電力会社の株は、業績が景気に左右されにくい代わりに大きな成長は見込めない銘柄として扱われてきた。ところが米国では、2000年代半ばからほぼ横ばいだった電力の消費が2024年に過去最高を更新し、EIA(米エネルギー情報局)は2027年まで増え続けると見込む。押し上げているのはAI向けのデータセンターで、Gartnerは米国の電力消費に占めるデータセンターの割合が2025年の4%から2030年に7.8%へ上がると予測している。電力会社は過去最大の設備投資でこの需要を取り込もうとしていて、24時間止まらずに発電できる原子力には、テック大手から20年の長期契約が集まり始めた。
目次
米国の電力消費は2024年から3年続けて過去最高
EIAが2月10日に出した短期エネルギー見通しでは、米国の電力消費は2024年の4,110TWh(テラワット時。1TWhは10億キロワット時)から、2025年は4,195TWh、2026年は4,268TWh、2027年は4,372TWhと増え続ける。2024年から毎年、過去最高を更新する計算になる。
EIAは、2000年代半ばから2020年代初めまで消費がほぼ横ばいだった理由を、省エネの進み具合と、電気を多く使う製造業からサービス業への移行で説明している。年2%前後の伸びは地味に見える。ただ、発電所や送電線は何年もかけて建てるものなので、20年近く横ばいを前提に投資を抑えてきた電力会社にとっては、設備投資の計画を組み直すほどの変化になる。
データセンターの割合は2030年に8%前後へ
増える消費の中心はデータセンターだ。機関によって予測に幅はあるものの、どの予測でも数年で2倍前後に増える。
| 予測した機関(公表時期) | 米国のデータセンターの電力消費 | 全米に占める割合 |
|---|---|---|
| 米エネルギー省・ローレンス・バークレー国立研究所(2024年12月) | 2023年 176TWh → 2028年 325〜580TWh | 4.4% → 6.7〜12% |
| IEA(国際エネルギー機関、2025年4月) | 2024年 約180TWh → 2030年までに約240TWh増える | 4%超 → 示していない |
| Gartner(2025年11月) | 量は示していない(世界全体は2025年 448TWh → 2030年 980TWh) | 2025年 4% → 2030年 7.8% |
出典: 米エネルギー省(2024年12月20日)、IEA「Energy and AI」(2025年4月10日)、Gartner(2025年11月17日)
2028年の予測に6.7〜12%と大きな幅があるのは、AI向けのサーバーがどれだけ増えるかの前提で結果が大きく変わるためだ。そのAI向けのサーバーの伸びが特に大きい。Gartnerは、世界のデータセンターの電力消費が2030年までに倍増し、そのうちAI向けに最適化したサーバーの分は2025年の93TWhから2030年に432TWhへ約5倍になると予測している。テック大手がAI向けの設備投資をどこまで増やしているかは、2月13日のメモリ価格の記事で追った。
主要5社の利益の見通しとデータセンター向けの契約
米国に上場する主な電力会社5社を、2月15日時点で公表されていた数字で並べた。NextEraとDukeは2025年の通期決算を発表済みで、Southern、Constellation、Vistraは2月下旬に発表する。
| 会社 | 事業の中心 | 利益の実績・見通し | データセンター向けの動き | 株価÷2025年の1株利益 |
|---|---|---|---|---|
| NextEra Energy(NEE) | 再エネ最大手と、フロリダ州の規制電力 | 2025年の調整後EPS 3.71ドル(+8.2%)。2026年は3.92〜4.02ドルの見通し | 再エネと蓄電池の受注残が約29.8GW(約3分の1が蓄電池) | 25倍 |
| Duke Energy(DUK) | カロライナなどの規制電力 | 2025年のEPS 6.31ドル(+6.9%)。2026年は6.55〜6.80ドルの見通し | データセンターとの電力供給契約が4.5GW(直近3か月で1.5GW増)。5年で1,030億ドルの設備投資 | 20倍 |
| Southern Company(SO) | ジョージア州など南東部の規制電力 | 2025年の調整後EPSは4.30ドルの見込み(10月時点) | 大口需要の契約が8GW、交渉中の案件が50GW超。7〜9月のデータセンターの電力使用量は前年同期比17%増 | 22倍 |
| Vistra(VST) | 原子力・ガス火力の発電と売電 | 2025年の調整後EBITDA 57〜59億ドル。2026年は68〜76億ドルの見通し(11月時点) | Metaに原子力の電力2,609MWを20年供給。コマンチピーク原発でも1,200MWの20年契約 | — |
| Constellation Energy(CEG) | 全米最大の原子力(約22GW) | 2025年の調整後の1株利益は9.05〜9.45ドルの見通し(11月時点) | 1月7日にガス火力のCalpineの買収を終え、発電容量は合計約55GW | 31倍 |
株価は2月13日の終値を使った。1株利益は2025年の実績(NextEra・Duke)か、会社の見込み・見通しの中央値(Southern・Constellation)で割り、1株利益の見通しを出していないVistraは空欄にした。調整後EPSは一時的な損益を除いた1株利益を、EBITDAは利払い・税金・減価償却を引く前の利益を指す。
