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3月23日、日経平均が前の営業日より3.5%下げた日に、KADOKAWA(9468)の株価は8.32%高い3,397円で引けた。19日の引け後に、物言う株主(アクティビスト)として知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントが、発行済み株式の8.86%を持つと報告していた。会社の2025年4〜12月の営業利益は前年同期の4割に落ちていて、業績だけでは買われた理由を説明しにくい。報告書の中身と大株主の顔ぶれ、オアシスの過去の事例から、この先の株主総会で何が起こりうるかを確かめる。
大量保有報告書に書かれていたこと
報告書によると、オアシスは3月12日に市場の外で580万5,100株を1株3,149円で買い、保有が5%を超えた。保有は合わせて1,319万7,300株で、取得に使った資金は約395億円になる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保有株数 | 1,319万7,300株(発行済み株式の8.86%) |
| 取得に使った資金 | 約395億円 |
| 保有目的 | 「ポートフォリオ投資および重要提案行為。」 |
| 重要提案行為等 | 「株主価値を守るため、重要提案行為を行うことがある。」 |
重要提案行為は、役員の選び方や配当・資本政策、事業の売却など、会社の重要な方針を変えるよう株主が働きかけることを指す。オアシスはこの目的を書いたので、株を持つだけでなく、経営に具体的な提案をするつもりだと読める。3月11日に報告したニデックの株でも、同じ文言を書いている。
3月23日の株価は、前の営業日より4.3%高い3,270円で寄り付き、そのまま上げて高値の3,397円で引けた。同じ日にTOPIXは3.4%下げている。2月に大量保有報告書6,562件で検証したときは(大量保有報告書が出ると株価はどう動くかの検証)、初めて5%を超えた報告書が出た銘柄を翌営業日の始値で買っても、平均では市場に勝てなかった。KADOKAWAも寄り付きの時点でかなり値段に入っていたが、この日は始値からさらに3.9%上げた。
ソニーと韓国・中国の企業が並ぶ大株主
オアシスの8.86%は、日本経済新聞の推計では第4位の大株主にあたる。有価証券報告書などの大株主の一覧は信託銀行や海外の証券会社の名義が上位を占め、実際に誰が持っているかは分かりにくい。大量保有報告書で見ると、事業会社とオアシスの保有は次のとおりだ。
| 株主 | 保有割合 | 報告の基準日 |
|---|---|---|
| ソニーグループ | 10.0% | 2025年1月7日 |
| オアシス・マネジメント | 8.86% | 2026年3月12日 |
| カカオインベストメント(韓国) | 8.44% | 2025年6月30日 |
| シックスジョイ・ホンコン(中国テンセントの子会社) | 7.97% | 2025年2月25日 |
各社がそれまでに出した最新の大量保有報告書・変更報告書の値。
ソニーは2024年12月の資本業務提携で1株4,146円の新株を引き受け、払い込みから1年間はKADOKAWAの同意なく株を売らないと約束していた。3月23日の終値3,397円は、ソニーが払った値段より2割近く低い。韓国のカカオと中国のテンセントの子会社も8%前後を持つので、オアシスが株主総会で議案を通せるかは、こうした事業会社の株主がどちらにつくかで大きく変わる。
オアシスが日本でしてきたこと
オアシスは2002年にセス・フィッシャー氏が香港で設立したファンドで、日本企業にも多く投資している。手元のデータベースに収録している大量保有報告書で数えると、2018年以降、52社について5%を超える保有を報告してきた。報告書を出した会社の数は2021年に9社、2024年に20社で、2026年は3月23日までにもう12社に上る。KADOKAWAは、日本企業への関与を急に増やしているさなかの1社だ。主な事例は次のとおり。
| 会社 | オアシスの動き | その後 |
|---|---|---|
| フジテック | 2022年3月に5%超を報告。創業家出身の社長の再任に反対し、会社と創業家の間に疑わしい取引があると主張した | 2023年2月の臨時株主総会でオアシスが推す社外取締役が選ばれ、3月に取締役会が創業家出身の会長を解職した。オアシスは2025年12月、投資ファンドEQTのTOBに約29.6%の株をすべて売った |
