- 3月2日は豊田自動織機へのTOB価格を2万600円に引き上げる意向と、反対していたエリオットの応募合意でTOPIXが1.0%安の中の逆行高。翌3日はホルムズ海峡の封鎖で6.1%安と、2024年9月30日以来の下げ幅になった
- 3月5日は日経平均が1.9%上がり33業種中27業種が上がる全面高の中で、トヨタは1.1%安の安値引け(その日の最安値で取引を終えること)。買われたのは鉱業・石油・銀行で、輸送用機器は0.3%安。原油高で損をする側に自動車株が置かれた
- 関税15%(今期の減益影響1.45兆円)、総額約5.9兆円に膨らんだTOB、原油高の3つはすぐには消えない。市場全体が戻ってもトヨタの戻りは遅れやすいと見ている
目次
好材料で上がった株が、3日後には市場全体が反発する日に安値で引けた。トヨタ自動車(7203)の2026年3月第1週の値動きだ。3月2日、トヨタ不動産を中心とするグループが豊田自動織機へのTOB(株式公開買い付け)価格を2万600円に引き上げる意向を示した。反対していた米エリオットが応募に合意し、トヨタ株は3.1%高で引けた。ところが革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を表明し、翌3日は6.1%安。日経平均が1.9%上がった5日も、トヨタは1.1%安の3,481円とその日の最安値で取引を終えた。何が買われ、何が売られたのかを業種と銘柄の数字で確かめる。
4営業日で9%下げた値動きとTOPIXとの差
2月27日から3月5日までの日足を、手元のデータベースから並べる。前日比の隣に、同じ日のTOPIXの前日比を置いた。
| 日付 | 始値 | 高値 | 安値 | 終値 | 前日比 | TOPIX | 出来高 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2/27(金) | 3,740 | 3,825 | 3,716 | 3,825 | +1.3% | +1.5% | 2,862万 |
| 3/2(月) | 3,685 | 3,957 | 3,652 | 3,944 | +3.1% | -1.0% | 4,461万 |
| 3/3(火) | 3,800 | 3,801 | 3,673 | 3,702 | -6.1% | -3.2% | 5,059万 |
| 3/4(水) | 3,660 | 3,669 | 3,497 | 3,520 | -4.9% | -3.7% | 3,427万 |
| 3/5(木) | 3,600 | 3,635 | 3,481 | 3,481 | -1.1% | +1.9% | 3,170万 |
2月27日の終値3,825円から3月5日の3,481円まで、4営業日で9.0%下げた。市場との差が出た日が2回ある。TOPIXが1.0%下げた3月2日にトヨタは3.1%上がり(市場と逆に動く逆行高)、TOPIXが1.9%上げた5日に1.1%下げて安値で引けた(逆行安)。この2日を順に見ていく。
3月2日の逆行高 — 豊田織機TOBの引き上げとエリオットの合意
3月2日の後場、トヨタ不動産は豊田自動織機へのTOB価格を1株1万8,800円から2万600円に引き上げる意向を公表した。買い手はトヨタ不動産の子会社トヨタアセット準備で、トヨタ自動車は議決権のない優先株で8,000億円を出資している。価格は2025年6月の1万6,300円、1月14日の1万8,800円に続く2度目の引き上げで、正式な変更は融資証明書を取った後の3月6日に決まる。
トヨタが持つ織機株の取得費まで含めた買収総額は約5.9兆円に膨らんだ(日本経済新聞 2026年3月2日)。TOBの買付代金だけなら、2万600円で約4兆6,600億円になる。
引き上げの意味は、反対していた米エリオット・インベストメント・マネジメントが応募に合意したことだ。エリオットは織機株の7.7%を持つ大株主だ。1月18日の書簡では公正価値を1株2万6,134円として1万8,800円を「著しく過小評価」と批判し、上場を保ったまま価値を出す案も示していた。
3月1日付の応募契約には、3月9日までに価格が2万600円以上に変わること、4月14日までにTOBが成立することが条件として付いている。トヨタ陣営は2月2日に「本源的価値を反映した価格だ」として価格を変えない方針を公表していたので、1か月での軌道修正になった。
