- 外国人が買い越し、個人が売り越した週の翌週、TOPIXは平均+0.29%で、逆の組み合わせの+0.36%と差はなかった — 外国人の売買額と翌週のリターンの相関も-0.01で、週次の売買動向は翌週の手がかりにならなかった
- 翌々月は両者が買い越した週が+2.14%と最も高かったが、4つの組み合わせの差は偶然と区別できない — この58週のうち41週は上昇の続いた2020年以降にあり、2019年までの16週は-0.57%だった
- 外国人が大きく売り越し、個人が大きく買い越した週の翌月は+1.25%で、外国人が大きく買い越した週(+0.47%)より高かった。急落した週のあと、相場が戻った分が入るためとみている
目次
「外国人が買い越している週は強気に乗れ」「個人が売り越すほど相場は上がる」。東京証券取引所が毎週公表する投資部門別の売買を見るたびに、こうした見方を思い出す。外国人は東京市場の売買代金の6割前後を占めるので、その売買が相場の向きを決めるように見えるからだ。本当にそうなのかを、2014年1月から2026年1月までの626週分のデータで確かめた。公表の遅れを入れ、データを見てから売買できる日を起点にTOPIXを測ると、翌週・翌月・翌々月のどれでも、外国人と個人の売買の組み合わせによる差は偶然と区別できなかった。
1. 検証の背景と「投資部門別売買動向」とは
東証の投資部門別売買状況は、外国人・個人・信託銀行・事業法人などの買いと売りの金額を、週ごとに集計したデータだ。外国人と個人の差引(買い越しか売り越しか)は、市場の雰囲気を読む材料として多くの人が見ている。自分も毎週の公表のたびに、このデータを手元のデータベースに取り込んでいる。
「外国人に逆らうな」の理屈は、情報と資金の多い外国人が世界の景気を先に読んで大きなお金を動かすので、相場の流れを作りやすいというものだ。個人は下がった株を買い、上がった株を売る傾向が強く、「個人が売るほど上がる」と逆の指標として見る人もいる。外国人と個人が反対に動く週こそ強い合図だ、という見方もある。
この記事では、外国人と個人の買い越し・売り越しの組み合わせで週を4つに分け、その後のTOPIXの上がり下がりを比べた。売買金額の大きさで4等分する分け方でも確かめた。
2. データと検証手法
使用データ
- 投資部門別売買状況:日本取引所グループが公表する週次の集計(東京・名古屋の二市場の現物株)。2014年1月10日の週から2026年1月30日の週までの627週
- TOPIXの日足:2011年8月〜2026年2月13日
- 集計に使った週:翌週のリターンを計算できた626週(翌月は623週、翌々月は619週)
手元のデータベースに取り込んできた627週分の売買状況と、TOPIXの日足を突き合わせて集計した。金額の単位は千円で、週ごとの金額を年ごとに足すと、日本取引所グループが公表する年間の数字とほぼ一致する(2023年の外国人はどちらも3兆1,215億円の買い越し)。
公表の遅れとリターンの起点
投資部門別売買状況は、その場で見られるデータではない。月曜から金曜までの1週間分が、翌週の第4営業日(ふつうは木曜)の午後3時30分(2024年10月までは午後3時)に公表され、祝日があればその分だけ後ろにずれる。公表はその日の取引が終わる時刻なので、データを見てから売買できるのは早くても翌週金曜の寄り付きになる。この検証ではその日のTOPIXの始値を起点にし、そこから5・20・40営業日後の終値までのリターンを測った。
| リターンの区分 | 起点 | 測る日 | おおよその期間 |
|---|---|---|---|
| 翌週 | 翌週金曜の始値 | 起点から5営業日後の終値 | 約1週間 |
| 翌月 | 翌週金曜の始値 | 起点から20営業日後の終値 | 約1か月 |
| 翌々月 | 翌週金曜の始値 | 起点から40営業日後の終値 | 約2か月 |
起点の置き方で結果が変わるので、ノートブックの該当部分をそのまま載せておく。
-- 翌週金曜の始値 = 基準値(データ公開後に最速で取引可能な日)
(SELECT t_base.topix_start FROM topix t_base
WHERE t_base.date >= pm.date + INTERVAL '7 days'
ORDER BY t_base.date LIMIT 1) as topix_base,
-- 基準日から5営業日後(翌週)
(SELECT t1.topix_end FROM topix t1
WHERE t1.date > pm.date + INTERVAL '7 days'
ORDER BY t1.date OFFSET 4 LIMIT 1) as topix_after_1w,
