AIが本当に人間並みに賢くなったら、自分の仕事と給料、いま持っている株はどうなるのか。AGI(人間と同等以上の知的作業をこなすAI)は実現するという前提を置き、日本の雇用・賃金・消費・産業・人口・不動産に何が起きるかを考えた。
日本では、AGIが実現してもベーシックインカム(全国民への無条件の現金給付)は行われない。配る原資になるAI企業が国内になく、税金で賄う財源もないからだ。AIは働いても給料を受け取らず、物も買わない。雇用は若手の採用減という目立たない形から縮み、人口減少と重なって消費が細っていく。産業はオフィスのサービス業から順に衰え、頭脳労働者が集まることで値段を保ってきた都心の不動産にも及ぶ。反対に、エネルギーとAI・データセンター関連の産業では需要が増える。
目次
AGIが実現しても、日本にベーシックインカムは来ない理由
この記事は、AGIが実現することを前提に置く。時期や形には幅があるが、実現する側に倒して考える。もう一つの前提は、そのときが来ても日本ではベーシックインカムが行われないことで、こちらは次の理由からそう見ている。
まず、配る原資がない。米国では、政府がOpenAIなどのAI企業の株式を持ち、その利益の一部を国民に還元する構想が語られはじめた。トランプ大統領は2026年6月5日、「米国民に持ち分の一部を付与し、実質的に米国民が企業のパートナーとなるような構想がある」と述べている(Bloomberg日本語版の報道)。この仕組みの原資は、自国のAI企業が生む利益だ。
日本には、それに相当するAI企業がない。AIモデルの性能を比べた世界のランキングでは、上位を米国勢と中国勢が占め、日本のモデルは出てこない。民間のAI投資額も米国とは桁が2つ違う。国内勢は、軽量で日本語に強いモデルを作るか、米国の最先端のモデルを輸入して使う路線をとっている。産業政策としては現実的だが、国民に配れるほどの利益はそこから生まれない。
税金で配る財源もない。全国民に月7万円を配ると、年間でおよそ100兆円かかる。国の税収は、過去最高を見込む2026年度予算でも83.7兆円で、全額をつぎ込んでも足りない。政府の借金はすでにGDP(国内総生産)の2倍を超え、先進国で最も重い。借金で賄う余地も残っていない。
日本人がAIの利益を受け取る間接的な道は、公的年金くらいだ。年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は約290兆円を運用し、その4分の1ほどを外国株に充てている。保有額の上位には米国のAI関連企業が並ぶ。自分が毎月払っている年金保険料も、回り回って米国のAI企業に投資されている。ただしこれは将来の年金の財源で、毎年現金で配られるものではない。国がAIの利益を配ってくれることはないと考えて、ここから先を書く。
AGIが実現する場合、実現しない場合
AGIが実現すれば、ホワイトカラーの仕事の大半が要らなくなる。極端な場合は8割の人の仕事がなくなり、収入を失った人から順に消費を減らして、経済はゆっくり衰退していく。実現しなければ、AGIを見込んで買われてきたAI関連株の値段が高すぎたことになり、いずれ大きく下がる。AI関連株の利益がどこまで続くかは、5月31日の記事で利益の側から確かめた。
これには有力な反論がある。「AGIで大量の失業が出るなら、その分の利益はAI企業に集まる。個別の銘柄はともかく、株価指数は崩れない」というものだ。いまの米国株は、たしかにこの理屈どおりに動いている。少数の巨大AI企業が利益と時価総額を積み上げ、指数を引っ張っている。
ただ、働く人の大半が職を失った世界で、AI企業は誰を相手に商売をして利益を上げ続けるのか。お客がいなくなれば、AI企業の売上のもとも減る。短期ではAIによる効率化が企業の利益と株価を押し上げ続けるが、中長期では、AGIに近づくほど雇用と消費が減り、物やサービスの買い手が減っていく。
生産はしても消費はしないAI
「技術が仕事を奪っても、新しい仕事が生まれてきた。今回も同じだ」という楽観論がある。歴史の上ではそのとおりだった。産業革命では機械が力仕事を置き換えたが、工場で働く大勢の労働者という新しい消費者が生まれた。IT革命でもプログラマーやデザイナーという職業が生まれ、その人たちが稼いで使うことで経済が回った。技術は仕事を奪う一方で、次の買い手も育ててきた。
