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トレンド追随の戦略を日本株で試すなら、個別銘柄より業種の指数から

  • 上がっている資産を買い、下がっている資産を避けるトレンド追随の戦略(TSMOM)は、58の先物市場で効果が確かめられ、先物を使うヘッジファンドが実際に運用している
  • 日本株は、上がった銘柄を買うモメンタムの手法で稼ぎにくい市場で、個別銘柄にそのまま使うのは危ない。値動きのぶれがならされる業種の指数なら、試す余地がある
  • 論文の成績は、値動きに合わせて投資額を増減する調整に支えられている。累積リターンの大きさより、シャープレシオと最大ドローダウンで比べたい
トレンド追随の戦略と、日本株の業種の指数への当てはめ

上がっている資産は買い、下がっている資産からは手を引く。言葉にすれば当たり前のこの行動を、感情を交えないルールにすると、どんな成績になるのか。この問いに、58の先物市場などのデータ(主な検証は1985〜2009年)で答えたのが、2012年に発表された「タイムシリーズモメンタム」(TSMOM)の論文だ。

株価指数・債券・通貨・商品のどれでも効果が出たこの戦略は、「モメンタムで稼ぎにくい」とされる日本株でも使えるのか。論文と日本株の研究を読んだかぎりでは、個別銘柄にそのまま使うのは危ないが、業種の指数なら試す余地がある。

1. トレンド追随の戦略は、比べる相手が自分の過去

TSMOM(Time-Series Momentum、タイムシリーズモメンタム)は、ある資産の過去のリターンがプラスなら買い、マイナスなら売るという、ごく単純なルールの戦略だ。「モメンタム(値動きの勢い)」と聞くと、多くの銘柄を比べて相対的に強いものを買う手法を思い浮かべる人が多い。TSMOMは比べる相手が違い、ほかの銘柄ではなく、その資産自身の過去と比べる。

2つのモメンタム戦略の違い
比べる点 クロスセクショナル・モメンタム
(銘柄どうしを比べる)
タイムシリーズ・モメンタム
(自分の過去と比べる)
比べる相手 ほかの銘柄 その資産自身の過去のリターン
売買の判定 上位N%を買い、下位N%を売る 過去のリターンがプラスなら買い、マイナスなら売り
買いと売りの差し引き 買いと売りが同じ金額(市場全体の上げ下げの影響を打ち消す) どちらかに偏る(全体が上げていれば全部買いもありうる)
代表的な論文 Jegadeesh & Titman (1993) Moskowitz, Ooi & Pedersen (2012)

相場全体が動いたときに、2つの違いが大きく出る。銘柄どうしを比べる方式は買いと売りの金額が常に同じなので、市場全体が上がっても下がっても、その分はリターンに表れない。自分の過去と比べる方式は、相場全体が上げていればすべて買い、下げていればすべて売ることもある。相場の流れに乗るので、トレンドフォロー(トレンド追随)の戦略とも呼ばれる。

2. 58の先物市場で確かめられた効果

TSMOMの土台になっているのは、シカゴ大学のモスコウィッツ教授らが2012年に発表した論文 Moskowitz, Ooi & Pedersen (2012) "Time Series Momentum"(Journal of Financial Economics) だ。株価指数・通貨・商品・債券の58の先物などを調べた。データは古いものでは1965年からあるが、主な検証は1985〜2009年の25年だ。

過去12か月のリターンが次の1か月のリターンを予測するという関係は4つの分野すべてで統計的に確かめられ、58の市場すべてで成績はプラスだった。

論文の主な結果(1985〜2009年)
対象の市場
58
株価指数・債券・通貨・商品
シャープレシオ
1超
株式市場の約2.5倍
アルファ(月あたり)
1.58%
4つの要因で説明できない分
株式市場との連動
0.09
ベータ。ほとんど連動しない

