売って円を買う形なら、ドルは取引の当事者にならず、ドル全体の相場への影響を最小限にしたまま、行き過ぎたユーロ円という組み合わせだけを是正できる。

実務的な事情もある。米議会調査局の資料によれば、米財務省の介入原資である為替安定基金(ESF=介入のために外貨などを保有する基金)の流動資産は、2026年2月時点で米国債235億ドルと外貨43億ドルにすぎない。外貨の保有は歴史的にユーロと円が中心なので、円を買う原資として手持ちのユーロを充てるのは自然な選択でもある。外貨43億ドルという規模は、日本の外貨預金1,619億ドルの40分の1程度しかない。米国の参加は、資金量で相場を動かす話ではもともとない。「ドルの発行元が円買いの側に立った」という看板の効果がすべてで、その看板を大きく見せるために、わざわざ事前に銀行へ予告までしてみせたのだろう。

ユーロは「強い通貨」なのか — 10年で対円5割高、ただし中身は消去法

売られたユーロは、どういう通貨なのか。この10年を数字で見ると、対円と対ドルで景色がまるで違う。対円では、2016年におおむね110〜130円台だったユーロ円が足元186円前後と、史上最高値圏まで約5割上昇した。ところが対ドルでは、2016年の1ユーロ=1.05〜1.13ドルに対して足元は1.18ドル前後で、10年かけてほぼ横ばいから小幅高にとどまる。つまり「ユーロが強い」のではなく、円だけが一人で弱かったのが実態である。

しかも、このユーロ高は欧州経済の強さを映したものでもない。ユーロ圏の成長率は低空飛行が続き、最大の経済国ドイツはエネルギーコストの上昇と製造業の不振で2023年、2024年と2年連続のマイナス成長だった。経済が冴えないのに通貨が高い理由は、消去法である。ECB(欧州中央銀行)は物価をおおむね抑え込み、金利から物価上昇率を引いた実質金利はプラス圏を保ってきた。そして、関税や介入も含めて米国のドルへの信頼が揺らぐ場面で、世界の資金がドルの代わりに逃げ込める規模の通貨はユーロしかない。円のように金利差で売り込まれる事情もなかった。

実態より高いユーロは、欧州の輸出企業にとってすでに重荷である。米国がユーロを売って多少ユーロ安になっても、欧州側には抗議する理由が乏しく、むしろ歓迎する企業のほうが多いはずだ。弱すぎる円、消去法で高くなりすぎたユーロ、切り下げ操作はできないドル。この三つを並べれば、「ユーロ売り・円買い」は関係国の誰も強くは困らない、最も角が立たない組み合わせだった。ユーロ円が史上最高値圏にあるいまは、売る側から見れば高値でユーロを手放すタイミングでもあった。

投機筋から見た景色の変化

投機的に円を売っている側から見ると、これは相当に嫌な変化のはずだ。日本単独の介入なら、外貨準備の統計から「あと何発撃てるか」を逆算して、弾切れを待って再び円を売ればよかった。実際、2024年も2026年5月も、介入の効果は数週間から2カ月で剥がれている。ところが米国が買う側に回ると、この逆算が成り立たなくなる。手持ちの外貨は43億ドルでも、ドルの発行元である米国には、理屈の上で「売る原資が尽きる」という概念がないからである。8月1日の市場で「当面は連続的な介入を警戒して取引せざるを得ない」という声が出ていたのは、その心理の変化そのものだと思う。

ドル円の展望 — 反転の条件は介入ではなく金利差

ここから先は、現時点で分かっている事実に加えて、個人的な予測をかなり含む。

まず動かない事実として、円安の根っこは日米の金利差にある。日銀は6月に政策金利を1.0%へ引き上げ、7月31日の会合では据え置いた。一方、米国の長期金利は4%台で推移している。過去の介入局面を振り返ると、2022年に円が反転したのは米金利がピークを付けたときで、2024年に流れが変わったのは日銀の利上げと米景気指標の悪化が重なったときだった。介入が反転のきっかけを作ったことは一度もない。介入の役割は、金利差が縮まり始めるまでの時間を買うことである。この構図は、日米協調になっても変わらないはずだ。

