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AI半導体を支える味の素とTOTO 絶縁フィルムは世界の95%超、セラミックは利益の半分

2月17日、英国の投資ファンドPalliser Capitalが、TOTO(5332)を「最も過小評価され、見落とされているAIメモリの受益企業」と呼ぶ提言を公表し、TOTOの株価は17日と18日の2日で約9%上がった。トイレの会社が、なぜAI向けの半導体と関係するのか。同じことは調味料の味の素(2802)にも言える。味の素のABF(味の素ビルドアップフィルム)は高性能な半導体の基板に使う絶縁フィルムで95%以上のシェアを持ち、TOTOの静電チャックは、AI向けのメモリをつくる装置の中でウエハーを固定している。どちらも顧客の認定に何年もかかるので、代わりが出にくい。ただ、両社の株価はこの1年で5割以上上がっていて、素材の事業の利益がこの先どこまで伸びるかを決算で確かめる段階に入っている。

AI半導体を支える味の素とTOTO 絶縁フィルムは世界の95%超、セラミックは利益の半分

日本企業のシェアが高い半導体の材料

半導体をつくる工程は、ウエハー(シリコンの円盤)に回路をつくる前工程と、できたチップを基板に載せて組み立てる後工程に分かれる。経済産業省が2025年12月にまとめた半導体・デジタル産業戦略の資料には、富士経済の調査をもとに、材料ごとの日本企業のシェアが載っている。2023年はシリコンウエハが53%、フォトレジスト(光で回路を焼き付けるための感光材)が78%だった。味の素とTOTOの部材も並べると、次のようになる。

日本企業が強い半導体の材料・部品

材料・部品 使うところ 主な日本企業 日本企業のシェア
シリコンウエハ前工程。回路をつくる土台信越化学工業、SUMCO53%(2023年、経済産業省の資料)
フォトレジスト前工程。露光で回路を描くJSR、東京応化工業、信越化学工業など78%(2023年、経済産業省の資料)
ABF(絶縁フィルム)後工程。パッケージ基板の配線の層を仕切る味の素高性能半導体向けで95%以上(味の素の説明)
静電チャック前工程の製造装置の部品。ウエハーを固定するTOTOなど公表値なし。Palliserは、Lam Researchの低温エッチング装置向けの主な供給元とする

同じ資料では、エッチングに使うフッ素混合ガスが92%、ウエハーを平らに磨くCMPパッドが72%と、ほかにも日本企業のシェアが高い材料が多い。ただし、CMPパッドは2021年の85%から下がっていて、製造装置では2021年から2023年にかけて多くの工程で日本のシェアが縮んだ。

味の素のABFは、高性能半導体の絶縁フィルムで95%以上

味の素の説明では、電子材料の事業は1960年代にさかのぼる。うま味調味料の成分のグルタミン酸ナトリウムを化学的につくる途中でできる中間体を使い、エポキシ樹脂を固める硬化剤をつくったのが始まりだ。

1970年代にはアミノ酸のノウハウを生かした絶縁性のエポキシ樹脂の研究を進め、1990年代に、当時インク状だった絶縁材料をフィルムにする開発に取り組んだ。1999年に大手半導体メーカーに採用され、今では高性能半導体の絶縁フィルムで95%以上、主要なパソコンではほぼ100%のシェアを持つ(味の素のABFの紹介)。

ABFを使うのは、チップと機器の基板の間をつなぐパッケージ基板だ。この基板の中では配線が何層にも重なっていて、ABFは層と層の間を電気的に仕切りながら、レーザーで開けた細い穴で上下の配線をつなぐ。NVIDIAのAI向けGPUは、TSMCのCoWoSという組み立て技術で複数のチップを1つにまとめている。

この組み立てでは、GPUとHBM(AI向けの高速メモリ)を中継基板の上に並べ、その下にABFを使ったパッケージ基板を置く。HBMの値上がりの経緯は、2月13日のメモリ価格の記事で追った。

AI向けのGPUが増えれば、この組み立ての能力も増やす必要がある。調査会社のTrendForceは2024年12月、TSMCのCoWoSの生産能力が2024年の月3万5,000枚(ウエハー換算)から、2025年末に月7万枚、2026年末に月9万枚へ増えると伝えている。味の素の中村茂雄社長は2025年3月、2030年までに250億円以上を投じてABFの生産能力を5割増やす考えを示した。ABFは群馬県と川崎市の拠点でつくっている。

2021年の半導体不足で足りなかったのは、ABFを使う基板

2021年の半導体不足では、ABFを使ったパッケージ基板が足りなくなった。Bloombergは2021年9月、基板メーカーが過去の不況で損を出した経験から増産投資に慎重で、供給の伸びが需要に届いていないと報じた(Fortuneに転載された記事)。関係者の見方として、少なくとも2025年まで供給が限られるとも伝えている。ブロードコムは主力のルーター向け半導体の納期が63週から70週に延びると顧客に伝えたという。

足りなかったのは、イビデンや台湾の南亜電路板、欣興電子などの基板メーカーの生産能力で、ABFのフィルムそのものではない。それでも、基板の材料を1社がほぼ握っているので、味の素の増産が遅れれば同じ詰まりが起こりうる。

