かんぽ生命は3Q累計で経常利益が通期予想の90.2%に達し、予想を上回るペースで利益を積み上げている。PBR0.42倍と株価は安く見えるが、純資産4.1兆円の6割は旧簡保契約に由来する有価証券の含み益で、会社自身が株主の取り分を測るときにこれを外している。株主資本と比べると時価総額はほぼ同じ水準で、株価の見直しには、5月の次期中期経営計画が保有契約の減少にどう答えるかを見る必要がある。
目次
経常利益は3Qの時点で通期予想の9割に届いた。それなのに株価は純資産の4割ほどしかない。これは安く放置されているのか、それとも純資産という物差しが実態より安く見せているのか。 かんぽ生命保険(7181)は、全国約2万局の郵便局を販売網に持つ日本郵政グループの生命保険会社だ。2019年の不適切な販売の問題で信頼を大きく失い、その後の業務改善を経て利益は回復してきた。 決算資料と信用残のデータから、この割安がどこまで株主の取り分なのかを確かめる。
株価と主な指標(4月10日)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 証券コード / 市場 | 7181 / 東証プライム(保険業) |
| 株価(4/10終値) | 1,595.5円(4月1日に1株を3株に分割した後の値) |
| 時価総額 | 約1兆7,800億円 |
| PER / PBR | 10.9倍 / 0.42倍(プライム市場の保険業11社の平均は2月末で14.8倍 / 1.5倍) |
| 配当利回り | 2.59%(年間41.33円、分割調整後) |
| 親会社 | 日本郵政(議決権の約5割。かんぽ生命は自社株買いでも50%を超えないようにしている) |
出典: Yahoo!ファイナンス(2026年4月10日時点)、業種平均は日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR」の単純平均
3月31日を基準日とする株式分割(1株を3株に)で、最低投資金額は分割前の約47万円から約16万円に下がり、個人でも買いやすくなった。 PER(株価が1株あたり利益の何倍か)もPBR(株価が1株あたり純資産の何倍か)も保険業の平均を下回り、数字の上では割安に見える。 ただし、生命保険会社のPBRは純資産の中身を見ないと判断を誤りやすい。この点は後の節で確かめる。
経常収益が減っても利益が増える理由
経常収益(保険料と運用収益を合わせた、売上にあたる数字)は保有契約の減少とともに縮んでいる。一方、経常利益は2023年3月期、純利益は2024年3月期を底に増えている。
| 決算期 | 経常収益 | 経常利益 | 純利益 | EPS(円) | 配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2022.03 | 6兆4,542億 | 3,561億 | 1,580億 | 125.1 | 30.00 |
| 2023.03 | 6兆3,795億 | 1,175億 | 976億 | 83.2 | 30.67 |
| 2024.03 | 6兆7,441億 | 1,611億 | 870億 | 75.8 | 31.33 |
| 2025.03 | 6兆1,653億 | 1,702億 | 1,234億 | 107.5 | 34.67 |
| 2026.03(予) | 5兆7,400億 | 2,600億 | 1,590億 | 146.3 | 41.33 |
※ EPS・配当は2026年4月1日の1:3株式分割を反映した調整後の数値。出典: 株探 決算情報
生命保険会社では、保有契約が減ると保険料の収入が減る一方、保険金や給付金の支払いも減る。 そこへ金利上昇で運用の利回りが上がり、事業費も減ったため、2026年3月期は経常利益2,600億円(前期比52.7%増)と大きく増える見込みだ。 配当は5期続けて増える予想で、分割前の1株あたりで2022年3月期の90円から2026年3月期の124円へ、4年間で約38%増えた。
3Q決算、経常利益は通期予想の90.2%
2月13日に発表した第3四半期(2025年4〜12月)の決算は次のとおり。
出典: かんぽ生命 2026年3月期 第3四半期決算のお知らせ
通期の経常利益予想2,600億円に対し、3Q累計で2,344億円を稼いだ。進捗率は90.2%で、残りの1〜3月に256億円を積めば予想に届く。 決算期末に向けて利益が偏りやすい事情を考えても高い水準で、通期予想を上回る余地は大きい。 修正利益(純利益から新契約の初年度にかかる準備金の負担などを除いた、株主還元の元になる利益)は1,203億円で、通期予想の74.3%だった。
純利益が40.3%増えた理由
会社の説明による増益の理由は次のとおり。
- 順ざやの拡大 — 運用の利回りが契約者に約束した予定利率を上回る分(順ざや)は1,720億円で、前年同期より832億円増えた。利子の利回りは2.08%、平均の予定利率は1.59%だった。