AGIが実現すると、この前提が成り立たなくなる。新しく生まれた仕事も、人間より安くて速いAIが先に引き受けてしまうからだ。AIは給料を受け取らないので何も買わず、所得税も払わない。企業が人をAIに置き換えるほど、世の中全体では商品を買うお金を持った人が減る。一社ごとに見れば合理的なコスト削減が、社会全体では自分たちのお客を減らしている。
この仕組みを理論にした研究もある。全米経済研究所(NBER)が2025年に公表した論文(NBER Working Paper 34423)によれば、完全な自動化が実現すると、人間の賃金は同じ仕事をAIにやらせたときにかかる計算の費用まで下がり、GDPのうち働く人の所得に回る割合はゼロに近づく。人間だけに残る仕事もいくらかあるとしたうえでの結論で、原題は「We Won't be Missed(私たちがいなくなっても惜しまれない)」。経済は成長を続けるのに、その成長と人間の労働が切り離されるという見立てだ。
その先には、所得が減ると結婚と出生が減り、人口が減ると消費する人もアイデアを生む人も減って、経済の縮小が止まらなくなるという連鎖もありうる。ただし、AIから人口減少、経済の衰退までを一続きの流れとして実証した研究はまだない。
三段階で衰えていく雇用・賃金・消費 — 入口は若手の採用減
どんな順番で進むのかを、三段階に分けて整理した。
| 段階 | 何が起きるか | 株式市場 |
|---|---|---|
| 第1段階(現在〜数年) | 情報を処理して判断するホワイトカラーの仕事がAIに置き換わりはじめ、若手の採用が絞られる。AIを作る側・使いこなす側の報酬は急に上がる | 人件費が減って企業の利益は膨らみ、最高値の更新が続く |
| 第2段階(転換点) | 職を失った人や賃金が伸びない人が消費を減らし、その売上に頼る企業の雇用がさらに減る連鎖が始まる | AI企業以外の業績が伸びなくなり、指数の中身が少数のAI企業に偏る |
| 第3段階(10年単位) | AIの利益が株主と少数の技術者に集中する。格差が極端に開き、再分配なしでは消費が回らなくなる | 買い手が減った市場で、AI企業も稼げなくなる |
時間差で届く恩恵と痛み
三段階は一度に来るわけではない。AGIの効率化で企業の利益が増える恩恵が先に来て、人件費の削減が消費の減少として戻ってくる痛みは遅れて届く。恩恵の出方も業種や業態でばらばらだ。情報のやり取りが仕事の中心のソフトウェアや金融は、早く大きく効率化される。建設や物流、対面の店のように物理的な現場を持つ業種には、恩恵が遅れて小さく届く。経済全体がある日突然悪くなるわけではなく、強い業種と弱い業種が入れ替わりながら、ゆっくり衰えていく。
第1段階:若手の採用減という静かな入口
第1段階はもう始まっている。米国では、AIに置き換えられやすい職種で、22〜25歳の雇用が2022年10月から2025年10月にかけて、置き換えられにくい職種に比べて約16%減ったという実証研究が出た(スタンフォード大学の調査)。減り方にも特徴がある。いま働いている人が解雇されるより先に、これから働く人の採用が絞られている。失業率はほとんど動かないので、ニュースにもなりにくい。日本でも、生成AIの活用が進む企業から新卒採用の計画を見直す動きが出はじめた。
自分の職場でも、生成AIを入れてから資料作成や調べ物にかかる時間ははっきり減った。同じことが全国の会社で起きれば、人を増やす理由は薄れる。その影響は、いずれ採用の統計と失業率に表れてくるはずだ。
賃金は二つに分かれていく。AIを作る側と、AIを使いこなして経営する側の報酬は急に上がり、AIに置き換えられる側の賃金は上がらなくなる。薄くなるのは、法務、会計、資料作成、カスタマーサポートといった、経済の真ん中を支えてきた事務系の中間層だ。
第2段階:連鎖する消費の縮小
第2段階では、消費が縮みはじめる。職を失った人や賃金の伸びない人は、外食を控え、旅行をやめ、車の買い替えや家の購入を先に延ばす。すると外食や旅行、自動車の会社の売上が減り、今度はそこで働く人の雇用と賃金が削られる。一人の節約が別の誰かの減収になり、それがまた次の節約を生む連鎖だ。自分も収入が減りそうなら、まず外食と旅行を削るだろう。同じ行動を何百万人がとれば、それが連鎖の入口になる。
