解約を申し込んだのに、お金が半分ほどしか返ってこない。米国の大手運用会社が個人向けに売ってきたプライベートクレジット(企業への融資に投資するファンド)で、2026年2〜3月にそれが起きた。ブラックロック傘下のファンドは、9.3%の解約の請求に5%だけ応じた。ブラックストーンは過去最高の7.9%の請求に、自社と社員のお金を足して全額応じている。ブルーオウルは1本のファンドで解約の受け付けをやめ、資産を売って払い戻す形に切り替えた。
対応は3社3様だが、請求が増えた理由は共通している。融資の評価が本当に正しいのかという疑いと、AIで融資先のソフトウェア会社の稼ぎが落ちるという心配だ。個人的には、運用会社が自力で解約に応じる余力を残しているうちは、銀行を巻き込む混乱にはならず、ゆっくり落ち着くと見ている。

目次
プライベートクレジットの仕組みと、長く貸して短く返すずれ
プライベートクレジットは、銀行を通さずに、投資ファンドが企業に直接お金を貸す仕組みだ。社債のように市場で売り買いされることはなく、貸し手と借り手が1対1で条件を決める。
従来の融資との違い
| 項目 | 銀行融資 | 社債(公開市場) | プライベートクレジット |
|---|---|---|---|
| 貸し手 | 銀行 | 不特定多数の投資家 | 投資ファンド |
| 取引形態 | 銀行の審査基準 | 市場で売買可能 | 相対取引(非公開) |
| 換金のしやすさ | 中程度 | 高い(市場で売却可) | 低い(簡単に売却できない) |
| 利回り | 低〜中 | 中程度 | 高い(リスクの分を上乗せ) |
| 評価方法 | 銀行内部評価 | 市場価格(時価) | ファンドが見積もる(市場の値段がない) |
2008年の金融危機の後、銀行は規制が厳しくなって中堅企業への融資を絞り、その借り手をファンドが引き受けて市場が伸びた。FRB(米連邦準備制度理事会)の調査によると、狭い意味のプライベートクレジットは2024年6月時点で米国が1.34兆ドル、世界で約2兆ドルある。2009年から約5倍に増えた(FRB FEDS Notes 2025年5月23日)。不動産やインフラ向けの融資まで含めた業界団体の集計では、運用資産は3.5兆ドルに達している。
ファンドが企業に貸す期間は平均で5年前後だ。ところが個人向けのファンドの多くは、四半期ごとに純資産の5%を上限に、投資家の解約に応じる約束をしている。5年かけて回収する融資を元手に、3か月ごとの払い戻しを約束している形だ。請求が5%を超えると、ファンドは融資を売るか、上限で打ち切るか、どこかから資金を足すかを選ぶことになる。
2月18日から3月6日までの3社の対応
ブルーオウル(2月18日)— 解約の受け付けから、資産を売っての払い戻しへ
ブルーオウル・キャピタルは2月18日、上場していないファンド「ブルーオウル・キャピタル・コーポレーションII」(OBDC II。純資産は約9.5億ドル)で、四半期ごとの解約の受け付けを、資産を売って払い戻す形に替えると発表した。
2025年末の純資産の約30%にあたる額を3月末までに払い戻し、その後も四半期ごとに払い戻しを続ける。原資を作るため、運用する3本のファンドで合計14億ドルの融資を売った。OBDC IIの分の6億ドルは、額面の99.8%で売れている(OBDC IIの提出書類 2026年2月18日)。
ブルーオウルは2025年11月、上場している別のファンドとの合併を発表し、合併までは解約に応じないとしたが、2週間後に合併を取りやめていた。払い戻しに切り替えた後、報道は「解約の停止」と伝え、ブルーオウルは「投資家がお金を引き出す道を止めたわけではない」と反論した。
3月6日には、2026年中に純資産の50%以上を払い戻す見込みだと発表している。同じ日、別の投資会社2社が、OBDC IIの株を純資産より3割以上安い値段で買い取る提案をした。すぐに現金が欲しい投資家は、それだけ値引きして売るしかない状況になっている。
ブラックストーン(3月2日)— 過去最高の7.9%の請求に全額対応
ブラックストーン(運用資産1.27兆ドル)の個人向けの旗艦ファンド「BCRED」は、820億ドルを融資などに投じている。このファンドに1〜3月、発行済みの株の7.9%にあたる約38億ドルの解約の請求が来た。ファンドは買い取る上限をふだんの5%から、条件を変えずに引き上げられる最大の7%に増やした。残りの約0.9%は、ブラックストーンが約2.5億ドル、社員が約1.5億ドルを、BCREDに投資する別のファンドに出資して埋め、請求の全額に応じた。同じ四半期に新規の資金も約20億ドル入っている。
