X Facebook LINE Bookmark

AIと人間社会の未来

  • 今後のAI技術の進化が日本の経済や社会にどのような影響を及ぼすのか考えてみた。
  • AGI(人間と同等以上の知的作業をこなすAI)が実現しても、日本でベーシックインカム(全国民への無条件の現金給付)は実現しない。配る原資になるAI企業が国内になく、賄う税収もないからだ。
  • AIは生産するが、消費しない。働く人の収入が減って消費も減る連鎖は、日本では雇用の縮小という気づきにくい形から始まり、人口減少と重なって経済は衰退していく。
  • 都心の不動産の値段は、頭脳労働者を一カ所に集めることへの対価である。AIはその前提を崩す。オフィスから住宅へ、時間をおいて需要が削られていくと見ている。
  • 産業の衰退はオフィスのサービス業から始まり、消費関連、製造業・農業の雇用へと順に広がる。一方で需要が増えるのはエネルギーとAI・データセンター関連。エネルギーは最後まで残る側の筆頭だが、AI産業ですら、買い手が消える最終局面では天井に当たる。
AIと人間社会の未来 — AI配当の原資がある国とない国

AIが本当に人間並みに賢くなったら、自分の仕事と給料はどうなるんだろう。今持っている企業の株価、経済はどうなるんだろう。今回は、今後のAI技術の進化が日本の経済や社会にどのような影響を及ぼすのか考えてみた。AGIは実現するという前提を置く。そのうえで、雇用と賃金、消費、産業ごとのお金の流れ、人口、そして不動産の順に見ていく。先に結論を書いておく。第一に、AGIが実現しても、日本でベーシックインカムは実現しない。第二に、AGIが実現するなら経済は徐々に衰退へ向かい、実現しないならAI株の高値が崩れる。

1. AGIが実現しても、日本にベーシックインカムは来ない理由

この記事の前提を書いておく。1つ目は、AGIが実現すること。時期や形には幅があるが、ここでは実現する側に倒して考える。2つ目は、そのときが来ても、日本でベーシックインカムは行われないこと。これは理由があってそう見ている。

理由の1つ目は、配る原資がないことだ。米国では、政府がAnthropicやOpenAIなどAI企業の株式を持ち、その運用益を国民に配るという構想が議論されはじめている(トランプ大統領が2026年6月に「米国民をAI企業のパートナーにする構想がある」と語った。Bloomberg日本語版の報道)。この仕組みの原資は、自国のAI企業が生む利益である。日本で同じことをやろうにも、日本ではそれらに相当するAI企業が存在しない。世界のAIモデルの性能ランキングの上位は米国勢と中国勢で埋まり、日本のモデルは表のどこにも出てこない。民間のAI投資額も米国とは桁が2つ違う。国内勢は、軽量で日本語に強いモデルを作る路線や、米国の最先端モデルを輸入して使う路線に絞っており、産業政策としては現実的な選択だと思う。ただ、国民に配れるほどの利益はそこからは生まれない。

理由の2つ目は、税金で配る財源もないことだ。仮に全国民に月7万円を配ると、年間およそ100兆円かかる。国の税収は2026年度予算の見込みで83.7兆円。過去最高を見込む年度でもこの水準だから、税収を全額つぎ込んでも足りない。政府の借金はすでにGDP(国内総生産)比230%前後と世界で最も重く、借金で賄う余地もない。

日本人がAIの利益を受け取れる間接的なルートは、公的年金くらいしかない。年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は約290兆円の資産の4分の1ほどを外国株に充てており、保有上位には米国のAI関連企業が並ぶ。自分が毎月払っている年金保険料も、回り回って米国のAI企業に投資されている計算だ。ただしこれは年金給付の財源であって、毎年現金で配られるわけではない。つまり、国がAIの利益を配ってくれる未来は来ない。その前提で、AGIが日本の経済と社会に何をもたらすのかを順番に見ていく。