| 堀場製作所 | 2025年12月5日に9.9%の保有を報告。堀場厚会長の再任に反対した | 報告の後の12月8日に株価は一時9.3%高の16,680円(上場来高値)。3月21日の株主総会で再任議案は可決されたが、賛成率は前回の91%から74.4%に下がった |
| 花王 | 2024年12月に5%超を報告し、2026年3月23日の報告で9.90%。3月5日に臨時株主総会の招集を請求した | 議題は、パーム油などの調達のリスク管理に不備がなかったかを調べる人の選任 |
| ニデック | 3月11日に6.74%の保有を報告。創業者を含む特定の個人の影響力に頼りすぎない統治体制を求めた | 翌12日に株価は一時7.9%高 |
出典: フジテック「公開買付けの結果並びに親会社及び主要株主の異動に関するお知らせ」(2025年12月16日)、堀場製作所の株主総会、堀場厚会長の再任賛成比率74%(日本経済新聞、2026年3月23日)
フジテックでは、報告から会長の解職まで約1年、オアシスが株を売るまでに4年近くかかった。日本経済新聞は2025年6月、会長の解職から2年で株価が7割上がったと報じている。オアシスは一度入ると何年も関わり続け、最後は買い手に株を売って出ていくこともある。KADOKAWAでも、6月の株主総会で決着がつくとは限らない。
KADOKAWAの弱いところは、統治と落ち込んだ利益
元会長の裁判と、2024年のサイバー攻撃
角川歴彦元会長は2022年9月、東京五輪をめぐる贈賄の疑いで逮捕され、10月に会長を辞めた。2026年1月22日に東京地裁は、大会組織委員会の元理事側に計約6,900万円を渡したとして、懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。元会長は無罪を主張しており、翌日に控訴している。
2024年6月には、グループのデータセンターがランサムウェア(データを暗号化して身代金を求める不正プログラム)の攻撃を受けた。ニコニコ動画などのサービスが止まり、25万4,241人の個人情報が漏れた。KADOKAWAは2025年3月期に対応費用24億円を特別損失に計上し、攻撃で売上が83億円、営業利益が47億円減ったと試算している。攻撃の後には身代金を払ったとする報道も出たが、KADOKAWAは報道に抗議し、払ったかどうかは明らかにしていない。
どちらも会社の管理の甘さを問われた出来事で、オアシスが統治の見直しを求める理由として使いやすい。企業が不祥事を開示したあと株価がどう動くかは、2月に開示125件で検証した。
4〜12月の営業利益は59.7%減
2月12日の第3四半期決算短信では、2025年4〜12月の業績は次のとおりだった。通期の予想は11月に引き下げた値で、営業利益は前期より38.1%減る。
| 項目 | 4〜12月 | 前年同期比 | 通期予想 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,029億円 | -1.7% | 2,782億円 |
| 営業利益 | 63.8億円 | -59.7% | 103億円 |
| 経常利益 | 91.1億円 | -47.1% | 124億円 |
| 純利益 | 22.1億円 | -70.0% | 49億円 |
| 事業(4〜12月) | 売上高 | 利益 | 前年同期との比較 |
|---|---|---|---|
| 出版・IP創出 | 1,116億円 | 6.2億円 | 利益が90.2%減った |
| アニメ・実写映像 | 316億円 | -9.0億円 | 前年同期の47億円の黒字から赤字に |
| ゲーム | 233億円 | 80.5億円 | 利益は7.0%減ったが、全社の営業利益を上回る |
| Webサービス | 162億円 | 21.9億円 | 前年同期の7.1億円の赤字から黒字に |
| 教育・EdTech | 128億円 | 25.1億円 | 売上13.4%増、利益10.9%増 |
出版とアニメの落ち込みが大きく、ゲームの利益80.5億円が全社の営業利益63.8億円を上回っている。ゲームの中心は『エルデンリング』を開発したフロム・ソフトウェアで、KADOKAWAの利益はこの1社にかなり頼っている。
株価の水準と、フロム・ソフトウェアの価値
