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東京電力HD(9501) 柏崎刈羽6号機の再稼働 年1,000億円の改善でも残る年5,000億円の福島費用

  • 柏崎刈羽6号機が1基動くと、東電は年約1,000億円の収支改善を見込む。市場価格13.5円/kWhの電気を原発で置き換える計算で、1月26日に認定された再建計画は6号機を2025年度中、7号機を2029年度中に動かす前提になっている
  • 福島の賠償と廃炉には年約5,000億円の資金確保が目標として続き、2026年3月期は燃料デブリ関連の特別損失で6,410億円の最終赤字を予想する。1基ぶんの改善では赤字の構造は変わらない
  • 株価は2025年11月13日の934円を高値に、2月6日は634円と32%安。再稼働の期待はすでに株価に入っており、ここから先は7号機の工事と6号機自身の2029年9月の期限、福島費用の推移で決まる
東京電力HD(9501) 柏崎刈羽原発6号機の再稼働と株価

原発が1基動けば、東京電力の赤字は消えるのか。1月21日午後7時2分、東京電力ホールディングス(9501)は柏崎刈羽原発6号機の原子炉を起動した。全7基が止まった2012年3月以来の運転で、福島第一原発の事故の後に東電が原発を再稼働させるのは初めてになる。5時間半後に制御棒の警報が鳴って23日に止めたが、2月9日に再起動する。1基で年約1,000億円の収支改善を見込むが、福島の賠償と廃炉には年約5,000億円の資金確保という目標が続き、今期は6,410億円の最終赤字を予想する。1基動いた程度では、福島の重荷はまだ消えない。

2017年12月27日
原子力規制委員会が6・7号機の設置変更を許可。東電の「適格性」は、社長が約束した7項目を保安規定に書くことを条件に認めた。
2021年4月〜2023年12月
社員のIDカード不正使用や侵入検知設備の故障を受け、規制委が核燃料の移動を禁止。追加検査を経て2023年12月27日に命令を解除した。
2025年8月29日
政府が原発周辺自治体への財政支援を半径10km圏から30km圏に広げる方針を決定。避難道路の整備費も国が全額負担する。
2025年11月21日
知事容認
新潟県の花角英世知事が再稼働の容認を表明。安全性の丁寧な説明や避難道路の整備など7項目の確認を国に求めた。
2025年12月22〜23日
地元同意
県議会が知事を信任し、翌23日に知事が赤沢経産相に同意を伝えた。東電は24日に起動1月20日・営業運転2月26日の予定で使用前確認を申請した。
2026年1月21日
再稼働
午後7時2分に原子炉を起動、8時28分に臨界。22日午前0時28分に制御棒の警報が鳴り、23日午前0時13分に原子炉を停止した。
2026年2月6日
東電が警報の原因と対策を公表し、2月9日の再起動と3月18日の営業運転開始を発表。

株価は11月の高値から3割安、2月6日は再起動の発表で7%高

東電HD株は2月6日に634円で引けた。再起動の予定を発表したこの日は前日比7.1%高で、出来高は1億644万株と1月の1日平均の1.2倍だった。ただ、この634円は再稼働を待っていた2025年11月13日の高値934円より32%低い。知事の容認が近いと伝わった11月に株価は高値を付け、容認が決まった後は売りが先行し、再稼働した日から2週間で23%下げた。節目の終値を手元の日足で並べる。

日付 出来事 終値 前日比
2025年4月7日 関税ショックで取引時間中に360円の安値 376円 —
11月13日 知事の容認が近いとの観測で2025年の高値 934円 —
11月21日 知事が容認を表明。翌営業日の25日は6.4%安(出来高1億8,314万株) 817円 -2.0%
12月23日 知事が国に同意を伝達 665円 +2.5%
2026年1月21日 6号機を再稼働(出来高9,184万株) 720円 +5.1%
1月27〜28日 26日の引け後に最終赤字6,410億円の予想と新しい再建計画を公表。2日で16%安 557円 -8.0%、-8.6%
2月6日 2月9日の再起動を発表(出来高1億644万株) 634円 +7.1%

1月27日と28日の下げは、26日の引け後に出した2つの発表への反応だ。東電は第2四半期まで「再稼働の時期を見通せない」として通期の業績予想を出していなかった。この日に再建計画が国の認定を受けたのに合わせて、6,410億円の最終赤字を初めて示した。赤字の中身は次の節で書く。2月9日は衆院選の結果を受けて日経平均が3.9%上がる全面高だったが、東電は0.3%高の636円で、再起動の材料は前の週に消化されていた。

14年ぶりの再稼働と、警報から1日で決めた計画停止

6号機は改良型沸騰水型軽水炉(ABWR=従来の沸騰水型を改良した炉型)で、出力は135.6万kW。新規制基準の下で再稼働した原発では、関西電力の大飯3・4号機と九州電力の玄海3・4号機の118万kWを上回って最大になる。1〜7号機を合わせた821.2万kWは、1つの発電所として世界最大級の規模だ。