2. AGIが実現する場合、実現しない場合

AGIが実現する場合、ホワイトカラーの仕事の大半が不要になる。極端に言えば8割の人の仕事がいらなくなり、収入を失った人から順に消費が減って、経済はゆっくりと衰退に入っていく。逆にAGIが実現しない場合、AGIの実現を見込んで買われてきたAI関連株の値段が間違っているということだから、いずれ大きく下がる。

これには有力な反論がある。「AGIが実現して大量の失業が出るなら、その分の利益はAI企業に集まっているはずだ。個別の銘柄はともかく、株価指数としては崩れないはずだ」というものだ。たしかに、いまの米国株はこの理屈どおりに動いている。少数の巨大AI企業が利益と時価総額を積み上げ、指数を引っ張っている。

だが、AIは生産するが、消費をしない。給料を受け取らないし、納税もしない。働く人の大半が職を失った世界で、AI企業はいったい誰を相手に商売をして、莫大な利益を上げ続けるのか。お客が消えれば、AI企業の売上のもとも消える。

短期ではAIによる効率化が企業の利益と株価を押し上げ続ける。だが中長期では、AGIに近づくほど、雇用と消費が減少し、モノやサービスの買い手が減っていく。

3. AIは生産するが、消費しない

「技術が仕事を奪っても、新しい仕事が生まれてきた。今回も同じだ」という楽観論がある。歴史的にはそのとおりで、産業革命では機械が筋肉労働を置き換えたが、工場で働く大量の労働者、つまり新しい消費者が生まれた。IT革命でもプログラマーやデザイナーという新しい職業が生まれ、その人たちが稼ぎ、使うことで経済が回った。技術は仕事を壊すと同時に、次の買い手を育ててきた。

AGIが実現すると、この歴史の前提が崩れる。新しく生まれた仕事も、人間より安くて速いAIが先にやってしまうからだ。AIは給料を受け取らない。給料がないから何も買わず、所得税も払わない。企業が人をAIに置き換えるほど、世の中全体では、商品を買うお金を持った人が減っていく。一社一社にとっては合理的なコスト削減が、社会全体では自分たちのお客を減らす行動になる。

同じ構造を理論にした研究も出はじめている。完全な自動化が実現すると、人間の賃金は「同じ仕事をAIにやらせた場合の計算コスト」の水準まで下がり、企業が生んだ付加価値のうち給料に回る割合はゼロに近づいていく、という論文がその代表だ(全米経済研究所(NBER)、2025年)。題名を直訳すると「私たちがいなくても誰も困らない」。経済の成長は続くのに、その成長と人間の労働が切り離されていくという見立てである。さらにその先には、所得が減ると結婚と出生が減り、人口が減ると消費する人もアイデアを生む人も減って、経済の縮小が止まらなくなるという連鎖もありうる。ただし、AIから人口減少、経済衰退までを一本の鎖として実証した研究はまだない。

4. 雇用・賃金・消費は三段階で衰えていく — 入口は若手の採用減

では、具体的にどんな順番で進むのか。頭の整理のために、三段階に分けてみた。

段階 何が起きるか 株式市場
第1段階(現在〜数年) 情報を処理して判断するホワイトカラーの仕事がAIに置き換わりはじめ、若手の採用が絞られる。AIを作る側・使いこなす側の報酬は急騰 人件費が減って企業の利益は膨らみ、最高値の更新が続く
第2段階(転換点) 職を失った人・賃金が伸びない人が消費を減らし、その売上に頼る企業の雇用がさらに減る連鎖が始まる AI企業以外の業績が伸びなくなり、指数の中身が少数のAI企業に偏る
第3段階(10年単位) AIの利益が株主と少数の技術者に集中。格差が極端に開き、再分配なしでは消費経済が回らなくなる 買い手の消えた市場で、AI企業も稼げなくなる

