2月6日の朝、メタプラネット(3350)の株は前日の終値より51円安い309円で寄り付いた。前日の夜にビットコイン(BTC)が急落し、6日の朝には1BTCが1,000万円を割っていた。この日の終値は340円で、2025年6月16日の終値の高値1,895円から82%下がった。
BTCの保有量は3万5,102枚と上場企業で世界4位になり、1株あたりのBTCも2025年の1年で6倍を超えた。それでも株価が下がったのは、BTCの値下がりに加えて、株価が保有BTCの価値に上乗せしていた分が消えたからだ。BTCを持つ会社の株を持つことが、BTCそのものを持つのとどう違うのかを、開示資料と株価の数字で確かめる。
目次
高値からの8か月の動き
6倍になった1株あたりのBTCと、消えた株価の上乗せ
会社は、1株あたりのBTCの増え方をBTCイールドと呼んで公表している。2025年は1年で568%、つまり6.7倍になった(新株予約権などがすべて株になった場合の株数で計算)。株価がBTCの値段どおりに動くなら、1株の価値も大きく増えたはずだ。年末の数字を並べると、そうならなかった理由が見える。
| 項目 | 2024年末 | 2025年末 |
|---|---|---|
| 保有BTC | 1,762枚 | 3万5,102枚 |
| 発行済株式数 | 約3.6億株 | 約11.4億株 |
| 1億株あたりのBTC | 486枚 | 約3,080枚 |
| 1BTCの値段 | 約1,455万円 | 約1,383万円 |
| 株価(年内最後の終値) | 348円 | 405円 |
| 時価総額 | 約1,260億円 | 約4,620億円 |
| 保有BTCの時価 | 約260億円 | 約4,850億円 |
| 時価総額÷保有BTCの時価 | 約4.9倍 | 約0.95倍 |
株価は2025年4月1日の株式分割(1株を10株に)の後の基準で、2024年末の株数は決算短信の期末発行済株式数を10倍した値、2025年末は9月に増資した後の値を使った。1BTCの値段は、12月30日の円建ての終値だ。
1株あたりのBTCは1年で約6倍に増え、BTCの値段は5%ほど下がっただけなので、1株が持つBTCの価値は6倍近くになった。一方で株価は348円から405円へ16%上がっただけだった。2024年末は時価総額が保有BTCの時価の約4.9倍あり、株を買う人は、BTCの値段に加えて、会社がこれからBTCを増やしていくことにも値段を払っていた。その上乗せが、2025年末にはなくなっていた。
上乗せがあるうちは、新株を出して集めたお金でBTCを買えば、1株あたりのBTCを増やせる。時価総額がBTCの時価を下回ると、同じことをしても1株あたりのBTCはかえって減る。2月6日の終値340円で計算すると時価総額は約3,880億円で、1BTCが1,000万円なら保有BTCの時価(約3,510億円)の1.1倍ほどにとどまる。
BTCは3万5,102枚、平均の取得単価を4割近く下回る水準
12月30日の開示では、保有は3万5,102枚、平均の取得単価は1BTCあたり1,594万5,691円だった。上場企業の保有量では、Strategy、MARA、Twenty One Capitalに次ぐ4位にあたる。2025年を通じて高い値段で買い増したため、取得単価が上がった。
2月2日のBTCは約1,160万円で、取得単価を27%下回っていた。保有全体の含み損は約1,500億円になる。6日の大引けのころには約1,000万円まで下がり、取得単価を4割近く下回って、含み損は2,000億円を超えた。
会社は、2026年末に10万BTC、2027年末に21万BTCを持つ目標を掲げている。10万BTCにはあと約6万5,000枚が要り、1BTCが1,000万円でも約6,500億円かかる。いまの時価総額(約3,880億円)より大きく、株を増やさずに集められる金額ではない。
ホテルの会社からBTCを買い集める会社へ
前身は、1999年に神奈川県で設立された音楽CDの企画・販売会社のダイキサウンドだ。社名の変更を経て、2012年12月にホテルチェーンのレッド・プラネットの持ち株会社が出資し、2013年にホテル事業を始め、2014年に社名をレッド・プラネット・ジャパンに変えた。2023年2月に社名をメタプラネットに変えたときは、Web3やメタバースを主力にする計画だった。BTCを初めて買ったのは2024年4月(97.85BTC)で、5月にBTCを財務の中心に置く方針に切り替えた。
いまの事業は、BTCを買って長く持つこと、BTCのオプション(決まった値段で売買する権利)を売って代金を受け取るビットコイン・インカム事業、ホテル事業の3つだ。インカム事業は専用の資金枠の中で取引し、長く持つためのBTCとは分けて管理していると会社は説明している。2025年の売上高は、インカム事業が86億円(見込み)で大半を占める。
営業利益は約18倍、BTCの評価損で766億円の赤字
会社は1月26日、2025年12月期の業績の見込みと、2026年12月期の予想を公表した(業績予想の修正とBTC評価損の計上のお知らせ)。
| 項目 | 2024年12月期 実績 |
2025年12月期 見込み |
2026年12月期 予想 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 10.6億円 | 89.1億円 | 160億円 |
| 営業利益 | 3.5億円 | 62.9億円 | 114億円 |
| BTC評価損(営業外費用) | — | ▲1,046億円 | 予想なし |