- 新契約の初年度負担の減少 — 生命保険会社は契約を取った年に準備金をまとめて積むため、新契約が減るとその年の負担が軽くなる。
- 事業費の減少 — 事業費とその他の経常費用が、前年同期より233億円減った。
新契約件数はほぼ半減
個人保険の新契約件数は35.2万件で、前年同期から48.2%減った。 会社は、まとまったお金を一度に払い込む一時払終身保険の販売が減ったことを主な理由に挙げている。 新契約から将来得られる利益の見込み(新契約価値)は537億円で、金利上昇で1件あたりの利ざやが増え、前年同期より44億円増えた。件数は減ったが、1件あたりのもうけは増えている。
保有契約の減少と次期中計
一番の課題は、保有契約が減り続けていることだ。 12月末の個人保険の保有契約は1,799.4万件で、3月末から4.3%減った。 2019年に、高齢者に不利な乗り換えをさせるなどの不適切な販売が明らかになり、12月に3カ月の業務停止命令を受けて営業が長く止まったことが出発点にある。 養老保険など昔の大型契約が次々に満期を迎えていることや、ネット生保や独立系の代理店が伸びて郵便局の窓口で売る強みが薄れたことも、件数を押し下げる要因だ。 会社は新しい区分の保有契約を早く底打ちさせ、増加に転じさせたいとしているが、時期は示していない。
次期中期経営計画と時価総額2兆円の目安
いまの中期経営計画(2021〜2025年度)は2026年3月期で終わり、次の計画は5月に発表される予定だ。会社は次のような方向を示している。
- 時価総額2兆円(修正PBR1.2倍、P/EV0.5倍程度)を当面の目安にする
- 3つの成長戦略と5つの経営基盤の強化で、ROEを高め、PERの改善につなげる
- 販売の窓口ごとの営業体制を固め、毎月払いの商品の魅力を高めて新契約を増やす
- 国内外の提携で収益源を広げる
- 人材への投資と企業風土の改革、資本効率を意識した経営を進める
出典: かんぽ生命 経営戦略・成長戦略
いまの時価総額は約1兆7,800億円で、目安の2兆円まではあと約12%上がる必要がある。 4月1日には社内に「かんぽ経済研究所」をつくり、金利など経済の見通しを運用と商品づくりに生かすとしている。運用資産は約59兆円あり、運用利回りが少し上がるだけでも利益は大きく増える。
PBR0.42倍に占める株主の取り分
12月末の純資産は4兆1,227億円で、このうち2兆4,575億円(約6割)がその他有価証券評価差額金、つまり持っている株や債券の含み益だった。 会社の説明では、この含み益の多くは日本郵政公社から引き継いだ簡易生命保険の契約(旧区分)に由来し、旧区分は利益の多くを契約者への配当に回す仕組みになっている。 そのため会社は、株主にとっての利益率を示す修正ROEの計算で、分母に含み益を除いた株主資本を使っている。
| 物差し | 金額(12月末) | 時価総額1兆7,800億円との比 |
|---|---|---|
| 純資産 | 4兆1,227億円 | 0.42倍(ふつうのPBR) |
| 株主資本 | 1兆7,180億円 | 約1.04倍。目安の時価総額2兆円はその約1.2倍にあたる |
| EV | 4兆3,438億円 | 0.41倍(P/EV)。目安の0.5倍なら時価総額は約2.2兆円 |
出典: かんぽ生命 2026年3月期 第3四半期決算短信・決算の概要
株主資本で比べると、時価総額はほぼ同じ水準になり、PBR0.42倍ほどの安さはない。 会社の目安の「修正PBR1.2倍」も、時価総額2兆円が株主資本の約1.2倍にあたることから、この株主資本に近い物差しで測っていると考えられる。 利益率を示すROEも同じで、純利益を純資産で割った2025年3月期の値は3.7%だが、会社の修正ROEは8.8%だった。
EV(エンベディッド・バリュー)は、株主資本などに、いまある契約から将来得られる利益の見込みを足した、生命保険会社の価値の物差しだ。 12月末は国内株の値上がりで3月末より4,029億円増えた。時価総額をEVで割ったP/EVの0.41倍は、市場がこの見込みの多くを株価に反映していないことを示す。 個人的には、割安の中心は純資産の数字よりも、このEVとの差にあると見ている。
株主還元は増配と自社株買い
会社は中期経営計画の期間中、利益に対する株主還元の割合(総還元性向)を平均40〜50%にする方針だ。 2025年3月期からは修正利益を還元の元にしており、新契約の多い年に純利益が一時的に下がっても配当を減らさずに済むようにした。
| 決算期 | EPS(円) | 配当(円) | 配当性向 | 配当利回り |
|---|---|---|---|---|
| 2023.03 | 83.2 | 30.67 | 36.9% | — |