恩恵と痛みは、時間差で届く

この三段階が一気に来るわけではない。AGIの効率化で企業の利益が増える恩恵と、人件費の削減が消費の減少として戻ってくる痛みの間には、時間のずれがある。恩恵の出方も業種や業態でばらばらだ。情報のやり取りが仕事の中心であるソフトウェアや金融は、早く大きく効率化される。一方で、建設や物流、対面の店のように物理的な現場を持つ業種には、恩恵は遅れて小さく届く。だから経済全体がある日突然悪くなるのではなく、強い業種と弱い業種がまだらに入れ替わりながら、ゆっくり衰退していく。気づいたら景色が変わっている、という類いの変化だと思う。

第1段階:若手の採用減という静かな入口

第1段階は、もう始まっている。米国では、AIに置き換えられやすい職種に限って22〜25歳の若手の雇用が約16%減ったという実証研究が出た(スタンフォード大学の調査)。特徴的なのは、その出方だ。いま働いている人の解雇ではなく、これから働く人の採用減という形で進んでいる。失業率はほとんど動かないから、ニュースにもなりにくい。日本でも、生成AIの活用が進む企業から新卒採用の計画を見直す動きが出はじめた。私自身の職場でも、生成AIの導入で資料作成や調べ物の時間は明らかに減った。同じことが全国の会社で起きれば、人を増やす理由は薄れていく。失業率の上昇と採用の統計に現れると思う。

第1段階で労働者の賃金は二つに割れていくはずだ。AIを作る側と、AIを使いこなして経営する側の報酬は急騰する。一方で、AIに置き換えられる側の賃金は上がらなくなる。法務、会計、資料作成、カスタマーサポートといった、経済の真ん中を支えてきた事務系の中間層が薄くなっていく。

第2段階:消費の縮小が連鎖する

第2段階は消費だ。職を失った人や賃金の伸びない人は、外食を控え、旅行をやめ、車の買い替えや家の購入を先延ばしにする。すると外食産業や旅行業や自動車産業の売上が減り、今度はそこで働く人の雇用と賃金が削られる。一人の節約が別の誰かの減収になり、それがまた次の節約を生む。AIのおかげでモノの値段は下がるだろうが、家賃と食費はゼロにはならない。値下がりより収入の減少のほうが速い人から、生活が回らなくなる。自分も収入が減る見通しが立てば、まず外食と旅行から削る。同じ行動を何百万人が取れば、それが連鎖の入口になる。

第3段階:AIの利益はどこへ行くのか

第3段階で気になるのは、AIで生まれた利益がどこへ行くかだ。利益は、AI企業とその株主、データセンターやGPU(AIの計算に使う半導体)を持つ企業に集まる。ここで足元のAI企業の売上の中身を見ると、その多くは「企業が人をAIに置き換えるための支出」だ。つまり社会全体で見れば、AI企業は自分のお客、つまり給料をもらって消費する人を減らす投資で稼いでいる。タコが自分の足を食べているような構図で、足がなくなったとき誰に何を売るのか。

「広告で稼げばいい」という逃げ道も続かない。いまのネット広告は、人間が広告を見て成り立つ商売だ。だが調べ物も買い物もAIエージェント(人間の代わりに作業をこなすAI)に任せる時代になれば、人間はそもそも画面を見ない。広告を見る機会が減れば、無料でサービスを配って広告で回収するビジネスは成り立たない。ではAIに広告を見せればいいのかというと、それはもう広告ではない。AIエージェント同士が値段と条件を瞬時に比べて選ぶだけの、機械同士の取引になる。条件だけで選ばれる世界ではブランドの好感度にお金を払う意味が薄れ、広告やマーケティングという産業そのものが縮んでいく。

このシナリオには大事な注意点がある。すべてはAGIが実現するという前提の話で、AIの進化がいまの延長で頭打ちになれば、前提ごと崩れる。経済学者の間には、AIが生産性を押し上げる効果は今後10年で1%にも満たないとする控えめな試算もある。決まった未来ではなく、備えておくべきシナリオの一つである。

5. 産業はどんな順番で衰退し、何が成長するか — 最後に残るのはエネルギー

次に、産業ごとにお金と仕事がどう動くかを考えてみる。前の章で書いたとおり、AIの恩恵と痛みは業種ごとに時間差で届く。その時間差を順番に並べたのが次の表だ。意外に思われそうだが、最初に削られるのは工場ではなくオフィスである。