-- 基準日から40営業日後(翌々月)
(SELECT t3.topix_end FROM topix t3
WHERE t3.date > pm.date + INTERVAL '7 days'
ORDER BY t3.date OFFSET 39 LIMIT 1) as topix_after_2m検証ノートブック: foreign_vs_individual.ipynb(2026年2月実行)
4つのシナリオ
各週の外国人と個人の差引(プラスが買い越し、マイナスが売り越し)で、週を次の4つに分けた。
| シナリオ | 外国人 | 個人 | 週数 |
|---|---|---|---|
| A:外国人が買い、個人が売る | 買い越し | 売り越し | 237 |
| B:外国人が売り、個人が買う | 売り越し | 買い越し | 212 |
| C:両者買い越し | 買い越し | 買い越し | 58 |
| D:両者売り越し | 売り越し | 売り越し | 119 |
最も多いのはAで、全体の約38%を占める。AとBを合わせた約72%の週で、外国人と個人は反対に動いていた。
データの前提条件と制約
このデータには次の制約があり、結果はこの点を差し引いて見る必要がある。
- 現物株だけ:先物とオプションの売買は入っていない。外国人が先物で動いた分は反映されない
- 週単位:週のうちいつ売買したのか、日中にどう動いたのかは分からない
- TOPIX全体:業種や個別の銘柄に当てはまるかは、別に確かめる必要がある
- 取引コスト:売買の手数料や税金は入れていない
- 件数:両者買い越しは58週と少ない。四分位の16のマスは、9週から104週までばらつく
- 期間の重なり:翌月は20営業日、翌々月は40営業日なので、隣り合う週の測定期間が大きく重なる。翌々月の58週は、58回の独立した結果ではない
- 投資家の行動の変化:2020年のコロナ禍や2022年以降の金利上昇で投資家の行動が変われば、過去のパターンは通用しなくなる
3. 4つの組み合わせの差は、翌週も翌々月も偶然の範囲
外国人が買い越し、個人が売り越したシナリオAの翌週は平均+0.29%で、逆のシナリオBの+0.36%とほとんど変わらなかった。4つのシナリオの翌週・翌月・翌々月は次のとおり。
| シナリオ | 週数 | 翌週 | 翌月 | 翌々月 |
|---|---|---|---|---|
| A:外国人買い+個人売り | 237 | +0.29%(57%) | +0.82%(63%) | +1.95%(67%) |
| B:外国人売り+個人買い | 212 | +0.36%(58%) | +1.17%(63%) | +2.03%(66%) |
| C:両者買い越し | 58 | +0.06%(52%) | +1.26%(70%) | +2.14%(70%) |
| D:両者売り越し | 119 | -0.17%(49%) | +0.23%(51%) | +0.70%(54%) |
平均リターン。かっこの中はTOPIXが上がった週の割合(勝率)。
AとBの翌週の差をt検定(2つのグループで平均が違うのは偶然かどうかを調べる方法)で調べると、p値は0.79だった。本当は差がないとしても、この程度の差は8割近い確率で偶然に出る。外国人の売買額と翌週のリターンの相関係数(2つの数字が一緒に動く度合い。0なら無関係)も-0.01で、ほぼ無関係だった。4つのシナリオをまとめて比べる分散分析でも、p値は翌週0.31、翌月0.35、翌々月0.24で、どの期間でも差は偶然の範囲に収まった。
翌月と翌々月で最も高かったのは、外国人と個人がそろって買い越したシナリオCで、翌々月は+2.14%、上がった割合は70%だった。そろって売り越したシナリオDは、翌週-0.17%、翌月+0.23%、翌々月+0.70%と、どの期間でも最も低い。
ただ、Cの58週のうち41週は2020年以降にある。この時期はTOPIXの上昇が続き、2020年以降の週全体の翌々月は平均+2.44%と、2019年までの+1.07%より高い。Cを期間で分けると、2020年以降の41週は+3.20%、2019年までの16週は-0.57%だった。Cが高く見えるのは、上昇相場の時期に集まったことでかなり説明できる。
4. 金額の大きさで分けても出ないはっきりした差 — 四分位での確認
買いか売りかの向きだけでなく、金額の大きさで差が出るかも確かめた。外国人と個人の差引をそれぞれ小さい順に4等分し(四分位)、16の組み合わせごとに翌週・翌月・翌々月の平均をヒートマップにした。
Q1は売り越しが最も大きい25%の週、Q4は買い越しが最も大きい25%の週だ。真ん中の境目は外国人が-110億円、個人が-439億円で、どちらも売り越しの側にある。そのため図のQ3(小幅買越)には、小幅な売り越しの週も入っている。