起動までにもつまずきがあった。1月14日の定例試験で別の制御棒に同じ警報が出て、部品を交換していた。17日には制御棒の引き抜きを防ぐ警報が鳴らない不具合で、起動を予定の20日から21日に1日遅らせていた。21日午後7時2分に原子炉を起動し、8時28分に臨界に達している。

22日午前0時28分、制御棒を引き抜く途中で、制御棒のモーターを動かすインバーター(モーターの回転を電気的に制御する装置)の故障を知らせる警報が鳴った。午前8時3分にも同じ警報が出て、午後3時30分に発電所長が原子炉の停止を決め、23日午前0時13分に止めた。

東電は東芝の工場で約600回の試験と約900回のシミュレーションを重ね、原因を突き止めている。2023年の設備更新で入れ替えたインバーターには「欠相」(配線の断線)を検知する機能が付いていた。モーターが動き出すときに電流の立ち上がりが正常の範囲で遅れるのを、この機能が断線と誤って検知していた。

対策は設定値の調整ではなく、全部の制御棒のインバーターでこの検知機能を「検知しない」設定にすることだった。原子力規制庁は2月4日の規制委員会で「警報の設定に誤りがあった」と報告し、山中委員長は規制当局が介入するほどの重要度ではないとした。東電は2月6日に原因と対策を公表し、9日午後2時に制御棒を引き抜いて再起動する。15日ごろに発電を始め、20日ごろに原子炉を一度止めて点検した後、出力100%で3月18日に営業運転に入る予定だ。

項目 12月24日の申請 変更後 遅れ
原子炉の起動 1月20日 1月21日 → 2月9日 19日
営業運転の開始 2月26日 3月18日 20日

市場価格13.5円/kWhとの置き換えで年約1,000億円の改善

「1基で年約1,000億円」の出所は、1月26日に国の認定を受けた第五次総合特別事業計画の脚注にある。出力135.6万kWの原発が動いた電気を、市場価格の約13.5円/kWhで買っていた電気と置き換えると仮定した計算だ。燃料価格や設備利用率の前提は書かれていない。東電の説明会資料では1基で年約100億kWhを発電し、これは管内の需要約2,600億kWhの4%にあたる。

原発の電気が安いのは、燃料費が小さいからだ。資源エネルギー庁の発電コスト検証ワーキンググループが2021年に出した2030年の試算では、1kWhを作るコストは次のとおりだ。燃料費だけならLNG火力の6.0円に対し、原子力の核燃料サイクル費用は1.7円(2020年の値)にとどまる。原子力の数字には追加の安全対策費1.3円と事故リスクへの備え0.6円以上が入っている。

電源 発電コスト(円/kWh、2030年) うち燃料費
原子力 11.7〜 1.7(核燃料サイクル費用、2020年)
LNG火力 10.7〜14.3 6.0
石炭火力 13.6〜22.4 —
事業用太陽光 8.2〜11.8 —

6号機の135.6万kWを設備利用率80%で1年動かすと発電量は約95億kWhになり、1kWhあたり10円強の差で年1,000億円に近づく。東電にとっては大きい数字だが、福島の賠償と廃炉に確保したい資金は年約5,000億円で、1基ぶんはその2割にあたる。

経常黒字でも最終赤字6,410億円、続く無配

1月29日に出た第3四半期決算の数字を、26日に初めて公表した通期予想と並べる。本業と金融収支を合わせた経常利益は3,475億円の黒字だが、最終損益は6,626億円の赤字になっている。

項目 4〜12月実績
(前年同期比)
通期予想
(前期比)
前期実績
(2025年3月期)
売上高 4兆6,121億円(▲7.1%) 6兆4,620億円(▲5.1%) 6兆8,104億円
経常利益 3,475億円(▲0.3%) 2,770億円(+8.9%) 2,544億円
最終損益 ▲6,626億円 ▲6,410億円 1,613億円

赤字の原因は、福島第一原発の燃料デブリ(事故で溶け落ちた核燃料の塊)を取り出す費用だ。2025年7月に原子力損害賠償・廃炉等支援機構の小委員会が取り出しの準備作業のあり方を示し、準備だけで12〜15年かかる見通しになった。東電は2025年度の第1四半期に9,030億円の災害特別損失を計上し、4〜12月の累計は9,056億円になっている。経常利益の段階では黒字でも、この特別損失で最終損益が赤字に変わる。

「年約5,000億円」は、2016年に国が整理した廃炉年0.3兆円と賠償年0.2兆円を足した資金確保の目標で、東電が毎年払っている実額ではない。2017〜2024年度の実績は平均4,267億円と目標に届いていない。内訳は、賠償の原資として機構に納める特別負担金と一般負担金、廃炉のために積み立てる廃炉等積立金の3つだ。2024事業年度の認可額は合わせて約3,900億円だった。