時期 産業 盛衰 起きること
第1段階(現在〜数年) サービス業(金融・法務・コンサル・事務・広告など) 衰退 最初に、最も深く削られる。情報を扱って判断する仕事はAIの得意分野そのもの
第1段階から継続 AI・データセンター関連(半導体・通信・建設工事) 成長 投資マネーと売上が集中し、成長が最も長く続く。ただし最終局面(第3段階)では買い手不足の天井に当たる
第1段階から継続 エネルギー(電力・ガス・送電・燃料調達) 成長 データセンター向けの電力需要が積み上がる。生活インフラでもあり、最後まで残る側の筆頭
第2段階 消費関連(外食・旅行・小売・自動車など) 衰退 AIに置き換えられるのではなく、収入の減った家計が支出を削ることで売上と雇用が連鎖的に縮む
第2〜第3段階 製造業 転換 工場の無人化が進み、海外へ出た工場が消費地の近くへ戻る。生産は戻るが雇用はほぼ生まない
第2〜第3段階 農業 転換 恩恵は農地の広さ次第。小規模農家が多い日本では限定的で、食料の値下がりは海外の大規模農場で作られた輸入品から先に届く
最後まで存続 人間に残る領域(対人・責任・身体接触) 存続 人間がやること自体に価値がある仕事、AIの判断に責任を取る仕事、人の身体に触れる仕事。ただし規模は小さい

第1波:オフィスのサービス業から削られる

サービス業が最初に来る理由ははっきりしている。金融、法務、コンサルティング、事務、広告、教育、医療の診断補助。これらは突き詰めれば「情報を処理して判断する」仕事で、AIのいちばん得意な領域だからだ。日本ではGDPの約7割をサービス業が占め、都心のオフィス街を埋めているのもこの仕事の人たちである。データを処理して判断する自分の仕事も、まさにこの側にある。人ごとではない。ここで働く人が減れば、オフィスの需要も一緒に減る。この点は、あとの不動産の話につながる。

第2波:消費関連の産業へ波及する

第2波は、外食、旅行、小売、自動車といった消費関連の産業だ。前の章で見た消費の連鎖を産業の側から見ると、ここに現れる。AIに直接置き換えられるからではなく、お客の財布が縮むことで削られていく。この違いは大事で、効率化の恩恵をほとんど受け取れないまま、痛みだけが届く業界ということになる。

製造業:無人工場が消費地の近くへ戻ってくる

製造業では、工場の無人化が進んで人を雇う必要がなくなれば、人件費の安さを求めて海外に出ていった工場が、輸送費の安い消費地の近くに戻ってくる。日本にとっては工場の国内回帰というチャンスでもある。ただし、戻ってきた無人工場は、法人税は落としても雇用はほとんど生まない。「企業は儲かるのに雇用は増えない」という形が、ここでも生じる。

農業:恩恵は農地の広さ次第、小規模農家の日本では限定的

農業の自動化は、米国のように一枚の畑が広い大規模農場ほど効率が出る。平均の経営面積が数ヘクタールと小さく、山あいの細かい田畑も多い日本では、自動運転トラクターのような高価な機械の元が取りにくく、恩恵は遅く小さく届く。それでも入口はある。農家の平均年齢は68歳を超え、引退する小規模農家の農地は法人経営など大きな担い手に集まりつつある。農地がまとまれば自動化は効きはじめるし、ドローンの農薬散布のように作業単位で外部に頼める形なら、小さな田畑でも使える。そして日本は食料の6割を輸入に頼っているから(カロリーベース)、海外の大規模農場が自動化でコストを下げれば、食べ物の値下がりは輸入品から先に届く。食料が安くなる方向は同じでも、国内の農村の雇用が増えるわけではない。