AIのおかげで物の値段は下がるだろうが、家賃と食費はゼロにならない。値下がりより収入の減り方が速い人から、暮らしが回らなくなる。
第3段階:AIの利益の行き先
第3段階で気になるのは、AIで生まれた利益の行き先だ。利益はAI企業とその株主、データセンターやGPU(AIの計算に使う半導体)を持つ企業に集まる。AI企業がいま得ている売上の多くは、企業が人をAIに置き換えるために払うお金だ。社会全体で見ると、AI企業は、給料をもらって物を買う人を減らすための支出で稼いでいる。その人たちがいなくなったとき、AI企業は誰に何を売るのか。
広告で稼ぐ道も長くは続かない。いまのネット広告は、人間が画面で広告を見ることで成り立っている。調べ物も買い物もAIエージェント(人間の代わりに作業をこなすAI)に任せるようになれば、人間は画面を見なくなり、無料でサービスを配って広告で回収する商売が成り立たなくなる。AIに広告を見せても、AIエージェント同士が値段と条件を比べて選ぶだけの、機械どうしの取引になる。条件だけで選ばれるなら、ブランドの好感度にお金を払う意味は薄れ、広告やマーケティングの産業そのものが縮む。
ここまでの話は、AGIが実現するという前提に立っている。AIの進化がいまの延長で頭打ちになれば、前提ごと崩れる。経済学者の間には、AIが生産性を押し上げる効果は今後10年で1%にも満たないという控えめな試算もある。決まった未来として書いているわけではなく、備えておきたいシナリオの一つだ。
オフィスから衰える産業と最後まで残るエネルギー
産業ごとにお金と仕事がどう動くかを、影響が出る時期の順に並べた。最初にオフィスの仕事が削られる。
| 時期 | 産業 | 盛衰 | 起きること |
|---|---|---|---|
| 第1段階(現在〜数年) | サービス業(金融・法務・コンサル・事務・広告など) | 衰退 | 最初に、最も深く削られる。情報を扱って判断する仕事はAIがいちばん得意とする |
| 第1段階から継続 | AI・データセンター関連(半導体・通信・建設工事) | 成長 | 投資のお金と売上が集まり、成長が最も長く続く。ただし第3段階では買い手が足りなくなる |
| 第1段階から継続 | エネルギー(電力・ガス・送電・燃料調達) | 成長 | データセンター向けの電力需要が積み上がる。暮らしに欠かせないので、最後まで残る |
| 第2段階 | 消費関連(外食・旅行・小売・自動車など) | 衰退 | 収入の減った家計が支出を削り、売上と雇用が連鎖して縮む |
| 第2〜第3段階 | 製造業 | 転換 | 工場の無人化が進み、海外へ出た工場が消費地の近くへ戻る。生産は戻るが雇用はほぼ生まない |
| 第2〜第3段階 | 農業 | 転換 | 恩恵は農地の広さ次第。小規模な農家が多い日本では小さく、食料の値下がりは海外の大規模農場で作られた輸入品から先に届く |
| 最後まで存続 | 人間に残る仕事(対人・責任・身体に触れる) | 存続 | 人間がやること自体に価値がある仕事、AIの判断に責任を取る仕事、人の身体に触れる仕事。ただし規模は小さい |
第1波:オフィスのサービス業から始まる削減
金融、法務、コンサルティング、事務、広告、教育、医療の診断補助。どれも突き詰めれば情報を処理して判断する仕事で、AIのいちばん得意な領域にあたる。日本ではGDPの4分の3近くをサービス業が占め、都心のオフィス街を埋めているのもこの仕事の人たちだ。データを処理して判断する自分の仕事も、この側にある。ここで働く人が減ればオフィスの需要も一緒に減り、あとの不動産の話につながる。
第2波:消費関連の産業への波及
第2波は外食、旅行、小売、自動車といった消費関連の産業だ。これらの産業は、AIに仕事を置き換えられて縮むわけではなく、お客の財布が細って売上が減る。効率化の恩恵はほとんど受け取れないまま、痛みだけが届く。
製造業:消費地の近くへ戻る無人の工場
工場の無人化が進んで人を雇う必要がなくなれば、人件費の安さを求めて海外に出た工場が、輸送費の安い消費地の近くに戻ってくる。日本にとっては工場が国内に戻る機会でもある。ただし戻ってきた無人の工場は、法人税は納めても雇用をほとんど生まない。企業は儲かるのに雇用は増えないという形が、ここでも生じる。