事故の処理費用の政府想定は2023年末に約23.4兆円へ増えたが、増えたのは賠償と中間貯蔵の分で、廃炉の8兆円は変わっていない。東電が2011年から払ってきた賠償などは2025年9月末までに約11.6兆円、廃炉の支出は約2.1兆円になる。

廃炉費用の年ごとの計画は、2025年4月に経産大臣が承認した廃炉等積立金の取戻し計画にある。

年度 廃炉費用 主な内訳
2025年度 2,605億円 使用済燃料の取り出し312億円、汚染水対策300億円、デブリ取り出し187億円
2026年度(暫定) 2,872億円 増加の主因は廃棄物対策(198億円→433億円)。デブリ取り出しは191億円
2027年度(暫定) 2,740億円 次年度の計画で見直す

配当は、普通株式もA種・B種の優先株式も無配が続いている。福島の負担が続く限り配当を再開できる見通しは立たず、これが株価の上値を抑える要因になっている。

7号機は2029年8月、6号機にも2029年9月の期限

7号機(135.6万kW、ABWR)も新規制基準には適合しているが、航空機テロなどに備える特定重大事故等対処施設(特重施設)の工事が遅れている。東電は2025年2月、完成予定を2025年3月から2029年8月に改めた。設置の期限だった2025年10月13日を過ぎると原子炉を使えないため、8月に装荷済みの核燃料を10月21日から取り出す方針を公表している。再建計画は7号機を2029年度中に動かす前提だ。

見落としやすいのは6号機の側で、6号機の特重施設は設置期限が2029年9月、完成予定が2031年9月になっている。工事が間に合わなければ、今回動かした6号機も2029年9月で止まる。2基がそろって動く期間は、計画どおりでも2029年度から2年足らずしかない計算になる。

号機 出力 状況 年間の収支改善
6号機 135.6万kW 3月18日 営業運転予定 約1,000億円(東電)
7号機 135.6万kW 2029年8月 特重施設の完成予定 約1,000〜1,200億円(東電の1基あたりの試算と日刊工業新聞の報道)
合計 271.2万kW — 約2,000〜2,200億円

2基で年約2,000億円なら、福島のために確保したい年5,000億円の4割をまかなえる。ただ、その状態になるのは早くても2029年度で、それまでは6号機1基だけで福島の費用を払い続ける。

残るリスクと、自分が定点観測する点

営業運転に入った後も、株価を動かす材料はほとんどが停止と費用の側にある。発生しやすさと影響の大きさを自分なりに分けて整理した。

リスク 起きやすさ 影響 中身
追加のトラブルと再延期 中 中 14年止めていた大型炉で、1月だけで制御棒に関わる不具合が3回出た。3月18日の営業運転までに試験の工程が残る
規制と特重施設の期限 低 高 規制委の検査は営業運転の後も続く。6号機の特重施設が2029年9月に間に合わなければ停止になる
地元の反応 低 高 県民投票を求めた14万3,196人の署名は2025年4月に県議会が否決した。再稼働直後の停止で不安は残っており、重大な事故が起きれば同意の前提が崩れる
福島費用の増加 高 高 デブリ取り出しは準備だけで12〜15年。東電が見込む廃炉全体の費用約5.4兆円が、作業の進み方で膨らみうる
LNGや電力市場価格の低下 低 中 年1,000億円は市場価格13.5円/kWhとの差で計算した値で、LNG価格や市場価格が下がれば改善幅も縮む

トラブルや不祥事の開示が株価にどう響くかは、適時開示141件で下落と回復を検証した記事で整理している。一方で電力の需要そのものは、AI向けのデータセンターを中心に増える方向にある。米国の電力需要の急増を整理した記事で書いたとおりで、安く安定して発電できること自体の価値は日本でも高まりつつある。

▶ まとめ

6号機の再稼働は東電の再建にとって大きな一歩で、改善の中身は燃料費の差という確かな仕組みに基づく。ただし1基では福島の負担をまかなえず、赤字の構造は変わらない。7号機が動いて2基そろうのは早くても2029年度で、しかも6号機自身に2029年9月の期限がある。

「再稼働すればすぐ株価が上がる」とは考えないほうがいい。知事容認から再稼働までの半年で期待は株価に入り、2月6日の634円は11月の高値より3割低く、配当も無配のままだ。2025年を振り返っても、4月2日は電源盤の火災で5.0%安、7月1日はデータセンター参入の報道で10.0%高だった。9月3日は知事の発言で7.0%安と、期待で買われた分だけニュースに振れている。

自分がこの株を見るなら、3月18日に営業運転に入れるかと、6号機と7号機で特重施設の工事がどこまで進んだかを追う。四半期ごとには福島関連費用が計画の2,605億円のペースに収まっているか、特別負担金の認可額が1,000億円に近づいていないかを確かめたい。再建計画の前提は原油97ドルと1ドル150円なので、どちらかが大きく外れたときも見立てを変える。

※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。

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