💡 この記事のポイント
- 東証33業種指数(TOPIX-17ベース+REIT)を使い、セクター・モメンタム・ローテーション戦略を約13年間バックテスト
- 6ヶ月形成・3ヶ月保有がベスト構成 — L-S年率リターン4.8%、シャープレシオ0.67、統計的に有意(p=0.013)
- 教科書通りの12ヶ月形成期間は日本市場では有意でない(p=0.544) — 短い形成期間(6〜9ヶ月)が有効
- MAフィルタ(100日移動平均)を追加すると、ロングオンリーの超過リターンが年率1.2%→1.9%に改善
- ロング頻度トップは「その他製品」「電気機器」「保険業」 — 日本の輸出・金融セクターにモメンタムが集中
目次
「勝っている業種を買い、負けている業種を売る」 — セクター・モメンタム・ローテーションは、Moskowitz and Grinblatt (1999) 以来、米国市場で広く知られた投資戦略である。Kakushadze and Serur (2018) の『151 Trading Strategies』§4.1でも取り上げられているこの手法は、日本市場でも同様に機能するのか。本レポートでは、東証33業種指数を使い、2012年〜2026年の約13年間にわたるバックテストで検証した。
1. 検証の背景と戦略の概要
セクター・モメンタム・ローテーションとは、過去の一定期間(形成期間)に最もリターンが高かった業種を買い、最も低かった業種を売ることで超過リターンを狙う戦略である。個別銘柄のモメンタム(§3.1)と異なり、業種レベルで実行するため、より少ないポジション数で分散効果を得られるのが特長だ。
『151 Trading Strategies』では、以下の2つのバリエーションを紹介している。
- §4.1 基本版: 形成期間(6〜12ヶ月)の累積リターンでセクターETFをランキングし、上位をロング・下位をショート。保有期間は1〜3ヶ月
- §4.1.1 MAフィルタ版: 上記に加えて、セクター指数が移動平均線(100〜200日)を上回っている場合のみロング対象とする
本検証では、ETFの代わりに東証33業種指数(東証の業種別株価指数+REIT)を使用した。セクターETFが日本市場ではまだ少ないため、業種指数で代替する形式をとった。ベンチマークにはTOPIXを使用し、超過リターンは「戦略リターン − TOPIX同期間リターン」として算出した。
2. データと検証手法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象データ | 東証33業種指数(TOPIX-17ベースの業種別株価指数 + REIT、計34分類)の日次終値 |
| ベンチマーク | TOPIX(東証株価指数)日次終値 |
| データ期間 | 2011年8月〜2026年4月(セクター指数自体は2006年から取得可能だが、TOPIXとの重複期間で統一) |
| シグナル生成期間 | 2012年9月〜2026年3月(12ヶ月形成期間+1ヶ月スキップを確保した後の有効期間) |
| リターン算出 | 月末終値ベースの月次リターン |
| ポートフォリオ構成 | 上位7業種(ロング)・下位7業種(ショート)に等ウェイト配分(全34業種の上位・下位約20%) |
| スキップ期間 | 1ヶ月(直近月のリバーサル効果を排除するため、Jegadeesh-Titman方式に準拠) |
データの前提条件と制約
本検証のデータには以下の制約があり、結果の解釈にあたって留意が必要である。
- 取引コスト未考慮: 売買手数料、スプレッド、スリッページは含まれていない。月次リバランスのため実際のコストは限定的だが、3ヶ月保有より1ヶ月保有の方がコスト影響が大きい
- 業種指数ベース: ETFではなく業種指数を使用しているため、直接取引はできない。実運用では業種ETFや代表銘柄バスケットが必要
- データ期間の限界: TOPIXとの重複期間が2011年8月以降のため、リーマンショック(2008年)などの大規模危機を含んでいない
- バックテストバイアス: 過去データに基づく最適パラメータは将来の成績を保証しない。特にパラメータ感度分析の結果は過学習リスクを伴う
3. 基本戦略のパフォーマンス
形成期間(6ヶ月 / 12ヶ月)と保有期間(1ヶ月 / 3ヶ月)の4パターンでバックテストを行った結果を以下に示す。
| 戦略 | L-S年率 | 年率ボラ | シャープ | 勝率 | ロング超過 | 最大DD | t値 | p値 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 6M形成-3M保有 | 4.8% | 7.2% | 0.67 | 56.9% | 3.0% | -19.2% | 2.50 | 0.013 |
| 6M形成-1M保有 | 5.3% | 12.6% | 0.42 | 52.1% | 3.5% | -32.5% | 1.56 | 0.120 |
| 12M形成-1M保有 | 2.4% | 14.3% | 0.16 | 52.1% | 1.2% | -27.5% | 0.61 | 0.544 |
| 12M形成-3M保有 | 1.7% | 7.9% | 0.21 | 55.3% | 0.7% | -23.1% | 0.77 | 0.442 |