エネルギー:数少ない成長産業、最後まで残る側の筆頭

ここまで仕事が減る話ばかり書いてきたが、逆にAIが需要を増やす業界もある。電力などのエネルギーだ。AIの学習と利用には大量の電気がいる。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費が2030年にかけて2倍以上に増えると見込んでいる(IEA「Energy and AI」)。日本でも、人口減少で減り続けるはずだった電力需要は、データセンターと半導体工場の新設を理由に増える見通しへ変わった。米国では、AI企業がデータセンター向けに原子力発電所の電気を長期契約で買う動きまで出ている。

電気が増えれば、その燃料の需要も増える。日本は発電の約7割を火力に頼り、燃料のLNG(液化天然ガス)や石炭はほぼ全量を輸入している。データセンターが増えるほど、LNGを調達する商社やガス会社、発電する電力会社、送電網や変圧器を作る重電メーカーまで、エネルギーの周辺に仕事とお金が流れる。日本に世界最高級のAI企業はないが、AIに電気とインフラを売る企業は国内にそろっている。AIブームの恩恵が国内に落ちる数少ないルートだと思う。ただし副作用もあって、電力需要の増加は電気料金の上昇圧力になり、収入が伸びない家計の負担になる。

では、AIとエネルギーの産業は最後まで残るのか。エネルギーは、AIの拡大が続く限り需要が積み上がるうえ、AIがどうなろうと生活に欠かせないインフラでもあるから、最後まで残る側の筆頭だと考えている。AI産業自体も、成長が最も長く続く産業であることは間違いない。ただし無傷ではない。前の章で書いたとおり、雇用を削って買い手を減らしながら成長する構図である以上、最終局面では買い手不足という天井が、AI企業自身にも降りかかってくる。

人間に残る3つの領域 — ただし規模は小さい

では、人間に何が残るのか。3つの領域に絞られていくと考える。1つ目は、人間がやること自体に価値がある仕事。手仕事の工芸品、ライブの演奏、スポーツ、対面の接客。AIにもできるが、あえて人間に頼むこと自体がぜいたくになる領域だ。2つ目は、AIの判断を監視して責任を取る仕事。ただしこれはごく少人数しか必要とされない。3つ目は、人の身体に直接触れる仕事。介護、美容、育児。ロボットの進歩で削られていくとしても、心理的な抵抗が最後まで残る領域だと思う。問題は、この3つを全部足しても、いまサービス業で働く何千万人の受け皿には到底ならないことだ。

6. 人口減少と不動産 — 都心に人が集まる理由が消えていく

人が都市に集まるのは、知識と情報と仕事が一カ所に集まっているほうが効率がいいから。経済学ではこれを「集積の経済」と呼ぶ。丸の内のオフィスの家賃も、その周りのマンションの値段も、突き詰めれば「人間の知的労働を一カ所に集めること」への対価である。AIは、この前提を直接崩す。情報のやり取りと判断がネットワーク上のAIで済むなら、人が同じビルに集まる理由は薄れていく。

オフィス:必要な床面積が人数とともに減る

先に変わるのはオフィスだ。企業がAIで同じ成果を2分の1の人数で出せるようになれば、必要な床面積も2分の1に近づく。オフィスビルを束ねたREIT(不動産投資信託)を持っているなら、10年単位でこの変化が効いてくる可能性がある。

住宅:短期で上がり、中期で下がる

住宅はもう少し複雑で、二段階になると見ている。短期では、都心の物件はむしろ上がる。AIで先に豊かになるのはAI企業の株主、投資家、少数の技術者で、その人たちの購買力が都心の高級物件に向かうからだ。東京の湾岸タワーマンションや港区の価格高騰には、この力がすでに混ざっているはずだ。だが中期では、都心に住む最大の理由だった職場への近さが意味を失っていく。通うべきオフィスが減り、客の減った商業施設が閉まっていけば、高い家賃を払って都心に住む理由は一つずつ消えていく。

そのうえで、値段を押し下げる力が3つ重なる。第一に、空いたオフィスの住宅への改装で、都心の住宅供給はむしろ増える。第二に、仕事の場所の縛りが消えれば、生活費の安い郊外や地方へ移る人が増える。日本の空き家はすでに約900万戸、率にして14%近くあり、受け皿は有り余っている。第三に、職を失った人が住宅ローンを払えなくなれば、売り物件が増える。「土地は有限だから都心の不動産は安全」という考えもあるが、買い手が減り続ける世界では、資産を守るための箱が、売りたくても売れない箱に変わるおそれがある。不動産は数年から十数年かけてじわじわ下がる。