社長のジョン・グレイ氏は「雑音がとても多かった」と話した。BCREDの融資の約25%はソフトウェア会社向けで、AIで事業が崩れるのではという心配の的になっている(CNBC 2026年3月3日)。
ブラックロック(3月6日)— 9.3%の請求に5%だけ対応
ブラックロック傘下のHPSが運用する「HPSコーポレート・レンディング・ファンド」(HLEND)は、約260億ドルの規模がある。1〜3月には、発行済みの株の約9.3%にあたる解約の請求が来た。設立以来、5%を超えたのは初めてで、ファンドは約束どおり5%、約6.2億ドルだけ買い取った。応じきれなかった請求は次の四半期に繰り越されず、投資家が出し直す必要がある。
株主への手紙は、先行きが不安な時期こそ有利な貸し先が見つかると書き、「その機会に向けてファンドの資金を残しつつ、決められた範囲で換金に応じることが、ファンド全体の利益になる」と説明した。同じ四半期に新規の資金は約8.4億ドル入っており、銀行の融資枠の未使用分を含めて使える資金も44億ドル超あった(HLENDの提出書類 2026年3月6日)。資金はあったが、5%の約束の範囲で打ち切った。
運用会社の株価に出た不安
ファンドを運用する会社の株は、年初から大きく下げた。手元の米国株のデータベースで、2025年末から3月6日までの騰落率を計算した。
| 銘柄 | 年初から3月6日まで | 大きく下げた日 |
|---|---|---|
| ブルーオウル(OWL) | -33.8% | 2月19日 -5.9%、20日 -6.7% |
| アレス(ARES) | -31.9% | 2月23日 -7.0% |
| ブラックストーン(BX) | -28.4% | 3月3日 取引時間中に前日比-8.9%、終値は-3.8% |
| KKR | -28.4% | 2月23日 -8.9% |
| アポロ(APO) | -24.9% | 2月27日 -8.6% |
| ブラックロック(BLK) | -10.7% | 3月6日 取引時間中に前日比-8.3%、終値は-7.7% |
| S&P500 | -1.5% | — |
S&P500が1.5%安にとどまる中で、プライベートクレジットを主な事業にする運用会社は3割前後下げた。ブルーオウルはOBDC IIの発表の翌日から2日続けて6%前後下げ、ブラックロックはHLENDの発表の日に7.7%安で引けた。ブラックロックは資産の大半が上場株や債券の運用なので、年初からの下げは1割にとどまる。3月に入ってからは、米国とイスラエルによるイラン攻撃で株式市場全体も揺れていた。
解約が増えた3つの背景
融資の評価への疑い
上場していない融資には市場の値段がなく、ファンドが見積もった評価額で純資産が決まる。上場していない資産の評価額が持ち主の見積もりで決まるのは、ソフトバンクグループのOpenAIへの出資も同じだ。
3月5日には、ブラックロックが運用する上場ファンド「ブラックロックTCPキャピタル」で、融資の評価がゼロになっていたと報じられた。電子商取引の会社に貸したお金だ(Bloomberg 2026年3月5日)。9月末にはほぼ額面か8割近くで評価していた融資が、12月末にはゼロになった。
11月に清算に入った住宅リフォーム会社向けに続く2件目で、このファンドは1月に1株あたりの純資産が約19%下がる見込みを公表していた。数か月前まで額面近くで評価していた融資が一度にゼロになると、ほかのファンドの評価も信じてよいのかが疑われる。
貸し倒れの数え方でも、見え方が変わる。法律事務所が集計した公表ベースのデフォルト率(借り手が返済できなくなった割合)は、2025年10〜12月期に2.46%だった。利息を現金で払えずに借金を積み増す形(PIK)まで数えると、格付け会社の集計では1月までの1年間で5.8%になる。
ソフトウェア向けの融資とAI
プライベートクレジットの貸し先には、毎月の利用料で稼ぐソフトウェア会社が多い。BCREDでは融資の約25%を占める。AIで同じ仕事を安くこなせるようになれば、こうした会社の売上が減り、借りたお金を返す力も落ちる。まだ貸し倒れが目立って増えたわけではないが、投資家は先回りして解約を申し込んでいる。
個人向けに広がった販売と、金利の見通し
もともとプライベートクレジットには、年金や保険会社のように、何年も資金を寝かせられる投資家がお金を出していた。ここ数年、大手は個人や富裕層向けのファンドを増やした。個人は値下がりのニュースに早く反応しやすく、まとまって解約を申し込むと、四半期5%の枠はすぐに埋まる。
日本でも個人が買える商品がある。大和アセットマネジメントは2025年6月、BCREDに投資する「ブラックストーン・プライベート・クレジット・JPYファンド(毎月分配型)」を設定した。販売は大和証券だ。野村證券もゴールドマン・サックスが運用するプライベートクレジットのファンドを扱う。日本の投資信託を通じても、米国のファンドが解約にどう応じるかの影響を受ける。