L-S = ロング−ショート。ロング超過 = ロングポートフォリオのリターン − TOPIX同期間リターン。t値・p値はL-Sリターンの片側t検定(H0: μ≤0)
最も際立つ結果は、6ヶ月形成・3ヶ月保有の組み合わせだけが統計的に有意(p=0.013)であるという点だ。L-S年率リターン4.8%、シャープレシオ0.67と、セクターレベルのモメンタム戦略としては十分に実用的な水準にある。一方で、教科書で最も一般的な12ヶ月形成期間は、日本市場では有意な結果を示さなかった。
以下のチャートは、12ヶ月形成・1ヶ月保有(教科書の標準設定)の累積リターン推移である。ロング・ポートフォリオはTOPIXと概ね連動しており、L-Sのスプレッドが安定的に拡大するパターンは確認できない。
4. パラメータ感度 — 最適な形成期間と保有期間
形成期間を3ヶ月〜18ヶ月、保有期間を1ヶ月・3ヶ月で変化させた場合のL-Sシャープレシオを以下のヒートマップに示す。
| 形成 | 保有 | L-S年率 | シャープ | 勝率 | t値 | p値 | ロング超過 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 3M | 1M | 0.9% | 0.07 | 50% | 0.28 | 0.777 | 0.1% |
| 3M | 3M | 2.7% | 0.38 | 53% | 1.44 | 0.151 | 1.3% |
| 6M | 3M | 4.8% | 0.67 | 57% | 2.50 | 0.013 | 3.0% |
| 9M | 1M | 6.4% | 0.46 | 55% | 1.70 | 0.092 | 4.3% |
| 9M | 3M | 4.5% | 0.59 | 57% | 2.19 | 0.030 | 2.8% |
| 12M | 1M | 2.4% | 0.16 | 52% | 0.61 | 0.544 | 1.2% |
| 12M | 3M | 1.7% | 0.21 | 55% | 0.77 | 0.442 | 0.7% |
| 15M | 3M | 3.4% | 0.45 | 55% | 1.63 | 0.105 | 1.2% |
| 18M | 3M | 3.5% | 0.45 | 60% | 1.62 | 0.107 | 1.7% |
黄色ハイライト: p<0.05で統計的に有意。青ハイライト: p<0.05(9M-3Mも有意)
ヒートマップからいくつかの傾向が読み取れる。
- 3ヶ月保有が1ヶ月保有を上回る: すべての形成期間で3ヶ月保有の方がシャープレシオが高い。リバランス頻度を下げることで、ノイズの影響が緩和されていると考えられる
- 6〜9ヶ月が最適レンジ: 6M形成(シャープ0.67)と9M形成(シャープ0.59)の2つが統計的に有意。3ヶ月以下では短すぎてノイズが多く、12ヶ月以上ではモメンタムが減衰している
- 12ヶ月形成は日本市場では有効でない: Jegadeesh-Titmanが米国市場で確認した12ヶ月の最適形成期間は、日本のセクター指数では再現されなかった
5. MAフィルタの効果(§4.1.1)
§4.1.1では、モメンタム上位のセクターであっても、指数が移動平均線を下回っている場合は投資対象から外す「MAフィルタ」が提案されている。下降トレンドにあるセクターを除外することで、偽シグナルを減らす狙いである。
12ヶ月形成・1ヶ月保有のロングオンリー構成に対して、MAフィルタなし / 100日MA / 200日MAの3パターンを比較した。
| フィルタ | ロング年率 | シャープ | 超過年率 | 勝率 | 平均選択数 |
|---|---|---|---|---|---|
| フィルタなし | 14.5% | 0.85 | 1.2% | 50.3% | 7.0 |
| MA100フィルタ | 13.3% | 0.90 | 1.9% | 52.9% | 6.8 |
| MA200フィルタ | 13.1% | 0.85 | 0.6% | 50.3% | 6.7 |
超過年率 = ロングポートフォリオのリターン − TOPIX同期間リターン。勝率は月次で超過リターン>0の割合
MA100フィルタを適用すると、超過リターンが1.2%→1.9%に改善し、シャープレシオも0.85→0.90と若干向上した。100日移動平均線を下回るセクターを除外することで、下降トレンドのセクターを掴むリスクが軽減されたと解釈できる。一方、MA200フィルタはフィルタが厳しすぎるためか超過リターンが0.6%に低下しており、この設定では逆効果となった。
6. 年度別・市場局面別の傾向
年度別パフォーマンス
年度別に見ると、戦略の成績にはかなりのばらつきがある。
- 大幅プラスの年: 2020年(+35.4%)、2024年(+10.4%)、2022年(+8.9%)
- 大幅マイナスの年: 2023年(-17.6%)、2014年(-16.6%)、2016年(-13.5%)
特に2020年のL-S +35.4%が突出している。コロナショック後の業種間格差(ITセクターの急回復 vs 旅行・運輸の低迷)がモメンタム戦略に極めて有利に働いた年であり、この1年がなければ全体の結果は大きく変わる点に注意が必要だ。
