半導体の会社が過去最高の利益を出しているのに、パソコンやスマートフォンは値上がりしそうだという。この二つは同じ原因から来ている。AI向けのデータセンターがメモリを大量に買い、パソコンやスマホに回る分が減った。パソコンに使うDDR5というメモリのチップは、スポット価格(その場で取引される少量の値段)が2025年9月20日の6.84ドルから12月1日の27.2ドルへ、2か月半で約4倍になった。この値上がりが、メモリの会社とNVIDIA、米大手ITのそれぞれにどう響くかを、決算で確かめる。
目次
スポット価格は4倍、1〜3月期の契約価格も9割高の予測
DDR5の16ギガビットのチップは、DRAMeXchangeという取引の集計サイトで次のように値上がりした。DRAM(パソコンやスマホが作業中のデータを置くメモリ)の値段としてよく使われる数字だ。
| 日付 | 価格 | 9月20日比 |
|---|---|---|
| 2025年9月20日 | 6.84ドル | — |
| 2025年11月19日 | 24.83ドル | +263% |
| 2025年12月1日 | 27.2ドル | +298% |
スポット価格は少量の取引の値段で、メモリの大半はメーカーと買い手が四半期ごとに決める契約価格で売られる。その契約価格も上がり続けている。台湾の調査会社TrendForceは2月2日、2026年1〜3月期の一般的なDRAMの契約価格の予測を、前の期より55〜60%高から90〜95%高に引き上げた。パソコン向けは2倍を超える見込みで、どの品目も四半期の上げ幅として過去最大になる。まだ予測の段階だが、1〜3月期の値上がりはスポット価格だけの話ではなくなっている。
メーカーの手元にも在庫がほとんどない。JETROが12月18日にまとめた記事によると、TrendForceの調べでは、主なDRAMメーカーの在庫は2024年末の13〜17週分から、2025年10月には2〜4週分に減った。つくった分がすぐに売れていくので、少しでも供給が乱れれば値段が跳ねやすい。
パソコン向けの生産を押しのけるAI向けのHBM
値上がりのきっかけはHBMだ。HBM(広帯域メモリ)はDRAMのチップを何枚も積み重ねた高速のメモリで、NVIDIAのGPUのすぐ隣に置いて、AIの計算に使うデータを速く出し入れする。HBMは普通のDRAMと同じ工場でつくるので、メーカーがHBMを増やせば、その分だけパソコンやスマホ向けのDRAMに回る生産が減る。
メモリをつくる会社は、AI向けの注文を先に押さえている。SKハイニックスは2025年10月29日の決算で、2026年のHBMの供給について顧客との話し合いを終え、HBM以外のメモリも2026年の分はすべて売り先が決まったと発表した。サムスン電子は、一部のサーバー向けDDR5の契約価格を9月より最大60%引き上げたと報じられている。
買い手の側も、先の分まで量を押さえに来ている。OpenAIは2025年10月1日、大規模なデータセンター計画「Stargate」に向けたメモリの供給で、サムスン電子・SKハイニックスと合意した。将来必要になるメモリは、材料の円盤(ウエハー)で数えて最大で月90万枚になるという。JETROの記事は、Google、Microsoft、Amazon、MetaがMicronに事実上上限のない発注を打診したとも伝えている。
HBMそのものも値上がりする。サムスンとSKハイニックスは2026年向けのHBM3E(今の主力の世代)の価格を約20%引き上げる方針だと報じられた。次の世代のHBM4では、サムスンが2月12日に量産を始め、顧客に出荷したと発表した。業界で初めての量産出荷で、次の世代でもメモリ3社の競争が始まっている。
売り切れが続くNVIDIAと部品代の上昇
HBMを大量に使うNVIDIAの業績は伸び続けている。2025年8〜10月期の決算は、売上高が570億ドルで前年同期より62%増え、データセンター向けは512億ドルで66%増えた。
| 四半期 | 売上高 | データセンター | 粗利益率 |
|---|---|---|---|
| 2025年2〜4月 | 441億ドル | 391億ドル | 60.5% |
| 2025年5〜7月 | 467億ドル | 411億ドル | 72.4% |
| 2025年8〜10月 | 570億ドル | 512億ドル | 73.4% |
| 2025年11月〜1月の見通し | 650億ドル | — | 74.8% |
粗利益率は米国の会計基準(GAAP)の値。2〜4月期は、中国向けのGPU「H20」の輸出に米国政府の許可が必要になり、在庫などに45億ドルの費用を計上したので低い。
NVIDIAは11月の決算で、最新世代のBlackwellの販売はきわめて好調で、クラウド向けのGPUは売り切れていると説明した。同時に、2027年1月期は部品の値段が上がるが、粗利益率は70%台半ばを保つよう努めると話している。売れ行きの心配は小さく、メモリの値上がりは部品代の増加として利益率に響く。