シャープレシオは、値動きの大きさ(リスク)1単位あたりでどれだけリターンを得たかを示す指標で、1を超えれば優秀とされる。アルファは、株式市場全体・企業の規模・割安株・モメンタムという4つの要因では説明できないリターンで、論文では月1.58%あった。ベータは、株式市場が1動いたときに戦略のリターンがどれだけ動くかを示す。ただし2020年には、資産ごとに見ると予測の力は統計的に弱いとする反論の論文も出ている。

論文の主な結果

  • 4つの分野すべてで効果があった: 株価指数、債券、通貨、商品のどれでも、過去12か月のリターンが次の1か月のリターンを予測した
  • 月に1回判定し、1か月持つ: 判定のために振り返る期間は1〜12か月で効果があり、それより長く振り返ると、上げた分の一部を戻す動き(反転)が出た
  • 値動きの大きさで投資額を調整した: 値動きの大きい資産は少なく、小さい資産は多く持つ調整(ボラティリティ・スケーリング)をしている
  • 株式市場とほとんど連動しない: 株式市場が大きく上げたときと大きく下げたときに成績がよく、株式と組み合わせると分散の効果が見込める

累積リターンの大きな数字を読むときの注意

TSMOMの紹介では、株価指数を大きく上回る累積リターンがよく引き合いに出される。論文でも、この戦略の累積リターンは、同じように値動きで調整した各先物の買い持ちを上回っている。ただ、この数字は次の前提で大きく変わる。

  • 値動きに合わせた調整: キム氏らの2016年の論文が55の先物で1985〜2009年を計算し直すと、TSMOMのアルファは調整ありで月1.27%、調整なしでは0.41%だった。同じ調整をすると、ただの買い持ちでもアルファは0.34%から1.00%に上がる。成績の多くは、値動きの小さい資産にお金を多く入れる調整から来ており、借入で投資額を膨らませるのと似た効果を持つ
  • 取引の費用: 月1回の売買の手数料や、想定した値段と実際に売買できた値段のずれ(スリッページ)は含まれていない
  • 生き残った市場だけのデータ: 途中で取引がなくなった契約がデータに入っていないと、成績がよく見える偏りが出うる

極端な数字を見たら、自分はまず、検証した期間、借入の有無、取引の費用という3つの前提を確かめる。どれかが変われば、同じ戦略でも累積リターンは何倍も違って見える。

3. ヘッジファンドでの使われ方

TSMOMを土台にしたトレンド追随の運用は、先物を使うヘッジファンドの一群(マネージド・フューチャーズ。運用者はCTAと呼ばれる)の主力の戦略として、何十年も使われてきた。代表的な運用会社には、AQR Capital Management、Man AHL、Winton Groupがある。

実際の運用で加えられている主な工夫

工夫 中身
複数の期間の判定を合わせる 3か月・6か月・9か月・12か月など、振り返る期間の違う判定を合わせる。一つの期間だけで判定したときの外れを減らせる
全体の値動きの目標 ポートフォリオ全体の値動きの大きさが目標(例: 年率10%)に収まるよう、投資額をこまめに調整する
荒れた相場での縮小 金融危機のように値動きが急に大きくなった局面では、持つ量を自動で減らして損失を抑える
多くの資産への分散 株式だけでなく債券・通貨・商品の先物にも同時に投資し、互いの連動の低さを使って全体を安定させる

こうしたファンドは、論文の単純なルールをそのまま使ってはいない。判定をならし、リスクの管理を細かくし、多くの資産に分けて投資するといった工夫を重ねている。実際の運用成績は、単純なルールだけでなく、運用チームのこうした工夫にも左右される。

4. 日本は銘柄どうしのモメンタムで稼ぎにくい市場

TSMOMを日本株に使うなら、日本は銘柄どうしを比べるモメンタムで稼ぎにくい例外だ、という研究を避けて通れない。ただ、これは銘柄どうしを比べる方式の話だ。モスコウィッツ教授らが調べた58の市場には日本の株価指数(TOPIX)の先物も入っており、そこでも成績はプラスだった。