金利の見通しも重なった。融資の多くは変動金利なので、金利が下がれば借り手の利払いは軽くなる。FRBは2024年9月から利下げを進め、政策金利は3.50〜3.75%まで下がったが、1月には据え置いた。3月に入ってからは、イラン情勢による原油高で、追加の利下げはしばらく先になるとの見方が市場で強まった。
銀行と金融市場への広がり
プライベートクレジットのファンドは、銀行からもお金を借りている。米国の商業銀行のノンバンク(銀行以外の金融会社)向けの貸出は、2025年12月に1.81兆ドルあった。FDIC(米連邦預金保険公社)によると、2025年10〜12月期は過去最大の増え方だった。JPモルガンは1月の決算説明会で、自社の狭い定義でのノンバンク向けの貸出を約1,600億ドルと説明している。
FRBは2025年のストレステスト(景気が大きく悪化した場合を想定した銀行の健全性の試験)に合わせて、ノンバンク向けの貸出の損失を試算し、大手銀行は耐えられるとした。ただ、融資枠を一度に全額引き出される想定を置いたのは不動産投資信託などで、プライベートクレジットのファンドは格付けが下がる想定にとどまる。解約に応じるために多くのファンドが同時に銀行の融資枠を使う場面は、試されていない。
規制当局も動いている。SEC(米証券取引委員会)は2026年度の重点的な検査の対象に、長く資金を引き出せないプライベートクレジットなどの商品を挙げた。2月25日には、関連するファンドとの間の取引で、時価かどうかを確かめずに値段を付けたとして、融資を手がける運用会社に90万ドルの制裁金を科している。
今後のシナリオ
ここから先は、3月7日までの事実に加えて、個人的な予測を多く含む。
シナリオ1: ゆっくり落ち着く(本線)
大手は、新規の資金、手元の資金、融資の売却、自社のお金で解約に応じ続け、貸し倒れの連鎖には至らない。個人向けのファンドは換金の条件を厳しくし、新しい資金の集まり方は鈍る。銀行や景気への影響は小さい。
シナリオ2: 投げ売りが値下がりを呼ぶ連鎖(リスク)
多くのファンドが同時に上限まで解約を受け、融資を安値で売り始める。値下がりで純資産が減り、さらに解約が増える。プライベートクレジットから借りていた中堅企業は借り換えが難しくなり、倒産が増える。米国のプライベートクレジットの融資残高(1.34兆ドル)は、2007年のピーク時のサブプライム住宅ローン(約1.3兆ドル)とほぼ同じ規模で、信用市場全体への波及は無視できない。ただ、ファンドの借入はそれほど大きくなく、2008年のように金融機関の連鎖倒産につながるとは限らない。
シナリオ3: 規制の強化による作り直し(中長期)
評価方法、手元に残す資金、情報開示について、SECなどが決まりを厳しくする展開。個人向けの販売の条件も厳しくなり、規模の小さい運用会社は退いて大手に集まる。透明性は上がるが、移行の間は企業がお金を借りる費用が上がり、企業の買収や設備投資は鈍りやすい。
シナリオ1を本線と見るのは、運用会社にまだ余力があるからだ。ブラックストーンは新規の資金と自社のお金で請求の全額に応じ、HLENDも融資枠を含めて44億ドル超の資金を残したまま5%で止めた。2008年の金融危機では金融機関が自分の借金で身動きが取れなくなったが、今回はそこまで追い込まれていない。融資の多くは変動金利なので、FRBが利下げを再開すれば借り手の利払いが軽くなり、これも落ち着く方向に働く。
ただし、評価の急な引き下げがほかのファンドでも続けば、シナリオ2に近づく。とくに、SECの検査が大手ファンドの評価のやり方に及び、評価額の修正が相次ぐ場合だ。
まとめと次に確かめること
まとめ
3社の対応は分かれたが、解約の請求を増やした理由は、融資の評価への疑いとAIによる貸し先の不安で共通している。運用会社の株は年初から3割前後下げた一方、銀行への広がりはまだ見えない。運用会社に自力で応じる余力が残っている間は、ゆっくり落ち着くと見ている。
次に確かめること
- 次の四半期の請求:BCREDとHLENDで、4〜6月の解約の請求が5%を下回るか
- 評価を下げるファンドが続くか:次の決算で、上場しているファンドの1株あたりの純資産が大きく下がるか
- FRBの金融政策:利下げを再開する時期。原油高で遅れるほど、借り手の利払いの重さが続く
- デフォルト率:公表ベースの2%台と、PIKまで数えた5%台の差が広がるか
- 日本の投資信託:BCREDに投資する国内の投資信託で、換金の条件や分配金が変わるか
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