一方、2023年はL-S -17.6%と大きく沈んだ。この年は半導体関連セクターの急騰が市場を牽引したが、前年のモメンタムでは捉えきれなかった構造的な変化(生成AIブーム)が背景にある。
市場局面別(ブル/ベア)
| 局面 | 月数 | L-S平均 | L-S中央値 | L-S勝率 | ロング超過 |
|---|---|---|---|---|---|
| ブル(TOPIX≥0) | 105 | +0.03% | +0.24% | 51% | -0.09% |
| ベア(TOPIX<0) | 58 | +0.49% | +0.59% | 53% | +0.46% |
興味深いのは、ベア局面でL-Sリターンがやや高い(+0.49%/月 vs ブル+0.03%/月)点である。下落局面ではセクター間の格差が拡大する傾向があり、モメンタム戦略がその差を捕捉しやすくなると考えられる。ただし、いずれの局面でもt検定では有意差は確認されていない(ブル: p=0.93、ベア: p=0.35)。
7. セクター選択の傾向 — どの業種が選ばれやすいか
12ヶ月形成・1ヶ月保有の163期間で、ロング・ポートフォリオに選ばれた回数が多いセクターは以下の通りである。
| 順位 | 業種 | ロング回数 | ロング率 | ショート回数 | ネット |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | その他製品 | 73 | 45% | 10 | +63 |
| 2 | 電気機器 | 55 | 34% | 15 | +40 |
| 3 | 保険業 | 50 | 31% | 13 | +37 |
| 4 | 情報・通信業 | 48 | 29% | 11 | +37 |
| 5 | 卸売業 | 41 | 25% | 12 | +29 |
| 6 | 建設業 | 33 | 20% | 7 | +26 |
| 7 | 倉庫・運輸関連業 | 31 | 19% | 6 | +25 |
| 8 | 機械 | 32 | 20% | 11 | +21 |
| 9 | 精密機器 | 45 | 28% | 26 | +19 |
| 10 | 小売業 | 29 | 18% | 16 | +13 |
「その他製品」が圧倒的な1位で、全163期間のうち45%の月でロング対象に選ばれている。この業種には任天堂やバンダイナムコなどのグローバルIP企業が含まれており、海外需要による持続的な成長がモメンタムとして表れやすい。「電気機器」(半導体・電子部品)と「保険業」(メガ損保の収益改善トレンド)が続く。
逆にショート頻度が高い(=モメンタムが弱い)のは、パルプ・紙、繊維製品、鉱業といった内需型・資源型セクターである。これらは構造的な低成長や商品市況の変動に左右されやすく、持続的なモメンタムが発生しにくい。
8. まとめと考察
検証結果のまとめ
- 日本市場でもセクター・モメンタム効果は存在する — ただし、教科書通りの12ヶ月形成ではなく、6〜9ヶ月の短い形成期間が有効
- 最良構成は6ヶ月形成・3ヶ月保有 — L-S年率4.8%、シャープ0.67、p=0.013で統計的に有意
- 保有期間は3ヶ月が安定 — 全形成期間で1ヶ月保有よりシャープレシオが高い
- MAフィルタは100日が有効、200日は逆効果 — 適切なフィルタ設定で超過リターンが1.2%→1.9%に改善
- ベア局面で相対的にL-Sが機能 — 市場下落時のセクター格差がモメンタム効果を増幅
個人的な見解
個人的に注目しているのは、「なぜ日本市場では形成期間が短い方が有効なのか」という点である。米国市場では12ヶ月形成が標準とされるが、日本市場では6〜9ヶ月がベストという結果が出た。
この差の背景には、日本市場特有の構造がある可能性がある。日本企業の多くは3月決算であり、決算発表が集中する5月・11月前後にセクター間のリターン格差がリセットされやすい。12ヶ月形成では2回の決算シーズンを跨ぐため、前半のモメンタムが後半で打ち消されてしまうのではないか。6ヶ月形成であれば、直近の決算サイクル1回分のトレンドを効率的に捕捉できると考えられる。
また、2020年のコロナショック後の異常なリターン(L-S +35.4%)が全体の結果に大きく寄与している点は冷静に評価すべきである。この年を除外した場合にも有意性が維持されるかどうかは、別途検証する価値がある。
実運用を考える場合、東証業種指数に直接投資することはできないため、業種別ETF(例: NEXT FUNDSシリーズ)や各業種の代表銘柄バスケットで代替する必要がある。その際の取引コストやトラッキングエラーも考慮に入れるべきだろう。
注意: 本レポートはバックテストに基づく検証結果であり、将来のリターンを保証するものではない。特にパラメータ最適化の結果は過学習リスクを伴う。投資判断は自己責任で行っていただきたい。
出典: Kakushadze, Z. and Serur, J.A. (2018). 151 Trading Strategies. SSRN、日本取引所グループ 業種別株価指数
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。