Asness (2011) の「例外が法則を証明する」

AQRのクリフォード・アスネス氏は、2011年の論文 "Momentum in Japan: The Exception That Proves the Rule"(SSRN) で日本株を調べた。銘柄どうしを比べる従来型のモメンタム(勝ち組を買い、負け組を売る)は、1981〜2010年の日本でシャープレシオが0.03と、ほぼゼロだった。ただし同じ論文は、次の点も書いている。

  • 割安株への投資(バリュー)とモメンタムを半々で組み合わせると、日本でも統計的に意味のある成績になり、米国より良かった
  • 4つの地域のバリューとモメンタムの8つの戦略が同じ実力だとしても、どれか1つがこれほど悪くなる確率は26%あり、日本の不振は偶然でも説明できる

アスネス氏の結論は、日本の結果はモメンタムを否定するものではない、というものだった。

相場の流れが続く月に日本でも出たモメンタムの利益

ハナウアー氏の2014年の論文は、1986〜2012年の日本株で、過去12か月の相場の向きと翌月の向きの組み合わせごとに、勝ち組を買って負け組を売る戦略の成績を調べた。

過去12か月の相場 翌月の相場 月あたりのリターン
上げ 上げ +1.40%(統計的に意味のある大きさ)
下げ 下げ +2.35%(統計的に意味のある大きさ)
上げ 下げ −1.35%
下げ 上げ −2.88%
全期間の平均 ― +0.02%

相場の流れが続けば利益が出て、向きが変わると大きく負ける。この2つが打ち消し合うので、全期間で平均するとほぼゼロになる。チーマ氏らの2018年の論文は日本の個別株でTSMOMも試したが、1990〜2014年の月あたりのリターンは0.02〜0.03%で、統計的に意味のある大きさではなかった。TSMOMでも、流れが続く局面と変わる局面で、同じ打ち消し合いが起きている。

これらの研究から、TSMOMを日本株に使うなら、個別銘柄より業種の指数のほうが向いていると考えている。TOPIXの先物で成績がプラスだったことが、その裏付けの一つになる。

5. TOPIX-17の業種の指数への当てはめ

TOPIX-17は、東証33業種を17の業種にまとめた指数のシリーズで、JPX総研が算出している。3月20日の記事で紹介した、米国の業種の値動きから翌日の日本の業種を予測する論文も、TOPIX-17の業種別ETFを売買の単位にしていた。TSMOMを当てはめる先としては、次の点で向いている。

  • 個別銘柄より値動きのぶれが小さい: 多くの銘柄の平均なので、一つの会社のニュースによる一時的な上げ下げがならされ、流れを見分けやすい
  • 17業種はほどよい数: 少なすぎず多すぎないので、分散と管理の手間のつり合いがよい
  • 業種の入れ替わりをとらえられる: 景気の波に合わせてお金が業種の間を移る動き(セクターローテーション)を、決まったルールでとらえられる
  • ETFで組める: 17業種それぞれに対応するETF(証券取引所に上場している投資信託)があり、先物を使わなくても持てる

基本のルール(単純な形)

TSMOM × TOPIX-17 の基本ルール
項目 決め方
対象 TOPIX-17の業種別指数(食品、エネルギー資源、建設・資材、素材・化学、医薬品、自動車・輸送機、鉄鋼・非鉄、機械、電機・精密、情報通信・サービスその他、電力・ガス、運輸・物流、商社・卸売、小売、銀行、金融(除く銀行)、不動産)
振り返る期間 過去12か月の配当込みのリターン(論文が中心に据えた期間)
判定 12か月のリターンがプラスなら買い、マイナスなら現金で持つ(空売りはしない)
組み替え 月初に1回、17業種すべての判定を更新して組み替える
配分 各業種の値動きの大きさに反比例させる(リスクパリティ。どの業種もリスクの量が同じになるように配る)。値動きの激しい業種は少なく持つ

このルールでは空売りをせず、下げている業種の分は現金で持つ。日本の業種別ETFには空売りしにくい銘柄もあるので、個人なら、上げている業種だけに投資して残りは現金で持つ「買いだけ」の形が現実的だ。