並べると、5社は利益の伸び方と株価の評価で2つに分かれる。DukeとSouthernは、州が認めた範囲で料金を決める規制電力だ。規制電力は、発電所や送電線などの設備を増やすほど、州が認める利益も増える仕組みになっている。データセンター向けに設備を増やせば、そのぶん利益が着実に増える。両社とも長期の増益率を年5〜7%と見込み、Southernは2029年まで電力の販売量が年約8%伸びるとしている。
VistraとConstellationは、原子力やガス火力の電気を市場で売る。需給が締まって電気の売値が上がれば利益は大きく伸び、テック大手と長期契約を結べば、先の利益も読みやすくなる。Vistraの2026年の見通しは、中央値で2025年より約24%多い。株価にはこの違いがすでに表れていて、Constellationは2025年の利益の約31倍と、規制電力の20倍前後を大きく上回る。
24時間動く原子力に集まる20年の契約
データセンターは昼も夜も同じように電気を使うので、天候で出力が変わる電源だけでは足りない。発電設備が1年のうちどれだけ動いたかを示す設備利用率を、EIAの2024年の実績で比べると、原子力が突出している。
| 電源 | 設備利用率(2024年) | 発電時のCO2 |
|---|---|---|
| 原子力 | 90.8% | 出さない |
| 天然ガス(複合サイクル) | 60.5% | 出す |
| 風力 | 34.3% | 出さない |
| 太陽光 | 23.2% | 出さない |
複合サイクルは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた効率の高いガス火力を指す。
CO2を出さずに1年の9割以上動く電源は原子力しかなく、テック大手はここに長期契約を集めている。Metaは1月9日、Vistra、TerraPower、Okloの3社と組み、2035年までに最大6.6GW(ギガワット)の原子力の電力を確保すると発表した。このうち、原発を6基(約6,400MW)持つVistraは、動いている原発から2,609MWを20年間供給する。オハイオ州のペリー原発とデービスベッセ原発の電力に、3つの原発の出力を増やす分を合わせた量だ。
TerraPower(最大2.8GW)とOklo(最大1.2GW)の分は、これから建てる新しい型の原子炉で、電気が届くのは早くても2030年以降になる。Vistraは2025年9月にも、テキサス州のコマンチピーク原発の電力1,200MWを20年間、大手企業に売る契約を結んだ。相手の名前は公表していない。
規制電力のDukeも2025年12月、ノースカロライナ州のベルーズクリークに小型モジュール炉(SMR。工場でつくりやすい小型の原子炉)を建てられるかを先に審査してもらう「早期サイト許可」を、原子力規制委員会に申請した。炉の型式を決める前の手続きで、建設の許可はまだ先になる。日本でも原発の再稼働は電力会社の収益を大きく変える(柏崎刈羽原発6号機の再稼働を扱った記事)が、米国では、すでに動いている原発が20年先まで売り先を決め、新しい炉の建設にもテック大手がお金を出している。
需要が伸びても利益を削るリスク
発電所ができても、送電線が足りなければデータセンターに電気を届けられない。送電線の新設には数年から10年近くかかり、ここが遅れると需要に供給が追いつかない。資材の値上がりや部品の不足で、発電所の建設が遅れたり費用が膨らんだりするおそれもある。
費用を誰が負担するかも争いになっている。フロリダ州では、州最大の電力会社FPLが料金改定を申請し、データセンターなどの大口の需要向けに新しい料金区分を設けようとした。これに対し、州の消費者代理人などが住民の負担が増えるとして反対した。州の公益事業委員会は2025年11月に和解案を承認したが、州知事は12月、データセンターの費用を住民に負わせない仕組みを提案している。電力会社が思いどおりに料金を上げられるとは限らない。
電力会社は設備投資の多くを借入れでまかなうので、金利が高いままだと利払いが増える。テック大手のAI投資が想定ほど伸びなければ、データセンターの新設が遅れて需要の見通しも下がる。
分けて見る需要と計画どおり建てる力
データセンターの電力需要は、当面は崩れにくいと見ている。テック大手の設備投資が一時的に鈍っても、一度動き出したデータセンターは電気を使い続けるので、需要はすぐには減らない。ただ、需要が確かでも5社が同じように報われるとは限らない。各社が打ち出した過去最大の設備投資を、予算と工期のとおりにやり切れるかで差がつく。送電網の遅れや建設費の超過は、需要の見通しが正しくても個々の会社の利益を削る。自分なら、需要の話だけでなく、投資計画が予定どおり進んでいるかを四半期ごとの決算で確かめる。
まとめ
データセンターによる電力需要の押し上げと、原子力に集まる長期契約
20年近く横ばいだった米国の電力消費は2024年に過去最高を更新し、データセンターの割合は2030年に8%前後まで上がる見通しだ。電力会社は過去最大の設備投資で需要を取り込もうとしていて、24時間動く原子力には、テック大手から20年の長期契約が集まっている。株価もこれを先に映し、原子力最大手のConstellationは規制電力より高く評価されている。
次に見るのは、2月下旬に出るSouthern、Constellation、Vistraの通期決算で、2026年の見通しとデータセンター向けの契約がどこまで積み上がるかだ。そのうえで、Dukeの1,030億ドルのような設備投資が予定どおり進んでいるかを、四半期ごとの決算で確かめていく。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。