外国人が大きく売り越した週のほうが高い翌月のリターン
| 期間 | 外国人Q4×個人Q1(104週) | 外国人Q1×個人Q4(92週) |
|---|---|---|
| 翌週 | +0.18%(54%) | +0.24%(55%) |
| 翌月 | +0.47%(60%) | +1.25%(66%) |
| 翌々月 | +1.31%(62%) | +1.62%(60%) |
外国人が大きく売り越し、個人が大きく買い越した92週(右の列)は、翌月も翌々月も、逆の組み合わせの104週を上回った。外国人が大きく売り越す週は急落と重なりやすく、翌週金曜の寄り付きから測っても、その後の戻りがリターンに入りやすい。ただし2つの差も検定では偶然と区別できず(翌月のp値は0.30)、自分なら翌週より翌月・翌々月の数字を見るが、それでも判断の材料の一つにとどめる。
個人Q3×外国人Q4の11週
翌週のパネルで最も低いのは、外国人がQ4、個人がQ3だった11週で、翌週の平均は-1.18%だった。11週のうち下がったのは7週で、下げの大きい3週は次のとおり。
個人Q3×外国人Q4で翌週に大きく下げた週
- 2019年4月26日の週(翌週-4.68%):10連休明けの5月7日から13日まで。トランプ大統領が5日に中国からの輸入品への関税の引き上げを表明し、10日に実施した
- 2016年6月10日の週(-4.17%):6月17日から24日まで。24日に英国の国民投票の結果が出て、EU離脱が決まった
- 2022年1月7日の週(-3.30%):1月14日から21日まで。FRB(米連邦準備制度理事会)が早めに利上げするとの見方が強まり、米国の金利が上がった
3週とも、測った期間に大きな出来事があった。一方で11週のうち4週は上がっていて、2023年6月2日の週は+4.29%だった。件数が少なく、たまたま大きな出来事と重なった可能性が高いので、パターンとしては扱わない。
5. 外国人の売買とTOPIXの12年
外国人の週ごとの差引とTOPIXを並べると、大きな売り越しは急落の時期と重なっている。年ごとの流れは次のとおり(年間の金額は日本取引所グループの年間の集計)。
2015年8月の人民元の切り下げをきっかけに世界的に株が売られ、円高も進んだ。外国人は2016年に年間で3兆6,888億円を売り越し、TOPIXは2015年8月の高値から2016年2月の安値まで約3割下げた。
2017年はトランプ政権の発足後の景気への期待と世界経済の回復で、外国人は7,532億円を買い越し、TOPIXは年間で約2割上がった。2018年は一転して大きく売り越し、年間の売り越し額は1987年に次ぐ大きさだった。TOPIXは年間で約18%下げた。
新型コロナウイルスの世界的な流行で、外国人は3月27日までの週に9,518億円を売り越した。TOPIXは1月20日の高値から3月16日の安値まで約29%下げた。
バフェット氏の商社株への投資や、東証が上場企業に株価を意識した経営を求めたことをきっかけに、外国人は2023年に3兆1,215億円を買い越した。2024年は1,543億円にとどまったが、2025年は5兆4,070億円を買い越した。TOPIXは2023年に1990年以来の高値をつけ、2024年7月には1989年末の最高値を上回った。
急落の時期に外国人が大きく売り越しても、そのあと下げが続いたとは限らない。四分位で見たとおり、外国人の売り越しが大きかった週の翌月は、平均ではプラスだった。
6. まとめ — この結果の使い方
検証の結果
公表の遅れを入れて翌週金曜の寄り付きから測ると、外国人と個人の売買の組み合わせで、その後のTOPIXに偶然と区別できる差は出なかった。外国人の売買額と翌週のリターンの相関もほぼゼロだった。
翌々月は両者が買い越した週が最も高く、両者が売り越した週が最も低かった。ただし、両者が買い越した週は上昇の続いた2020年以降に集まっている。
十数年相場を見てきて、外国人の売買そのものより、外国人と個人が同じ向きかどうかのほうが情報として重いと感じてきた。翌々月の数字はその感覚に合うが、期間で分けると、上昇相場の時期に集まっていたことでかなり説明がつく。週次の外国人の買い越し・売り越しだけで売買を決めることはしない。両者がそろって買い越した週は目に留めるが、決算の傾向や金利など、ほかの材料と合わせて見る一つにとどめる。
「外国人に逆らうな」は、少なくとも週次の現物株の売買動向では確かめられなかった。次は、2020年以降の週だけで、両者買い越しの週とほかの週の差が残るかを、データが増えるたびに確かめる。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。