| 経常損益 | 59.9億円 | ▲985億円 | 予想なし |
| 純損益 | 44.4億円 | ▲766億円 | 予想なし |
※2025年12月期の決算短信は2026年2月16日に公表の予定。
営業利益は、インカム事業のオプション料で前期の約18倍になる見込みだ。それでも、年末のBTCの値下がりで1,046億円の評価損を営業外費用に計上し、経常損益は985億円、最終損益は766億円の赤字になる。会社は、評価損は四半期末の一時的な価格の変動を反映した会計上の評価の調整で、現金収支や事業に直接の影響はないと説明している。
日本の会計のルールでは、活発な市場がある暗号資産は期末の時価で評価し、値上がりも値下がりもその期の損益に入れる。メタプラネットも2025年は、評価損益の累計が3月末の74億円の損から、9月末には206億円の益に変わり、年末に1,046億円の損になった。最終損益はBTCの値段しだいで大きく振れるので、会社は経常利益と純利益の予想を出していない。
2026年の予想は、売上高160億円(うちインカム事業156億円)、営業利益114億円で、2025年の見込みより8割多い。前年に積み上げたBTCと資金を、オプションの取引に使える枠として回せることが増収の前提だ。BTCの値段が大きく下がれば取引の条件も変わるので、予想どおりになるかはBTC相場にも左右される。
株価を押し下げた3つの動き
一つめはBTCの値下がりだ。1BTCは2024年末の約1,455万円から2025年末には約1,383万円になり、2月6日には約1,000万円まで下がった。時価総額が保有BTCの時価とほぼ同じになった以上、株価はBTCの値段に沿って動きやすい。
二つめは新株の発行だ。9月の増資で株数は1.5倍以上になり、1月29日にも新株と新株予約権の割り当てを決めた。普通株の発行可能株式総数は38.33億株で、発行済み(約11.4億株)の3倍を超える。12月に出したB種の優先株は、年4.9%の配当を払ううえ、1株1,000円で普通株に換えられるので、2,361万株分の新株の予備にもなる。上乗せが消えた後の新株の発行は、1株あたりのBTCを増やす効果が小さい。
三つめはJPXの報道だ。Bloombergは11月13日、JPXが、上場していない会社が上場企業を使って審査を受けずに上場する「裏口上場」を防ぐルールをより厳しく当てはめることや、改めて監査を受けさせることを検討していると報じた(Bloombergの報道)。正式な方針は決まっていないが、上場を保ったまま暗号資産を買い集める会社への見方は厳しくなった。
Strategy(旧MicroStrategy)との違い
メタプラネットは「日本版MicroStrategy」と呼ばれる。手本にしたStrategy(旧MicroStrategy)と並べると、規模と本業の差が大きい。
| 比べる点 | Strategy(米国) | メタプラネット(日本) |
|---|---|---|
| BTC保有 | 71万3,502枚(2月1日) | 3万5,102枚(2025年末) |
| 保有の開始 | 2020年8月 | 2024年4月 |
| 本業 | 企業向けソフトウェア | BTCのオプション取引と、小規模なホテル |
| 主な資金の集め方 | 転換社債、市場で少しずつ新株を売るATM増資、2025年に上場させた5種類の優先株 | 行使価額が株価に合わせて変わる新株予約権、海外での公募増資、優先株 |
| 上場市場 | Nasdaq | 東証スタンダード |
| BTCの会計 | 2025年から新しい基準(ASU 2023-08)で時価評価 | 日本のルールで時価評価 |
Strategyは2020年からBTCを買い、保有はメタプラネットの約20倍ある。ソフトウェア事業という別の稼ぎ口も持つ。メタプラネットはBTCを持ちはじめて2年足らずで、利益の大半はBTCのオプション取引から出ている。BTCの評価は、Strategyも2025年から時価に変わり、どちらも値上がりと値下がりを損益に入れる。会計の扱いで、メタプラネットだけが不利になっているわけではない。
BTCの保有量と株主の儲けは別物
BTCの保有量と株主の儲けは別物だ。メタプラネットはBTCを増やすことでは結果を出し、1株あたりのBTCも6倍になった。株主が儲かるかどうかは、それに加えて、株価がBTCの価値の何倍で取引されるかで決まる。2024年末に約4.9倍あった倍率が1倍前後まで下がったので、1株あたりのBTCが6倍になっても株価はほとんど上がらなかった。
いまのメタプラネットの株は、BTCの値段にほぼ沿って動く株になった。倍率が1倍前後のままでは、新株を出してBTCを買っても株主の取り分は増えにくい。目標の10万BTCに向けた資金集めは、優先株やオプション料に頼る割合が高まると見ている。
自分がこの株を持つかどうかを考えるなら、まず時価総額と保有BTCの時価の倍率を見る。1倍を下回っているのに新株の発行が続くなら、1株あたりのBTCが減っていないかを確かめる。2月16日の決算短信では、評価損の確定額と、インカム事業が2026年に何を前提に156億円を見込んでいるかを見ておくつもりだ。下げ続ける銘柄に個人の信用買いが集まった後の値動きは、後日、57万件の日証金データで検証した記事で確かめた。
※本記事は公開情報に基づく情報整理であり、個人の見解を含みます。特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。