農業:農地の広さ次第で、小規模な農家の多い日本では小さい恩恵
農業の自動化は、米国のように一枚の畑が広い大規模農場ほど元が取れる。日本は平均の経営面積が数ヘクタールと小さく、山あいの細かい田畑も多いので、自動運転のトラクターのような高い機械の元が取りにくい。恩恵は遅く、小さい。
それでも入口はある。ふだん主に農業で働く人の平均年齢は67.7歳と高く、引退する農家の農地が法人など大きな担い手に集まりはじめた。農地がまとまれば機械の元が取れるようになり、ドローンでの農薬散布のように作業ごとに外に頼む形なら、小さな田畑でも使える。
食べ物の値段は、輸入品から先に下がる。日本は食料の6割(カロリーで見た値)を輸入に頼っており、海外の大規模農場が自動化で費用を下げれば、その分が輸入品の値段に表れるからだ。ただ、食料が安くなっても国内の農村の雇用は増えない。
エネルギー:需要が増える数少ない産業
反対に、AIが需要を増やす産業もある。電力などのエネルギーだ。AIの学習と利用には大量の電気がいる。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費が2030年にかけて2倍以上に増えると見込んでいる(IEA「Energy and AI」)。日本でも、人口減少で減るはずだった電力需要が、データセンターと半導体工場の新設で増える見通しに変わった。米国では、AI企業がデータセンター向けに原子力発電所の電気を長期契約で買う動きまで出ている(米国の電力会社の契約は2月15日の記事で並べた)。
電気が増えれば燃料も要る。日本は発電の約7割を火力に頼り、燃料のLNG(液化天然ガス)や石炭はほぼ全量を輸入している。データセンターが増えるほど、LNGを調達する商社やガス会社、発電する電力会社、送電網や変圧器を作る重電メーカーに仕事とお金が流れる。日本に世界の最先端のAI企業はないが、AIに電気と設備を売る企業はそろっている。AIブームの利益が国内に落ちる、数少ない道だ。一方で、電力需要が増えれば電気料金は上がりやすく、収入が伸びない家計の負担になる。
AIとエネルギーの産業は最後まで残るのか。エネルギーは、AIの拡大が続く限り需要が積み上がり、AIがどうなっても暮らしに欠かせないので、最後まで残る側の筆頭に置いた。AI産業も、成長が最も長く続く産業になる。ただし無傷ではなく、第3段階ではAI企業自身も買い手が足りなくなる。
人間に残る3つの仕事、どれも小さな規模
人間に残る仕事は、次の3つの領域に絞られていく。
- 人間がやること自体に価値がある仕事。手仕事の工芸品、ライブの演奏、スポーツ、対面の接客。AIにもできるが、あえて人間に頼むことがぜいたくになる
- AIの判断を監視して責任を取る仕事。必要な人数はごく少ない
- 人の身体に直接触れる仕事。介護、美容、育児。ロボットに置き換わる部分があっても、心理的な抵抗が最後まで残る
この3つを全部足しても、いまサービス業で働く何千万人の受け皿にはとても足りない。
人口減少と不動産 — 消えていく「都心に人が集まる理由」
人が都市に集まるのは、知識と情報と仕事が一か所にあるほうが効率がよいからだ。経済学ではこれを「集積の経済」と呼ぶ。丸の内のオフィスの家賃も、その周りのマンションの値段も、突き詰めれば人間の知的労働を一か所に集めることへの対価である。情報のやり取りと判断がネットワーク上のAIで済むようになれば、人が同じビルに集まる理由は薄れる。
オフィス:人数とともに減る必要な床面積
先に変わるのはオフィスだ。企業がAIで同じ成果を半分の人数で出せるようになれば、必要な床面積も半分に近づく。オフィスビルをまとめて持つREIT(不動産投資信託)を持っているなら、10年単位で賃料と空室率にこの変化が出てくる可能性がある。
住宅:短期の値上がりと中期の値下がり
住宅はもう少し複雑で、二段階で動くと読んでいる。短期では、都心の物件はむしろ上がる。AIで先に豊かになったAI企業の株主や投資家、少数の技術者のお金が、都心の高級物件に向かうからだ。東京の湾岸のタワーマンションや港区の値上がりには、この力がすでに混じっているはずだ。