この日はTOPIXが1.0%下げる中でトヨタだけ3.1%高で、出来高4,461万株は2月の1日平均2,558万株の1.7倍だった。買われた理由は、エリオットとの対立が長引けばTOBが成立しないおそれがあったのが、合意で成立に近づいたことだ。織機が持つトヨタ株9.15%をトヨタが自己株として買い取る道筋も付き、持ち合いの解消が進む。為替が156円付近から157円台前半に振れた円安も追い風に挙がったが、翌日も円安は続いていたので、この日の上げの主役はTOBの材料だ。
3月3日の急落 — ホルムズ海峡の封鎖と33業種すべての下落
楽観は1日で消えた。イランの革命防衛隊の幹部は2日、世界で消費される石油の約2割が通るホルムズ海峡を封鎖したと明らかにした。トランプ大統領も2日(米国時間)に「必要なだけやる」「当初は4〜5週間と見ていたが、もっと長くやる力がある」と述べた。この発言が3日の早朝に伝わると、日経平均は1,778円安(3.1%安)の56,279円と今年最大の下げ幅になる。33業種すべてが下げ、値下がり銘柄は全体の95%に及ぶ全面安だった。
輸送用機器の下落率5.4%は33業種の中で32番目に大きく、石油・石炭製品に次ぐ下げだった。トヨタは取引時間中に3,707円(6.0%安)まで売られ(日本経済新聞 2026年3月3日)、終値は3,702円の6.1%安。手元の日足で確かめると、1日の下げ幅としては2024年9月30日の7.6%安以来の大きさだ。
封鎖が長引けば、原油高がガソリン価格を押し上げて新車の買い控えにつながり、物流費と部品の調達コストも上がる。インフレの再加速で各国の中央銀行が利下げしにくくなれば、自動車ローンの金利も高止まりする。自動車株が売られたのはこの経路を市場が先に織り込んだためで、攻撃が始まった2月28日からの市場全体の動きは開戦直後に書いた市況記事で整理している。
3月5日の逆行安 — 全面高で買われた業種と売られた業種
反発のきっかけは2つある。4日の米国市場で、サービス業の景況感を示すISM非製造業景況指数が56.1と予想を上回り、ダウが238ドル高と4営業日ぶりに反発したこと。そして、イラン情報省の工作員がCIAに停戦に向けた対話の用意があると伝えていたとニューヨーク・タイムズが報じたことだ。
米当局者は交渉の存在を否定しており、封鎖も解けていないが、5日の日経平均は1,033円高(1.9%高)の55,278円と4日ぶりに反発する。値上がり1,423銘柄に対して値下がりは157銘柄、33業種のうち27業種が上がり、前日まで急落していた韓国と台湾の市場も大きく戻している。
その中でトヨタは始値3,600円から3,635円まで上げた後は売られ続け、終値3,481円は高値から4.2%低い安値引けになった。日経平均を押し下げた銘柄の2位で、ホンダも安値で引けている。業種別の上下を手元のデータベースで並べると、買われた側と売られた側がきれいに分かれる。
| 業種(東証33業種) | 3月5日 | 主な銘柄の前日比 |
|---|---|---|
| 鉱業 | +6.8% | INPEX +7.5%。原油高が収益に直結する |
| 石油・石炭製品 | +5.3% | 前日の下落率1位からの反発 |
| 銀行業 | +4.7% | みずほFG +6.4%、三井住友FG +3.7%、三菱UFJ +3.4%。インフレで金利が上がれば利ざやが広がる |
| 卸売業 | +3.2% | 三井物産 +6.1%。資源の値上がりが商社の利益になる |
| 電気機器 | +2.0% | キオクシア +5.5%、ソフトバンクグループ +4.3%。米国でエヌビディアが1.7%、アマゾンが3.9%上がった流れ |
| 輸送用機器 | -0.3% | トヨタ -1.1%、ホンダも安値引け。33業種中29番目で、下げたのは空運・その他製品・食料品・小売・陸運とこの業種だけ |
原油高は資源株と商社にはプラスで、自動車にはコスト増と需要減のマイナスになる。停戦の観測で市場全体は反発したが、封鎖が解けたわけではなく原油高は続いているので、自動車株には買い戻しの理由が乏しかった。後場には全人代が成長率目標を引き下げたことやクウェート沖のタンカー爆発も伝わり、日経平均の上げ幅は一時664円まで縮んでいる。前日まで3日続けて売られた分、反発の日に真っ先に買われたのは下げの大きかった石油や、金利上昇で利ざやが広がる銀行だった。
すぐには消えない3つの逆風
3月5日の逆行安は、その日だけ売りが多かったという話では終わらない。TOBの費用、米国の関税、原油高という、すぐには消えない重荷が3つ重なっている。
豊田織機TOBの費用(買収総額約5.9兆円)