部品代を押し上げるのはメモリだけではない。GPUをつくるTSMCは、5nm以下の先端の製造を2026年1月から平均3〜5%値上げすると顧客に伝え、2029年まで毎年値上げする方針だと台湾で報じられている(TSMCは公表していない)。GPUとHBMを1つの部品にまとめるTSMCの組み立て工程(CoWoS)も足りず、台湾の報道では、2026年末に月12万〜13万枚(ウエハー換算)まで増やす業界の推計が出ている。HBMが増えても、この組み立てが追いつかなければGPUの出荷は増えない。
米大手IT4社が2026年に投じる6,300億〜7,000億ドル
AI向けのメモリは、最後はデータセンターを運営する米大手ITが買う。1〜2月の決算で、各社は2026年の設備投資を大きく増やす見通しを示した。
| 企業 | 2025年の実績 | 2026年の見通し(発表日) |
|---|---|---|
| Amazon | 1,318億ドル | 約2,000億ドル(2月5日) |
| Alphabet | 914億ドル | 1,750億〜1,850億ドル(2月4日) |
| Meta | 722億ドル | 1,150億〜1,350億ドル(1月28日) |
| Microsoft | — | 1年分の見通しは出していない |
Amazon・Alphabetは有形固定資産の購入額、Metaはリースで借りる設備の支払いを含む額。
3社の見通しだけで、2025年の実績の合計約2,950億ドルから7割前後増える。Microsoftを含む4社の合計は、米CNBCが7,000億ドル近く、米Fortuneが6,300億ドル超と計算している。各社はGoogleのTPUやAmazonのTrainiumのような自社チップも増やしているが、自社チップもHBMを載せるので、NVIDIAへの依存を減らしてもメモリの需要は減らない。
投資が続くかを見る物差しは手元に残る現金
これだけの投資をしても、10〜12月期の営業利益率が前年同期より大きく下がったのは4社のうちMeta(48%→41%)だけだった。本業の利益はまだ投資に追いついている。先に減っているのは手元に残る現金で、CNBCは、Amazonのフリーキャッシュフロー(本業で稼いだ現金から設備投資を引いた額)が2026年にマイナスになる見通しだと伝えている。
個人的には、メモリが高くても大手ITが買い続けるかは、利益率よりこのフリーキャッシュフローの減り方で決まると見ている。現金が減り続けて、借り入れや社債で投資をまかなう段階に入れば、投資の計画を引き下げる会社が出てきてもおかしくない。四半期ごとの決算で、設備投資の見通しとフリーキャッシュフローを並べて確かめたい。
値上がりが続く期間の見方
JETROの記事によると、米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは、メモリの品薄が2026年まで続き、正常に戻るのは2027〜2028年ごろと予測している。業界の予測も強気で、WSTS(世界半導体市場統計)は2025年12月、2026年の世界の半導体市場が9,755億ドルと前年より26%増えると予測した。TrendForceは、2026年のメモリ市場が5,516億ドルになり、半導体を受託してつくる会社の市場(2,187億ドル)の2倍を超えるとみている。
そのしわ寄せは、パソコンやスマホに来る。調査会社IDCは12月、中価格帯のスマホでは部品代の15〜20%をメモリが占めていて、メーカーは値上げを避けられないとの分析を出した。2026年の世界のスマホ市場は、弱いほうの見立てで2.9〜5.2%縮むとしている。国内でも、スマホ向けなどの部材をつくるデクセリアルズ(4980)が2月11日に株価を20%下げ、売られた理由の一つにメモリの値上がりの影響があった。
メモリの値上がりは、AI向けのHBMに生産が回り、パソコンやスマホ向けのDRAMが足りなくなったことから来ている。スポット価格は2か月半で約4倍になり、1〜3月期の契約価格も前の期より9割以上高くなると予測されている。NVIDIAは売り切れが続き、TSMCは値上げを進めていると報じられ、米大手ITは2026年に6,300億〜7,000億ドル近くを投じる。値上がりの分は、最後にはパソコンやスマホの値段に上乗せされていく。
次に確かめるのは、2月下旬のNVIDIAの決算で粗利益率が見通しの74.8%を保てたかと、TrendForceが4〜6月期の契約価格をどう予測するかだ。4月の大手ITの決算では、設備投資の見通しとフリーキャッシュフローがどう変わるかを見る。NVIDIAの株価の長い動きは、同じ日に公開した米国テック株6銘柄の検証でも扱っている。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。