3D NANDの低温エッチングに使われるTOTOの静電チャック

静電チャックは、半導体の製造装置の中でウエハーを静電気の力で吸い付けて固定する部品だ。ウエハーをプラズマで削る(エッチング)あいだ、平らに保ち、温度をそろえ、ごみを出さずに押さえ続ける。TOTOがファインセラミックスの研究を始めたのは1976年で、衛生陶器の成型・焼成(焼き固める)技術と、水栓金具の精密な金型・加工の技術を生かして、1984年に事業にした。

Palliserの資料によると、米Lam Researchが低温エッチング装置に載せる静電チャックは、主にTOTOが供給している。3D NAND(記憶素子を縦に積み重ねたメモリ)は200層を超え、直径約100nm、深さ約10μmの細く深い穴を開ける必要がある。零下70〜100度で削ると穴がまっすぐに開くが、ウエハーの中で温度が2度ずれるだけで良品の割合が落ちるので、冷たさに強く、温度をそろえられるセラミックが要る。

TOTO自身は、静電チャックが3D NANDの深い穴あけにも、ロジック半導体をつくるときにウエハーの温度を制御する用途にも使われると説明している。

この事業は、TOTOの利益の柱になった。静電チャックを含むセラミック事業(新領域事業)の数字は次のとおりだ。

TOTOのセラミック事業(決算短信)

期間 売上高(全社に占める割合) 営業利益(全社に占める割合)
2025年3月期503億円(6.9%)204億円(42.1%)
2025年4〜12月470億円(8.6%)202億円(50.0%)

2025年3月期の売上高は前の期より38.0%、営業利益は86.2%増えた。2025年4〜12月は、全社の売上高の1割に満たない事業が、営業利益のちょうど半分を稼いだ。

Palliser Capitalの3つの提言

Palliserは2月13日付でTOTOの取締役会に書簡を送り、17日に提言を公表した(The Japan Times)。求めたのは、セラミック事業の開示を増やすこと、資本コストを上回るROIC(投下資本利益率)の目標を置いて資金を配分すること、資本の構成を見直して資本効率を上げることの3つだ。

2月6日の時価総額9,470億円は本来の価値より5,540億円低く、株価には55%を超える上昇余地があるとしている。低温エッチング用の静電チャックで新しい供給元が認定を受けるには5年以上かかる、というのがPalliserの見立てだ。

代わりの材料が出にくい理由

どちらの部材も、顧客に採用されるまでに長い時間がかかる。半導体メーカーは材料や部品を替えるとき、製品の性能と歩留まり(良品の割合)が変わらないかを確かめる認定に1年以上をかけることが多く、量産で使っている品を別の会社の品に替えれば、その確認をやり直すことになる。ABFのように層を重ねて使うフィルムは、厚みのむらや異物を抑えながら大量につくる技術も要り、配合を真似るだけでは追いつけない。

静電チャックも、Lam Researchのような装置メーカーと装置の設計や加工の条件を何年もかけて作り込むので、部品だけを持ち込んでもすぐには使ってもらえない。

挑む会社はある。米国では2019年創業のThintronicsが、ABFに代わる絶縁材料を開発し、2024年に2,300万ドルを集めたが、量産で採用されたとは確かめられない。Intelは2023年9月に基板の芯をガラスにする技術を発表し、2026年1月にも試作を展示したが、製品にする時期は示していない。ガラスが置き換えるのは基板の芯の部分で、その上の配線の層には今も絶縁フィルムを使う。

この1年で5割以上上がった株価

味の素の株価は2026年2月20日の終値が4,602円で、1年前の2,983円から54%上がった。TOTOは6,195円で、1年前の3,996円から55%上がっている。TOTOの上昇はPalliserの提言より前から続いていて、提言が報じられた17日と18日の2日では約9%上げた。

それでも、TOTOの株価はまだこの事業の稼ぐ力を織り込みきれていないと見ている。2025年4〜12月にセラミック事業が営業利益の半分を稼いだのに、会社の開示は住宅設備の会社の形が中心で、Palliserが開示を増やすよう求めたのもこの点だ。

味の素は調味料、TOTOはトイレ、HOYAは眼鏡レンズと本業の印象が強く、半導体の材料の利益は全社の数字に埋もれやすい。自分がこうした会社を見るときは、全社の売上ではなく、半導体向けの事業の営業利益とその伸び率を決算ごとに確かめている。両社の決算の数字は続編で詳しく追う。

まとめ

代わりの利かない部材で稼ぐ味の素とTOTO

味の素のABFは高性能半導体の絶縁フィルムで95%以上のシェアを持ち、TOTOの静電チャックは3D NANDの低温エッチングに使われて、2025年4〜12月には全社の営業利益の半分を稼いだ。どちらも顧客の認定に年単位の時間がかかるので、代わりの材料はすぐには出てこない。

次に確かめるのは、4月末のTOTOの本決算でセラミック事業の利益がどこまで伸びたかと、Palliserが求めた開示がどこまで増えるかだ。味の素は5月の本決算で、電子材料の伸びとABFの増産の進み具合を見る。3D NANDの層数がどこまで増えるか(低温エッチングの需要)と、Intelがガラス基板をいつ製品にするかも追っていく。

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

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