中期では、都心に住む最大の理由だった職場への近さが意味を失っていく。通うオフィスが減り、客の減った商業施設が閉まれば、高い家賃を払って都心に住む理由は一つずつ消える。そこに、値段を押し下げる力が重なる。
- 空いたオフィスを住宅に改装すれば、都心の住宅の供給はむしろ増える
- 仕事の場所の縛りがなくなれば、生活費の安い郊外や地方へ移る人が増える。日本の空き家はすでに約900万戸、率にして14%近くあり、移る先には困らない
- 職を失った人が住宅ローンを払えなくなれば、売りに出る物件が増える
「土地は限られているから都心の不動産は安全」という考えもあるが、買い手が減り続ける世界では、売りたいときに売れない資産になるおそれがある。値下がりは急落の形をとらず、数年から十数年かけて少しずつ進む。
日本だけの事情:重なる人口減少
日本には、この話をどの国より切実にする事情がある。人口減少だ。2025年に生まれた日本人の子どもは約67万人と過去最少で、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値)も1.14と過去最低を更新した。働き手の中心になる15〜64歳の人口は、2020年から2040年にかけておよそ1,300万人減る見通しだ。AIが労働の需要を減らし、人口減少が働き手と消費を減らす。この2つを同時に、世界で最初に経験するのが日本になる。
時期も悪い。これから団塊ジュニア世代が年金を受け取る側に回り、年金と医療のお金は膨らむ。支え手の現役世代の収入がAIで削られれば、財政の計算はますます合わなくなる。
日本のAI導入が「人がいないからAIに任せる」という形で進むことは、幸運だと思っている。「AIに仕事を奪われた」という対立にならないぶん、社会の摩擦が小さい。ただ、人手不足の穴埋めとして始まった自動化も、行き着く先は同じだ。雇用は採用の入口から減りはじめ、人口減少と合わさって消費の縮小が長く続く。不動産だけが例外でいられるとは考えにくい。
まとめ:先に株高、雇用と消費の衰えはあとから
「AGIが実現するなら雇用と消費が衰え、実現しないならAI株の高値が崩れる」。この二択の答えは、先に株高、あとから雇用と消費の衰えという順で、両方起きると見ている。短期はAIが企業の利益と株価を押し上げ、雇用への影響は若手の採用減という見えにくい形にとどまる。中長期は、AGIに近づくほど買い手のお金が減り、業種ごとに時間差をおいて、ゆっくり衰えていく。
ベーシックインカムがないまま進んだ先として思いつくのは、次のような形だ。
- 資本を持つ少数が領主のようになり、持たない人がその周りで働いて暮らす、新しい身分社会
- 政府が法律でAIの導入を抑えて雇用を守る道。ただし、やった国から国際競争に負けていく
- 物の値段が下がり続け、わずかな収入でも暮らせる世界。ただし家賃と食費は下がりきらない
どれも明るくない。ただ歴史を振り返ると、経済が本当に崩れかけたときには、それまでありえないとされた政策が実行されてきた。大恐慌のさなかに始まったニューディール政策も、リーマン・ショックの後の量的緩和(中央銀行が国債などを大量に買い入れて、市場にお金を流した政策)もそうだった。AGIの後の大量失業が現実になれば、どの国も最終的には「ベーシックインカムとは呼ばない再分配」に追い込まれると考えている。たとえば、AIを使う企業への課税を原資にした給付のような形だ。そのとき、配れるだけの利益を生む企業が国内にあるかどうかで国の体力が決まり、米国と日本の差もそこに出る。
では、自分たちはどうするか。労働収入だけの家計は、AGIが実現すれば雇用と賃金を削られ、実現しなければAI株の下落と景気の後退に巻き込まれる。どちらに転んでも揺さぶられるので、給与以外の収入の入り口を作っておく。そして、人に直接触れる、責任を取る、人間がやること自体に価値があるといった、AIに置き換えられにくい要素を、自分の働き方に少しずつ混ぜておく。
「AIと人間社会の未来」という大きなタイトルのわりに、結論は地味だ。ただ、国が配ってくれない国に住んでいる以上、地味な備えを早く始めた人から楽になる。あとは、米国に移住するかだ。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。