買収総額は、1万6,300円で始まったときの約4.7兆円から2度の引き上げで約1.2兆円増えた。今回の引き上げ分だけでも、1株1,800円に買付予定の約2.26億株を掛けた約4,100億円になる。
トヨタ自動車の負担は優先株の8,000億円に加え、織機が持つトヨタ株を買い取る自己株TOBの上限4兆3,412億円に及ぶ。合意でTOBは成立に近づいたが、この金額はグループ全体の財務に乗る。日経は「価格設定にトヨタの誤算」と報じ、2月2日の「変更しない」から1か月で方針を変えた経緯も市場には不安材料になっている(日本経済新聞 2026年3月2日)。
米国の自動車関税15%
米国の自動車関税は、2.5%だった税率に2025年春の追加関税で27.5%になり、7月の日米合意で追加分を半分に減らして合計15%に落ち着いた。引き下げは2025年9月16日に発効している。それでも従来の6倍で、トヨタは2026年3月期の通期で約1.45兆円の減益要因と見積もり、4〜12月の累計ですでに1.2兆円の影響が出た。
2月6日に発表した第3四半期決算(2025年4〜12月)は、営業収益が38兆876億円と前年同期比6.8%増えた。営業利益は3兆1,967億円の13.1%減で、増収減益になる。通期の営業利益見通しは3兆4,000億円から3兆8,000億円に4,000億円引き上げた。ただし主因は為替の前提を1ドル146円から150円に変えた円安と、金利や為替のスワップ取引の評価益で、為替などを除いた改善は600億円にとどまる。
ハイブリッド車の販売は好調で電動車の比率は46.7%(ハイブリッド車だけで42.9%)に上がったものの、関税の重荷が消えたわけではない。所在地別の営業利益を見ると、北米は949億円と前年同期から44.8%減り、日本の1兆7,965億円とは桁が違う。米国はトヨタにとって台数と売上高で最大の市場だが、関税でいまは利益がほとんど出ていない(Car Watch 2026年2月6日)。
中東情勢と原油高による需要の下振れ
2月28日に始まった攻撃は、トランプ大統領自身が当初「4〜5週間」と見ていた。その本人が長期化を口にしたことで、3日の節で書いた原油高からガソリン高、物流費、ローン金利へと至る経路を、数週間では終わらない前提で考える必要が出てきた。その後の見通しの変化は3月16日付の続報記事で更新している。
ガソリン価格の上昇は、台数で最大の市場である米国の新車販売に直接響く。ハイブリッド車の比率が高いことは燃費の面で守りになるが、消費マインドそのものが冷えれば車種を問わず売れなくなる。3月5日の時点で停戦協議の報道はあっても、封鎖の解除は確認されていない。
逆行安の受け止め
3月5日の逆行安は、自動車株に対する投資家の見方が変わった表れだと見ている。これまでトヨタ株は日本株の代表銘柄として市場全体と連動しやすかった。今回は中東リスクと関税とTOB費用が同時に重なり、半導体や資源とは「何が起きると損をするか」が違う銘柄だと改めて意識させられた。
一方で第3四半期の決算では通期見通しを引き上げ、ハイブリッド車の需要も強い。中東情勢が落ち着けば売られすぎた分の修正が入る場面もありそうだ。ただ、3月16日のTOB期限、17〜18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)、18〜19日の日銀金融政策決定会合と判断材料が続くので、方向感は出にくい。
まとめと、次に確かめること
まとめ
3月第1週のトヨタ株は、TOB合意という好材料と、ホルムズ海峡の封鎖という悪材料が1日おきに押し寄せた結果だ。3月2日の逆行高はグループ再編の前進を素直に評価した動きで、翌日の封鎖がそれを打ち消した。
3月5日の逆行安で、同じ中東リスクでも資源株や銀行株には追い風になり、自動車株には逆風になることがはっきりした。原油高と関税とTOB費用が重なる間は、市場全体が戻ってもトヨタの戻りは遅れやすいと考えている。
次に確かめるのは、3月16日に期限を迎えるTOBの応募状況と、融資証明書を取った後の価格変更の正式決定だ。
17〜18日のFOMCでは、利下げの見通しが米国の新車ローンの金利にどう響くかを見る。18〜19日の日銀会合では、追加利上げが円高を通じて為替の前提150円を崩さないかが焦点だ。中東については、ホルムズ海峡の封鎖が解けて原油が下がり始めるかどうかで、自動車株への見方を変えるつもりだ。4月の第4四半期決算では、ハイブリッド車の販売が10〜12月の勢いを保ち、通期の上方修正を実現できたかを確かめたい。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。