米国は日本の利上げまで求めているのか

求めていると見ている。隠してもいない。ベッセント米財務長官は2025年夏から「日銀の金融政策は後手に回っている」という趣旨の発言を繰り返し、2026年6月の日銀の利上げも米側が後押ししたと報じられている。介入当日の7月31日朝にも「円はとても割安に見える」「均衡価格を大幅に下回る水準まで行き過ぎている」と発言した。米国から見れば、自国の利下げ余地は物価次第で限られる以上、金利差を縮める仕事の残り半分は日本の利上げに頼るしかない。

今回の協調介入で、米国が日本に利上げなどの条件を付けている可能性はあるか。公表情報の範囲では、明文の取引は確認できない。そもそも金利は日銀の所管で、日銀の独立性という建前がある以上、政府同士の交渉で利上げを約束することは制度上できない。ただ、実質的には「米国が介入で時間を買い、その間に日本が利上げで金利差を縮める」という役割分担が、言葉にしないまま成立していると見ている。状況証拠は揃っている。米財務長官が「円は割安」と述べたその日に米国が円を買い、同じ日に日銀は据え置きつつも、植田総裁が「利上げペースの加速もありうる」と含みを残した。米国内でも「日銀の利上げがなければ介入の効果は限定的」という見方が出ている。

この暗黙の分担は、日本にとって楽な話ではない。利上げは住宅ローンや国債の利払い負担に直結するため、国内にはむしろ利上げを牽制する声が政府側にある。日銀は米国の期待と国内の抵抗に挟まれており、次の会合の判断は、米国との見えない約束の答え合わせになる。日銀が動かないまま円安が再燃すれば、米国の協力がいつまでも続く保証はない。あくまで個人の予想だが、今回の協調介入は日本が利上げを進めることを前提にした、米国の立て替え払いに近いと受け取っている。

シナリオは3つに分けて考えている。

シナリオ 水準の目安 起きるとしたらこういう形(あくまで個人の予想)
レンジ入り(本命) 155〜163円 日米協調が「164円は超えさせない」という天井として機能し、投機的な円売りが細る。ただし金利差が残るため円高も進まず、日銀の次の利上げ待ちの持ち合いになる
円高シフト 150円方向 植田総裁が示唆した利上げペースの加速が現実になり、米国が利下げに向かう。金利差の縮小を見て、円を売って高金利通貨で運用するキャリー取引(金利差を稼ぐ取引)の巻き戻しが重なると、下げは速くなる
円安再燃 164円超 過去2年と同じく数週間〜2カ月で介入効果が剥がれ、高値を再び試す。ただしその場合、日銀の利上げ前倒しと追加の協調介入がぶつかってくるため、一方的に走り続ける展開は考えにくい

自分がこの先追うのは3つの数字である。毎月上旬に公表される外貨準備統計の預金残高は、細るペースがそのまま介入の持続力を教えてくれる。8月28日公表の7月30日〜8月26日分の介入実績では、今回の介入額が確定して市場推計とのズレが分かる。そして日銀の次回会合である。介入は時間を買っているだけなので、買った時間のあいだに利上げが進むかどうかで、このレンジの持続性が決まる。

まとめ

ここまでの整理

  • 7月30日に政府・日銀が円買い介入、31日には米財務省もユーロを売って円を買った。米国の介入参加は2011年以来、円買い方向では1998年以来である。
  • 外貨準備1兆2,875億ドルのうち、介入にすぐ使える預金は1,619億ドル(約25兆円)。7月30日の介入分を差し引くと手元の現金は18兆円前後で、円買いの残弾はあと2回分である。
  • 介入は時間稼ぎであり、反転の条件は金利差の縮小。米国は日銀の利上げを公然と促しており、協調の実態は「米国が時間を買い、日本が利上げで応える」という暗黙の分担だと見ている。

今回調べて印象に残ったことがある。「弾数」の意味が、この2日間で変わった。7月29日までの日本は、25兆円の現金を数えながら単独で撃ち方を考える立場だった。7月31日からは、資金制約が実質的にない米国が隣で買ってくれる。それでも、外貨準備の統計を毎月数えるのはやめないつもりだ。米国の協力がいつまで続くかは米政権の都合次第で、日本側の弾数が再び唯一の頼みになる日が来るかもしれないからである。

出典: 日本経済新聞「政府・日銀が円買い為替介入、一時157円台」(2026年7月31日)日本経済新聞「米財務省も円買い介入示唆、異例の予告」(2026年7月31日)Investing.com「米財務省、円買い介入を実施——FT報道」(2026年8月1日)財務省「外貨準備等の状況(令和8年6月末現在)」

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

POPULAR ARTICLES