日本だけの事情:人口減少が重なる

そして日本には、人口減少という、この話をどの国より切実にする事情が重なる。2025年に生まれた子どもは68万人を割り込み、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値)は1.14と過去最低を更新した。働き手の中心になる15〜64歳の人口は、2020年から2040年にかけておよそ1,300万人減る見通しである。AIが労働の需要を減らし、人口減少が労働の供給と消費を減らす。この2つを同時に、世界で最初に経験するのが日本だ。しかも時期が悪い。これから団塊ジュニア世代が年金を受け取る側に回り、年金と医療のお金は膨らんでいく。その支え手である現役世代の収入がAIで削られるとすれば、財政の計算はますます合わなくなる。

日本のAI導入が「人がいないからAIに任せる」という形で進むこと自体は、幸運だと思っている。「AIに仕事を奪われた」という対立の物語にならないぶん、社会の摩擦が小さい。ただ、人手不足の穴埋めとして始まった自動化も、行き着く先は同じだ。雇用は採用の入口から減りはじめ、人口減少と合わさって、消費の縮小が長く続く。不動産だけが例外でいられるとは考えにくい。

7. まとめ

総合的な見立て

「AGIが実現するなら雇用と消費が衰え、実現しないならAI株の高値が崩れる」。このジレンマの答えは、先に株高、あとから雇用と消費の衰え、の順で両方起きると思う。短期はAIが企業の利益と株価を押し上げ、雇用への影響は若手の採用減という見えにくい形にとどまる。中長期は、AGIに近づくほど買い手のお金が減り、産業はサービス業から削られ、都心の不動産を支えてきた集積の経済も薄れていく。ただしその進み方は、暴落のような一日の出来事ではなく、効率化の恩恵が先に来て痛みが遅れて届く、業種ごとに時間差のあるゆっくりした衰退になる。米国は国民をAI企業の株主にするという答えを探しはじめたが、日本には配当を生むAI企業も、ベーシックインカムを賄う財源もない。

ベーシックインカムなしのまま進んだ先も考えておきたい。行き着く形として思いつくのは、資本を持つ少数が領主のようになり、持たない人がその周りで働いて生きる新しい身分社会か、政府が法律でAIの導入を抑えて雇用を守る道(やった国から国際競争に負けていく)か、モノの値段が下がり続けてわずかな収入でも暮らせる世界(ただし家賃と食費は下がりきらない)か。どれも明るくない。ただ、歴史を振り返ると、経済が本当に崩れかけたときには、それまでありえないとされた政策が実行されてきた。大恐慌の後のニューディール政策がそうだし、リーマン・ショック後の量的緩和(中央銀行が大量のお金を市場に流して景気を支えた政策)もそうだ。AGI後の大量失業が現実になれば、最終的にはどの国も「ベーシックインカムとは呼ばない再分配」、たとえばAIを使う企業への課税を原資にした給付のような形に追い込まれていくと考えている。そのときに、配れるだけの利益を生む企業が国内にあるかどうかで国の体力が決まる。ここで、米国と日本の差が出る。

ではどうするか。労働収入一本の家計は、AGIが実現しても(雇用と賃金が削られる)、実現しなくても(AI株安と景気後退)、どちらに転んでも揺さぶられる。だから、給与以外の収入の入り口を作っておく。そして、人に直接触れる、責任を取る、人間がやること自体に価値がある。そういうAIに置き換えられにくい要素を、自分の働き方に少しでも混ぜておく。「AIと人間社会の未来」という大きなタイトルのわりに、出てきた結論は地味だ。ただ、国が配ってくれない国に住んでいる以上、地味な備えを早く始めた人から楽になる。それか、米国に移住するかだ。。。

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

POPULAR ARTICLES