| 2024.03 | 75.8 | 31.33 | 41.3% | — |
| 2025.03 | 107.5 | 34.67 | 32.3% | — |
| 2026.03(予) | 146.3 | 41.33 | 28.3% | 2.59% |
※ 分割調整後。出典: かんぽ生命 株主還元、株探
2026年3月期の配当性向は28.3%で、残りは自社株買いで埋める。 2月13日には、2026年3月期の利益に対する追加の還元として、上限450億円の自社株買いを決めた。会社はこの年の総還元性向を55%程度と見込んでいる。
金利上昇のプラス面とマイナス面
日銀の利上げに伴う金利上昇は、巨額の資金を運用する生命保険会社には中長期の追い風だ。 リース3社の比較記事で見たお金を「借りる側」の逆風とちょうど反対で、生保は「運用する側」として利回りの上昇を受け取れる。 新しく買う債券の利回りが上がれば上で見た順ざやが広がり、予定利率を引き上げた商品は同じ保障でも保険料が安くなるので、貯蓄の商品としても選ばれやすくなる。
ただし、金利が上がると、すでに持っている債券の時価は下がる。 主要な生保13社・グループの国内債券の含み損は、2025年3月末に16兆8,500億円と、前の年度末の3兆8,000億円から1年で4倍以上に膨らんだ。 古い低利率の保険を解約して利率の高い商品や投資信託に乗り換える動きも広がり、生保業界全体の解約返戻金は2025年10〜12月に前年同期より5割多い3兆8,000億円と、四半期で過去最高になった。
含み損の注意点: 生命保険会社は債券を満期まで持つことが多く、含み損がすぐに損失になるわけではない。ただし、健全性を測るソルベンシー・マージン比率の計算に影響するため、金利が急に上がると経営の自由度が狭まる。
信用倍率51.68倍を押し上げたのは売り残の少なさ
4月3日時点の信用倍率(信用買い残÷信用売り残)は51.68倍だった。 信用取引で買った株は、制度信用なら6カ月以内に売って返済する必要があるので、買い残が多いほど将来の売りが増える。 ただ、手元の信用残のデータで週ごとの推移を見ると、倍率を押し上げたのは買い残の増加より、売り残の減少だった。
| 時点 | 買い残 | 売り残 | 信用倍率 |
|---|---|---|---|
| 3月6日 | 302.7万株 | 20.3万株 | 14.93倍 |
| 3月13日 | 293.1万株 | 17.1万株 | 17.11倍 |
| 3月20日 | 284.2万株 | 5.5万株 | 51.49倍 |
| 3月27日 | 248.1万株 | 6.8万株 | 36.60倍 |
| 4月3日 | 232.6万株 | 4.5万株 | 51.68倍 |
※ 全市場の週次の信用残。3月分は分割に合わせて3倍にそろえた。
買い残は1カ月で約2割減り、売り残は約8割減った。 4月3日の買い残232.6万株は発行済株式の0.2%で、4月6〜10日の1日平均の出来高(約200万株)の1日分あまりにすぎない。 株価が下がったときに決済売りが重なるリスクはあるが、倍率の数字が示すほど買いが積み上がっているわけではない。 売り残が小さいので、少し増減するだけで倍率は大きく動く。自分なら、倍率より買い残の株数を毎週見る。
5月の決算と中計で確かめること
2026年3月期の通期決算。経常利益が2,600億円をどこまで上回るかと、2027年3月期の会社予想。
次期中期経営計画。時価総額2兆円に向けた具体的な施策と、保有契約の目標が示されるか。
四半期ごとの保有契約件数。減るペースが緩むか、増加に転じるか。
金利の追い風と契約の減少の綱引き
かんぽ生命では、金利上昇で増える利ざやと、保有契約の減少による利益の目減りが、同時に進んでいる。 同じ保険業でも、バークシャーの買い増しで急騰した東京海上の記事のような外からの買い材料はなく、評価の見直しは業績と中計にかかっている。
金利の上昇が続けば、順ざやの拡大で保有契約の減少をある程度補い、利益の水準は保てると考えている。 3Q時点の進捗率を見る限り、2026年3月期は予想を上回りそうだ。 ただ、株主資本で見た割安さは小さく、株価の見直しには利益がこの先も増えるという根拠が要る。 その根拠になるのは、保有契約の減少を止める具体策だ。 日本郵政が持ち株をさらに売り出すと需給が一時的に悪くなる点も、頭に入れておきたい。
2026年3月期の利益は予想を上回るペースで、配当も5期続けて増える見込みだ。PBR0.42倍は含み益を含む純資産で測った数字で、株主資本と比べれば時価総額はほぼ同じ水準にある。 5月の通期決算で来期の利益予想を、次期中計で保有契約の減少を止める具体策を確かめたい。 そこで契約の底打ちの時期と数字が示されれば、P/EV0.41倍との差が縮まる理由になる。
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