決まったルールでの業種の入れ替え

TSMOMを業種の指数に使うと、決まったルールで業種を入れ替えていく戦略を組むのと同じことになる。たとえば景気が持ち直す局面では、素材・化学や鉄鋼・非鉄のように景気の影響を受けやすい業種が先に上がりやすい。この戦略はこうした動きを過去のリターンから拾い、その業種への配分を自動で増やす。

ただし、ここまでは理屈の上での当てはめ方だ。日本の業種の指数でTSMOMを試した結果は、主な学術論文ではまだ見当たらない。実際のデータでの検証は当サイトで行い、続編の「トレンド追随戦略を日本のセクター指数で18年検証」にまとめる。

6. 見落としやすいリスク

相場が底から急に戻ったときの売り側の大きな負け

銘柄どうしを比べるモメンタムは、相場が底を打って急に戻るときに大きく負ける。ダニエル氏とモスコウィッツ氏の2016年の論文によれば、2009年3〜5月の米国株では、売っていた負け組の株が163%上がり、買っていた勝ち組は8%しか上がらなかった。1932年7〜8月にも負け組が232%上がり、1か月の損失は1932年8月に74%、2009年4月に46%に達した。TSMOMの論文も、2009年3〜5月の急な戻りで損が出たと書いている。下げている資産を売っていれば、TSMOMでも同じ向きの損が出る。

TSMOMの主なリスク

  • 反発の局面での売り側の損: 下げ相場が底を打って急に戻ると、売っていた資産で大きな損が出る
  • 流れの変化に気づくのが遅れる: 過去の値動きを見てから動くので、流れが変わってから判定が切り替わるまでの間に損が膨らむ。日本株でも、相場の向きが変わった月にモメンタムは大きく負けていた
  • 2009年以降の成績の低下: キム氏らの論文では、調整ありのアルファが1985〜2000年の月1.28%から2001〜2013年は0.97%に下がり、2009〜2013年は統計的に意味のある大きさではなかった

買いと売りの両方を持つ形でTSMOMを組むなら、自分はこの反発の局面での損をいちばん警戒する。前の節の「買いだけ」の形なら売り側の損は避けられるが、その分、下げ相場で稼ぐ機会もなくなる。

7. まとめ

日本株への当てはめは、試す価値はあるが検証が先

先物では効果が確かめられた戦略だが、日本株では、銘柄どうしを比べるモメンタムも、個別株のTSMOMも、利益がほとんど出ていない。試すなら、個別銘柄ではなく業種の指数からにしたい。

業種の指数に当てはめる理屈は通るが、学術的な検証はまだ足りない。自分なら、まず空売りをしない「買いだけ」の形で検証し、日本株の性質に合わせて手直ししていく。

逆張りの癖を抑える道具として

TSMOMは、勝っている業種に乗り、負けている業種を避けるという常識的な行動を、感情を交えないルールにしたものだ。自分で判断して売買していると、そろそろ反転するだろうと逆張りしたくなるが、この考え方はその癖を抑える道具になる。

日本の業種の指数で本当に使えるかは、実際のデータで確かめるまで分からない。検証では、累積リターンより、シャープレシオと最大ドローダウン(それまでの最高値からの最大の下げ)が買い持ちと比べてどうなるかを見る。

lookback = 12
m = px.resample('ME').last()           # 月末終値
mret = m.pct_change()                  # 月次リターン
sig = m / m.shift(lookback) - 1.0      # 過去12ヶ月リターン(シグナル)
vol = mret.rolling(12).std()           # 過去12ヶ月ボラティリティ

iv = 1.0 / v[valid]
base = iv / iv.sum()                   # ボラティリティ逆数で予算配分
w[valid] = np.where(sv > 0, base, 0.0)  # 正なら買い、負なら現金
続編(2026年5月16日)の検証ノートブック tsmom_sector_backtest.ipynb から抜粋。この記事の基本のルールのうち、判定と配分を担う部分

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

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