3月23日の終値3,397円で計算すると、時価総額は約5,060億円になる。会社予想の1株利益33.34円に対する株価収益率(PER)は約102倍で、12月末の1株純資産1,674.68円に対する株価純資産倍率(PBR)は2.03倍だ。利益が落ちている分、PERは高く見える。
フロム・ソフトウェアは2022年8月、ソニーの子会社とテンセントの子会社に計364億円で新株を割り当て、KADOKAWAの持ち分は69.66%になった。約30%に364億円を払った計算で、会社全体では約1,200億円の値段が付いたことになる。その後、『エルデンリング』の出荷は2025年4月に3,000万本を超えた。子会社の価値が親会社の株価にどこまで入っているかは、外からは分かりにくい。
オアシスが求めそうなこと
過去の事例とKADOKAWAの状況から、オアシスが出しそうな提案は4つある。どれも3月24日時点の見立てで、オアシスはまだ何も公表していない。
1. ガバナンス改革
取締役会の顔ぶれや役員の選び方を見直すよう求める。フジテックでは社外取締役を送り込み、堀場製作所では会長の再任に反対した。
2. 株主への還元を増やす
配当や自社株買いを増やすよう求める。KADOKAWAの還元の水準は下の表のとおり。
3. 事業の選択と集中
利益が落ちた出版とアニメの採算を見直し、稼いでいるゲームや教育にお金と人を回すよう求める。
4. フロム・ソフトウェアの価値を見えるようにする
上場や他社との提携で、子会社に市場の値段を付けるよう求める。値段が付けば、KADOKAWAの株価にも反映されやすくなる。
| 指標 | 値 | 補足 |
|---|---|---|
| 1株利益(EPS) | 33.34円 | 前期は53.87円 |
| 年間配当 | 30円 | 前期、前々期と同じ額 |
| 配当性向 | 約90% | 利益が減ったために上がった。前期は55.7% |
| 配当利回り | 0.88% | 3月23日の終値3,397円で計算 |
日本取引所グループの統計で、2月のプライム市場の平均配当利回りは2%前後だった。KADOKAWAの0.88%はその半分に届かない。配当性向がすでに9割なので、配当を増やすより自社株買いを求めるほうが現実的に見える。KADOKAWAは2024年3月期に200億円の自社株を買った実績がある。自社株買いの発表のあと株価がどう動くかは、過去の発表を集めた検証記事に書いた。
参入の中長期での見方
個人的には、オアシスの参入はKADOKAWAの株主にとって、中長期ではプラスに働く面が大きいと見ている。元会長の裁判とサイバー攻撃で統治に直すべき点がはっきりしていて、オアシスは改善を求める理由を示しやすい。3月23日の株価はソニーが払った4,146円より2割近く低く、フロム・ソフトウェアを含む事業の価値に株価が追いついていないと考える余地もある。
ただし、時間はかかる。フジテックでは会長の解職まで約1年かかり、オアシスが株を売ったのは4年近く後だった。提案が株主総会で否決されることもあり、ソニーやカカオ、テンセントの子会社がどちらにつくかで結果は変わる。出版とアニメの不振は一時的なものとは限らず、統治を直しても利益がすぐに戻るとは限らない。経営陣とオアシスの対立が長引けば、委任状の奪い合い(プロキシーファイト)になり、経営が落ち着かない時期が続くおそれもある。
まとめ
6月の株主総会までに確かめること
オアシスがKADOKAWA株の8.86%を持ち、経営に提案することがあると書いたことで、6月の定時株主総会が最初の節目になる。統治に直すべき点が多く、利益が落ちている会社では、提案の中身と大株主の賛否で株価が大きく動く。自分は、提案が出そろうまで判断を急がない。
1. オアシスの株主提案
提案を出すかどうかと、その中身が統治か、還元か、事業の組み替えか、フロム・ソフトウェアか。
2. KADOKAWAの経営陣の対応
オアシスと対話するか、対立するか。
3. 5月の本決算と2027年3月期の会社予想
出版とアニメの利益が戻るか。フロム・ソフトウェアが次の大型作品をいつ出すか。
4. ソニー、カカオ、テンセントの子会社の動き
ソニーが株を売らないと約束した1年間は、2026年1月に終わっている。
5. オアシスの買い増し
保有の割合が1%以上動くたびに出る変更報告書で、買い増しを続けるかを見る。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。